詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

高柳誠『フランチェスカのスカート』(8)

2021-06-16 09:41:32 | 高柳誠「フランチェスカのスカート」を読む

 

高柳誠『フランチェスカのスカート』(8)(書肆山田、2021年06月05日発行)

 「手紙(一)」。主人公(?)船旅をしている。船旅は慣れることがない、という。その理由は。

  人間が海の上で過ごすこと自体、きっと道理から外れているのだろ
  う。なにしろ四六時中揺れている。足元が定まらないのは、やはり
  自然に反することなのだ。

 「道理から外れている」「自然に反する」ということばに注目した。「道理」と「自然」は同じ。「外れる」と「反する」は同じ。
 そのとき、何が起きるのか。
  
                        まだ見たこともな
  い未知なものに世界は満ちている。

 「見たこともない」ものが「世界」としてあらわれる。「見たこともない」は「道理」が見つかっていないということだろう。「道理」から解放された世界といえるかもしれない。あるいは、「自然」よりも、もっと「自然」なもの。私たちがふつうに「自然」というとき、そこには意識されない「道理」が隠れているが、その「道理」がまだ発見されていない(道理によって支配されていない)世界。それが「未知」というもの。たとえていえば「渾沌」とした世界が、「未知」を隠している。「未生の自然」といえばいいのか。
 それを「ことば」でとらえる。「ことば」で再現する。ちょうど「手紙」を書くように。つまり、「未生の自然(未知なもの)」が、ことばによって「生み出される」。ことばは、そういうものを「生み出す」ためにある。
 その実践例。

  スコールと夜空を焦がす稲妻に、とても立ってはいられない。こち
  らの稲妻は、水平線から立ち上がりたちまち空をかけ昇って、光の
  刃で視界を切り裂く。

 それは、

            命の心配を忘れて見とれるほどの壮絶な美し
  さだった。

 高柳は「道理から外れ」「自然に反する」ものを、ことばで生み出そうとしている。


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