谷川俊太郎詩集『虚空へ』百字感想(22)
(音楽の束の間に)
音楽の束の間に
身を委ね
いつか知識を
蔑んでいた
何一つ
私は
知らない
過去の奥
未来の深み
物語を
始めたくない
言葉が
私を掠めていく
今
*
最後の「今」。私はここで目が覚める。「今」だけが「物語」に属さない。「過去」も「未来」も持たない。「今」は「束の間」に通じる。「今」は、どこからやってきて、どこへ行くか。「音楽」だけが知っている。
*
(生まれる前の)
生まれる前の
無名無縁の
いのち
私?
胞衣を
纏い
羊水に
浮き
すでに
死を
知っていた
あどけない
この世の
終始を
*
そうかもしれない。想像力は生まれる前のことも死んだ後のこともことばにすることができる。しかし、そのことばは、どこからやってきたのか。たとえば「胞衣」を谷川は生まれる前から知っていたと言えるだろうか。
*
(問いがそのまま)
問いが
そのまま
未来の
答え
言葉が
出来ないことを
音楽は
する
魂が
渇く
この数小節
調べとともに
輪廻する
私
*
「音楽」と「輪廻」。それをつなぐのが「魂」か。私は「魂」ということばは知っているが、その存在を感じたことがない。「渇く」のは、何に対して渇くのか。「輪廻する」ことを「魂」は欲しているのか。