詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

菅へのよいしょ(読売新聞の場合)。

2020-09-10 10:04:52 | 自民党憲法改正草案を読む
菅へのよいしょ(読売新聞の場合)。
   自民党憲法改正草案を読む/番外390(情報の読み方)

 2020年09月09日の読売新聞(西部版・14版)は1面。自民党総裁選告示を伝えている。見出し(レイアウト)が特徴的だ。

菅氏「規制改革進める」/3氏出馬14日選出 論戦スタート

という大きな見出しがあって、前文がある。それから

岸田氏 格差是正 石破氏 社会変革

 私に投票権があるわけではない。大半の国民も投票権を持っていないだろう。しかしまがりなりにも「選挙」である。いくら菅が圧勝するとわかっているにしろ、見出しの大きさをここまで差別的にあつかうのはどういうものなのだろう。
 見出しも見出しなら、記事の量も遥かに違う。菅の主張は38行つかって紹介しているが、石破、岸田はふたりあわせて8行。
 いわゆる「公平性」からはるかに遠い。自民党総裁選が告示されたと読むのではなく、読売新聞はここまで菅氏に肩入れしている、と読めばいいだけなのかもしれないが。

この傾向は09月10日もかわらない(西部版・14版)。1面に「続報」がのっている。

菅氏「不妊治療に保険適用」/岸田・石破氏と討論

 この見出しだけでは、菅は「不妊治療に保険適用」と言ったが、岸田・石破は保険適用に反対と言ったかのように受け取られてしまう。
 「少子化対策」はたしかに「安倍政策」の「継承」と言えるのだろうけれど、「少子化」というのは「不妊治療」がいちばんの問題なのだろうか。
 私は違うと思う。
 「少子化」が改善しないのは、「医療」の問題がいちばん大きいのではなく、「子育て」の環境がととのっていないということだ。子供を産んでも、いまの仕事をつづけられるか。子供の養育と仕事を両立できるか。子供の教育費を捻出できるか。いろいろな不安(特に経済不安)があって、子供を産むことを断念しているひとがいる、ということではないのか。
 考えてみればいい。妊娠・出産・育児の期間、会社から、働いているときと同じ給料が出るなら、多くのひとは子供を産むことに消極的にはならないだろう。給料の完全保障は「理想」にすぎないが、最低限、もとの職場、もとの「地位」に復帰できる保障(復帰後も、異動されない保障)が確立されていれば、出産するひとは増えるだろう。子供が自立するまで、育児をサポートする体制をととのえる、教育費・医療費の完全無償化を進めれば、さらにこどもを産み、育てたいと願うひとは増えるだろう。
 いろいろな環境をととのえた上で、「子供を産み、育てたいけれど、妊娠できない」という人に対しての「不妊治療」を進めるべきなのだ。不妊治療をいくら進めても、その後の労働環境、育児環境がととのえられないかぎり、「出生率」は上がらないだろう。
 「妊娠」さえすれば、子供が増える、という視点は、女性を「出産」のための存在と見ていることにはならないだろうか。「妊娠」も大事だが、「出産」後、つまり「育児/教育」も大事なのである。「少子化」は、そういう問題をふくめて解決しないといけない。
 これは、また「のぞまない妊娠」という問題ともむすびつけて考えるとわかることでもある。性被害にあって妊娠した女性、避妊しなかったために妊娠してしまった女性もいる。その人たちをどう救済し、支援していくか。
 「少子化対策」と「不妊治療」は重なる部分もあるが、それがいちばんの重要な問題ではない。

 こういう「だれも反対しない政策」を掲げ、あたかも菅だけが「不妊治療に保険を適用する」という方針を打ち出していると報道するのは、「討論」を矮小化するものだ。
 私は討論会を見ていないのでわからないが、石破にも岸田にも、「だれも反対しない政策」を主張しているなら、それを見出しにとり、三人の主張のうちどれがいちばん大事かを読者に判断させる工夫をしないことには、菅を当選させるために書いている記事ということになってしまう。いくら菅の当選がわかりきったことであるにしても、「選挙報道」としての妥当性を欠いているだろう。
 ちなみに、石破と岸田の発言を見出しにとるとしたら、どうなるか。3人の主張を、読売新聞の記事をもとに、届け出順に並べてみる。(読売新聞は、ふつうの選挙では「届け出順」に紹介するが、総裁選はそうしていない。これは「恣意的」である。)

石破「拉致問題解決へ日朝に連絡事務所」
菅「不妊治療に保険適用」
岸田「地域格差是正へデジタル化推進」

 並べてみると、討論会とはいいながら、ぜんぜんかみ合っていない。こんな討論会を「要約(紹介)」するのに、菅の主張だけを見出しにするのは、あまりにも恣意的だろう。




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