高柳誠『フランチェスカのスカート』(21)(書肆山田、2021年06月05日発行)
「風の声」。高柳の詩を読むための手がかりになるようなことばがたくさん出てくる。たとえば、
一つが途絶えたかと思うと、また別の一つが湧きおこるとい
う具合に、風はたえず死と再生を繰り返しながら世界中を吹きわた
って、その命が涸れることはない。
「死と再生」「繰り返し」。これは「多にして一という特性」とも言いなおされていく。そして、空間と時間を超えるというか、融合するのだが、次の部分で、私は、これは高柳の詩の中ではじめて出てきたのではないかと驚いたことばに出会う。
この町の路地裏には、地
磁気の影響のせいか、こうした縦横に走る風の道が交差して、ひめ
やかな風が吹き溜まり交流する場所がある。ここでは、世界の本質
を直に学ぶことが可能だ。
「直に」には「じかに」。ルビがふってある。私は高柳の詩を繰り返し読んでいるわけではないので断言はできないが、この「直に」にびっくりした。
たとえば「縦横」は「交差」、あるいは「交流」と言いなおされているが、この「直に」は言いなおされない。いや、言いなおされるが、それは「直に」とは相いれないものを描くことで説明されている。視力に頼ってはいけない。風の声を聴き分ける耳をもつことが必要だ、と。そして、最終的に、こう言いなおされる。
自らを虚心にし、
その身体を共鳴装置と化したうえで、体幹を共振させ魂をゆるがす
風の声を選べばよい。
「共振」が「直に」なのである。「振動」を「一つ」にする。ただし「共振」は一体とは違うかもしれない。違う振動によって、新しい和音が生まれるということがある。そして、高柳の詩というのは、実は、この「共振による和音」でできているのだが、その「共振の原理」を「直に」に置いていることがわかる。
この考えは、私には、矛盾に感じられる。しかし、矛盾しているからこそ、「直に」には私の知らない何か、高柳にしかわからない必然性がある。
「世界の本質を学ぶ」ではなく、世界の本質を「直に」学ぶ、と言わなければならない何かがある。
私は実は、高柳が「直に」を求めている詩人だと考えたことがなかった。だから、とても驚いた。
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