詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

「一読者」を叱る(谷川俊太郎の死とその報道その2)

2024-11-24 18:10:35 | 考える日記

 「谷川俊太郎の死とその報道」という文章を11月20日に書いた。この文章に対して、「一読者」というひとから、コメントがあった。22日の午前3時12分という、たいていのひとが眠っている時間に書き込まれていた。

新聞が違います (一読者)2024-11-22 03:12:53
東京では「20日の朝刊」ではなく、朝日、毎日、日経、読売の「19日の夕刊」で谷川さんの事が詳しく報道されていました。読売は19日の朝刊にも簡単な情報が出てました。あなたが住んでいる地域とは新聞の発行事情が違っています。そうことも考えた上で書いたほうがいいと思いますよ。谷川賢作さんの19日朝のfacebookの書き込みを読みましたか。葬儀は18日だったそうで、この時点では読売の報道はされていません。当然、静かに家族で見送ったことでしょう。あなたが怒る理由が何かありますか。

 私は新聞発行事情が違うことは知っている。だからこそ、私が最初に知ったのは19日の読売新聞朝刊(西部版・14版)だと明記し、「証拠」の写真も載せている。「一読者」は

東京では「20日の朝刊」ではなく、朝日、毎日、日経、読売の「19日の夕刊」で谷川さんの事が詳しく報道されていました。

 と書いているが、これはほんとうだろうか。私は確認していないのだが、あの記事は西部版14版だけに掲載されたものなのか。「一読者」が、東京のどこに住んでいるか知らないが、東京で発行される新聞は一種類ではないだろう。東京といっても広くて、地域によって発行されている新聞の内容が違うのではないか。「14版」の新聞と「13S版」の新聞、もしかすると「13版」も一部地域には配布されているかもしれない。これは福岡県内でも「14版」と「13S版」があり、同じ新聞が配布されているわけではないことから推測して書いているので、間違っているかもしれないが。
 (新聞の「○版」というのは、朝日新聞、毎日新聞、読売新聞では、欄外のページ番号の近くに印刷されている。一面なら、左上の「1」の近く、その右側に印刷されている。数字が大きくなるほど、最新のニュースになる。)-
 新聞は、同じ新聞でも、地域によって原稿の締め切り時間が違うかもしれないだろうから簡単に推測はできないが、谷川俊太郎の死亡記事が読売新聞西部版(14版)だけに掲載されているとは信じられない。一面に掲載されるような特ダネ記事が、西部で発行される新聞だけに、先に掲載されるとは信じられない。東京で発行されている14版にも、大阪発行の14版にも、きっと掲載されているはずである。西部管内の読売新聞の記者が谷川俊太郎死亡の事実を知り、それを西部の新聞だけに掲載したということは、多分あり得ない。それに、もし西部の記者がつかんだ特ダネであるにしろ、あの記事は不完全すぎる。そういうあいまいな記事を西部の編集部が独自の判断で紙面化できるとは私には理解できない。これも推測でしかないので間違っているかもしれないが、「一読者」が読んだ読売新聞は「14版」ではなかったのではないか。
 「一読者」は新聞事情に詳しいようだから、何かを隠しているのかもしれない。「一読者」が東京で発行されている読売新聞の何版を読んだかを書いていないことに、私は疑問を持っている。もし、東京で発行されている19日の読売新聞14版に谷川俊太郎死亡の記事が載っていないというのなら、その「証拠写真」を見たいものである。私は、19日の西部版・14版を掲載した上で、読売新聞の姿勢を批判している。批判には「証拠(根拠)」が必要だと私は考えている。
 朝日、毎日、日経の「19日の夕刊」に谷川死亡の記事がのったのは、これはいわゆる「追いかけ」というものである。読売新聞の記事を読み、あわてて取材して夕刊に掲載したのだろう。読売新聞が夕刊でもその記事を載せているのは、朝刊の記事に不備があったからだ。その不備というのは、前のブログにも書いたが、死亡日時が不明(遺族が明かさないこともあるから、必ずしも間違いではないが)、死因がない(これも遺族が明かさないことがあるから、間違いではない)、一般に書かれている喪主が誰なのか書いていない(これも遺族が明かしたくないときは書かないだろう、書けないだろう)。それを補うために、すでに報道したニュースだけれど、夕刊で「補足」するために掲載したのだろう。新聞事情に詳しい「一読者」がどう判断しているのか知らないが、私はそう推測している。

 私が読売新聞の「初報」で問題にしたのは、いま、書いたことである。どうしても、記者が遺族に(「一読者」が書いている文章に則して言えば、谷川賢作に)、谷川俊太郎の死亡を確認して書いた記事とは思えない。もし谷川賢作に取材しているのなら、何日に死んだか、死因は何か、喪主はだれかは書けるはずである。確認していないから書けない。そして、夕刊では、それを確認したから記事にし、「死亡記事」を「完成」させたのだ。新聞事情に詳しい「一読者」なら、新聞の死亡記事がどういうスタイルで書かれているか知っているだろう。名前、年齢、肩書(ときには簡単な略歴)、死亡した日、死因、喪主(ときには住所を含む)、葬儀の日程(時には会場名を含む)などは必須事項であり、遺族が公表を拒んでいるときは、たとえば「死因は明らかにしていない」「住所は公開していない」などと補足する新聞もある。
 繰り返しになるが、そうした事実を遺族を通して確認したからこそ、「追いかけ」の形で書いている朝日新聞などには、それが明記されている。(読売新聞も、それを追加している。)不備な記事と完全な記事を比較するために、私は「証拠」として朝日新聞の記事も引用している。

 「一読者」が書いているように、谷川賢作がFacebookで谷川俊太郎の死を公表したのは、19日の朝である。つまり、読売新聞の報道のあとである。(朝のニュースのあとかどうかまでは、私は知らない。)遺族が公表する前に、どうして読売新聞は谷川俊太郎死亡の記事を書くことができたのか。
 新聞事情にくわしい「一読者」がほかに何を知っているか(何を隠そうとしているか)知らないが、私が推測する限り、谷川俊太郎の死を知りうるひと、谷川に親しいひとが、その情報を読売新聞の記者に「リーク」したのである。私は邪推が好きな人間だから思うのだが、こういう「リーク」をするのは読売新聞からの何らかの「見返り」を期待してのことだろう。(たとえば読売新聞に寄稿し、原稿料をもらうとか。)
 遺族が公表しないなら、公表されるまで待っていてもいいだろう。いったい、その「リーク」したひとは何が目的で「リーク」したのか。
 さらに。
 谷川俊太郎は、「感謝」という詩が朝日新聞に掲載されたように、朝日新聞と強いつながりがある。もし「リーク」するなら、なぜ朝日新聞の記者に「リーク」しなかったのか。これも考えてみる必要があるだろう。
 遺族がいつ公表するつもりだったか知らないが、谷川俊太郎の詩は毎月連載されている。少なくとも朝日新聞は、その締め切り日までには必ずその事実を知ることになるだろう。原稿が来なければ問い合わせるだろう。隠したくても、隠せないだろう。そういう関係のある朝日新聞ではなく、読売新聞なのは、なぜなのか。
 私は、「リーク」しただれかに対して怒っているのである。遺族が発表するまで、静かに待っていて、いったい何の不都合があるのだろう。黙っていると、そのひとは、何か損害でも受けるのか。さらに、そのひとは谷川俊太郎の死を知らせてくれたひとから「口止め」はされなかったのか。「遺族が○日に公表するから、それまでは多言しないように」と言われなかったのか。ふつう、「秘密」を語るとき、たいていのひとは「多言しないように」と付け加える。もちろん、言いふらしてほしくてわざと「多言しないように」ということもあるだろうが、谷川俊太郎の死は、そういう類のものではないだろう。
 いったい、遺族に確認せず(無断で)、その家族の死を公表する(報道する)権利が新聞にあるのだろうか。そんな非礼なことを、新聞に限らず、人間がひととしてしていいことなのか。私がいちばん怒っているのは、ここである。

 「一読者」の文章では、私は、次の部分にも非常に驚いた。

葬儀は18日だったそうで、この時点では読売の報道はされていません。当然、静かに家族で見送ったことでしょう。

 葬儀がすめば、それで遺族が「静かに家族で見送った」ことになるのか。遺族は、葬儀がすめば、もうさっぱりと谷川俊太郎の死を忘れて、日常生活にもどるのだろうか。葬儀のあとも、こころは揺れ動いているだろう。遺族がこころを落ち着けて、谷川俊太郎の死を公表する、ということがどうして待てないのか。
 読売新聞の報道が19日、つまり葬儀の18日のあとなので、何も問題がないとどうして言えるのだろうか。
 「一読者」はネットの情報にも詳しいようだが、谷川賢作以外のひともいろいろ谷川について書いている。そのなかには、「コメントをもとめられて忙しかった」というようなことを書いているひともいる。遺族でなくてさえ、そういうことに引き込まれ、「静か」ではいられなくなるひとがいる。遺族であるなら、たぶん、同じような対応に終われるだろう。だからこそ、たとえば谷川賢作も「コメント欄は「記帳コーナー」のようにあけておきますが、個々への返信はできません。お許しください。メッセージも同様です。」と「一読者」が読んだFacebookに書いている。なかなか「静か」にはなれないのである。そういうことがわかっている(想像できる)からこそ、遺族はすぐに谷川俊太郎の死を公表しなかった。

 「一読者」は新聞事情に詳しすぎて、こうした、ごく一般的な人間の動きを見落としているのだろう。「情報通」にはなりたくないものである。

*
この記事を読んだあと、東京と大阪で発行されている読売新聞の14版の紙面を送ってくれた。
私が推定して書いているように、14版の四面には載っている。「一読者」がどこに住んでいるか知らないが、「一読者」が住んでいるのが東京だとしても、そこは14版の配布地域ではないのだろう。
谷川俊太郎が住んでいるところに14版が配布されているかどうか知らないが、東京や大阪でも配布されている。
「一読者」は「事情通」であるけれど、私以上に「推定」だけで私の書いていることが間違いのように書いている。
「推定」だけでは間違えることがある。「伝聞」だけでは、それが正しいかどうかわからない。
だからこそ、私は読売新聞の記事が許せないと書いたのだ。
もし読売新聞に「リーク」したひとの情報が間違っていたら、どうなるのか。生きている人を「死者」にしてしまう。
最低限、家族に「事実」を確認すべきなのだ。「事実」を確認したら、そのときその家族は「喪主」がだれか、いつ死んだかくらいは正直に話してくれると思う。
そういうことを読売新聞の記者はしていない。

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