詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

破棄された詩「けやき通り」のための注釈(29)

2015-04-15 01:11:37 | 
破棄された詩「けやき通り」のための注釈(29)

「並んでいる」ということばがつかわれているのは、木がそれまで見てきた木というものはかってに生えているものだったからである。強い衝撃で暗闇に突き落とされたあと、気がついたとき、木は木が並んでいるのに気づいた。

「高い木が並んでいる」と言いなおされたのは、木が並んでいるだけではなく高さがそろっていることに気づいたからである。枝はいずれもビルの三階の高さから斜めに伸びている。横に広がると切られてしまうので、斜めに伸びることを自然におぼえたのだった。

「高い」は「上の方」と書き直されると、そこではざわざわとした騒ぎが始まった。幼さが、あたりにもやのようなものを吐き出し、少しでも早く緑の色を濃くしようと競っているのがわかった。木は、その木の欲望をなつかしく感じた。

「なつかしい」とは「おぼえている」ということばといっしょに動いている。木は、ほかの木のことは忘れてしまったがその木のことをおぼえている。その木は「水が石にぶつかり、飛び越しながら流れている」と言い、そこから春が始まった。

木は、「流れる」ということばに誘われて、枝がつつみこむ道の下を走る車は何を頼みにしているのだろうと疑問に思った。「信号の指図は短調で、止まれと進めを繰り返すだけである」と書いたところで、木のことばは中断した。信号に止まる車のように。

詩の中断について私が知っているのは、木が「どうしても鳥の世話がしたいのだ」ということばを書きたくなったと思ったからだ。「止まる」ということばが鳥を空から呼び出したのだ。だが、どこにも「とまる」鳥はいない。枝は、その軽さに苦しんでいる。







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