破棄された詩のための注釈(14)
長い口論がおわりかけたころ「ひとり」が「あらわれた」。読んだことを忘れてしまった本に引かれていた「傍線」という静かな比喩をひきつれていた。
「くちびるの上に微妙な笑みが浮かぶのを感じた」。何の本に書かれていたことばか、詩人は注釈をつけていないが、創作かもしれない。口論の相手のくちびるではなく、自分自身のくちびるの上に、と読むと「ひとり」が「あらわれた」ということがわかりやすくなる。他人の感情以上に、自分自身の感情は止めることができない。それを認めたくないので「ひとり」と他人のように書く。
もうひとりは、つまり相手は「突然の沈黙」をくちびるの縁にみつけ、表情の「行間」を読もうとした。しかし、そういうこころと肉体の関係をあらわすには、この三連目はあまりにも未熟である。「突然の沈黙」は陳腐すぎる。ここに、この詩の失敗がある。
四連目、「自分自身の内部にある鏡に憎しみを映して確かめている」と書いて、数日後「憎しみ」を「悲しみ」に変えている。「くちびるの上の微妙な笑み」は、詩人が口論の相手に見つづけたもの。無意識にそれを真似て反逆しようとした。他人の悲しみに見向きもしない、「その人」に。
「ひとり」か「その人」か。人称の差異のなかでおわる一日。
*
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購読ご希望の方は、谷内修三(panchan@mars.dti.ne.jp)へお申し込みください。1800円(税抜、送料無料)で販売します。
ご要望があれば、署名(宛名含む)もします。
「リッツオス詩選集」も4400円(税抜、送料無料)で販売します。
2冊セットの場合は6000円(税抜、送料無料)になります。
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思潮社 |
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リッツォス詩選集――附:谷内修三「中井久夫の訳詩を読む」 | |
ヤニス・リッツォス | |
作品社 |
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