中神英子『一歩』(私家版、発行日不明)
中神英子『一歩』は手作りの本である。コピーを袋とじにして、表紙はヒモで閉じてある。中神が撮ったのだろか、蝶のカラー写真が挿入されている。斎藤茂吉の短歌も挿入されている。ほかは詩が二篇と長い「あとがき」。
「白紙」という作品。
古くさい(?)静けさがある。この場合の「古くさい」は肯定なのか、否定なのか、書いたものの、私にはまだわからない。なんとなく「古くさい」と感じた。それはこの詩集の「手作り感」にも通じている。あ、いまでも、こういう方法があるのだ、それを実行している人がいるのだという驚きと、安心と、不安。
「古くさい」の「否定的」な部分を言えば「女の嘆きで濡れている」。「肯定的」な部分を言えば「淀んだ話で濁した」。
この「淀んだ話で濁した」の「淀んだ」と「濁した」のたたみかける重さが、不思議な手触りとして響いてくる。言ったことばよりも、その「言い方」に中神が身を乗り出している。こういう「肉体の感じ」をもったことばが、私は好きである。
「肉体」に重心を起きながら(あるいはそこを出発点としてと言えばいいのか)、ことばは「精神(意識)」の方へ動いていく。
「それから」は「そのあと」という「時系列」をあらわしている。「その結果」でもある。彼女が「淀んだ話で濁した」がなければ、「白紙」は存在しなかったのである。「淀んだ」と「濁した」が「白紙」を輝かせる。
そこに、不在の、実現しなかった「書いておかなければならないこと」があり、それは「青白い胡蝶の実」として象徴される。「青い胡蝶の夢」と読み直すと、嘘になってしまう。「胡蝶の実」という「もの」だからこそ、事実という詩が生まれる。
これは「意識/精神」そのものを「説明」している。「説明」であることが詩を窮屈にしているとも感じられし、その窮屈さが「深み」への入り口であるとも言える。ここでは、私は「肯定」も「否定」もしない。
すこしつまずく感じがするが、つまずいたのか、踏み台を踏んだのか、判断できない。たぶん飛翔のための踏み台と考えた方がいいだろう。
「煌き」と呼ばれているのは「白紙」だが、それを煌めかせているのは「胡蝶の実」よりも「淀んだ」「濁した」ということばかもしれない。「淀んだ」「濁した」は「しんみり」ということばで「煌き」に静けさを与えている。
「白紙を抱いて去って行ったものら」の「ら」のなかには中神自身も含まれる。中神は、このとき「女」と一体になっている。その「一体感」もまた「煌き」であり、静けさである。
豪華な詩集もいいけれど、こういう手作りの小さな詩集で、静かに詩を読むのもいいなあ。それこそ、「煌き」が残る。
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問い合わせ先 yachisyuso@gmail.com
中神英子『一歩』は手作りの本である。コピーを袋とじにして、表紙はヒモで閉じてある。中神が撮ったのだろか、蝶のカラー写真が挿入されている。斎藤茂吉の短歌も挿入されている。ほかは詩が二篇と長い「あとがき」。
「白紙」という作品。
夜の机にノートが光っている
その上に青白い胡蝶の実が
滅ぶように去った女の嘆きで濡れている
「ここに書いておかなければならないことが
あったんです」
彼女はそれを淀んだ話で濁した
古くさい(?)静けさがある。この場合の「古くさい」は肯定なのか、否定なのか、書いたものの、私にはまだわからない。なんとなく「古くさい」と感じた。それはこの詩集の「手作り感」にも通じている。あ、いまでも、こういう方法があるのだ、それを実行している人がいるのだという驚きと、安心と、不安。
「古くさい」の「否定的」な部分を言えば「女の嘆きで濡れている」。「肯定的」な部分を言えば「淀んだ話で濁した」。
この「淀んだ話で濁した」の「淀んだ」と「濁した」のたたみかける重さが、不思議な手触りとして響いてくる。言ったことばよりも、その「言い方」に中神が身を乗り出している。こういう「肉体の感じ」をもったことばが、私は好きである。
「肉体」に重心を起きながら(あるいはそこを出発点としてと言えばいいのか)、ことばは「精神(意識)」の方へ動いていく。
それから
ノートはただの白紙ではない使命を覗かせる
青白い胡蝶の実が転がっている
「それから」は「そのあと」という「時系列」をあらわしている。「その結果」でもある。彼女が「淀んだ話で濁した」がなければ、「白紙」は存在しなかったのである。「淀んだ」と「濁した」が「白紙」を輝かせる。
そこに、不在の、実現しなかった「書いておかなければならないこと」があり、それは「青白い胡蝶の実」として象徴される。「青い胡蝶の夢」と読み直すと、嘘になってしまう。「胡蝶の実」という「もの」だからこそ、事実という詩が生まれる。
瞬間に押し出される人の言葉は
不確実で曖昧なことが多いけれど
この世は大抵それで動いている
歪んだ歯車でまったく構わない
これは「意識/精神」そのものを「説明」している。「説明」であることが詩を窮屈にしているとも感じられし、その窮屈さが「深み」への入り口であるとも言える。ここでは、私は「肯定」も「否定」もしない。
すこしつまずく感じがするが、つまずいたのか、踏み台を踏んだのか、判断できない。たぶん飛翔のための踏み台と考えた方がいいだろう。
白紙を抱いて去って行ったものら
その歩みの跡が
黒い地面に金の粉のようにしんみり光って
地平までずっと続いている
一日の手綱を取るものがつぶやく
「なぜ、あんなに煌きだけが残るのだろう」
「煌き」と呼ばれているのは「白紙」だが、それを煌めかせているのは「胡蝶の実」よりも「淀んだ」「濁した」ということばかもしれない。「淀んだ」「濁した」は「しんみり」ということばで「煌き」に静けさを与えている。
「白紙を抱いて去って行ったものら」の「ら」のなかには中神自身も含まれる。中神は、このとき「女」と一体になっている。その「一体感」もまた「煌き」であり、静けさである。
豪華な詩集もいいけれど、こういう手作りの小さな詩集で、静かに詩を読むのもいいなあ。それこそ、「煌き」が残る。
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週1篇、月4篇以内。
料金は1篇(40字×20行以内、1000円)
(20行を超える場合は、40行まで2000円、60行まで3000円、20行ごとに1000円追加)
1週間以内に、講評を返信します。
講評後の、質問などのやりとりは、1回につき500円。
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週1篇40行以内、月4篇以内。
1回30分、1000円。
メール送信の際、対話希望日、希望時間をお書きください。折り返し、対話可能日をお知らせします。
費用は月末に 1か月分を指定口座(返信の際、お知らせします)に振り込んでください。
作品は、A判サイズのワード文書でお送りください。
少なくとも月1篇は送信してください。
お申し込み・問い合わせは、
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また朝日カルチャーセンター福岡でも、講座を開いています。
毎月第1、第3月曜日13時-14時30分。
〒812-0011 福岡県福岡市博多区博多駅前2-1-1
電話 092-431-7751 / FAX 092-412-8571
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(1)詩集『誤読』100ページ。1500円(送料別)
嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で詩を書いています。
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(5)評論『天皇の悲鳴』72ページ。1000円(送料別)
2016年の「象徴としての務め」メッセージにこめられた天皇の真意と、安倍政権の攻防を描く。
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問い合わせ先 yachisyuso@gmail.com