谷川俊太郎詩集『虚空へ』百字感想(15)
(悪は)
悪は
ヒトのもの
天地を
他所にして
手足は
具体
ココロは
抽象
地を掘り
天に焦がれる
ヒトの生き死に
朝の汀に
詩の
足あと
*
足跡ではなく「足あと」。なぜ、ひらがなにしたのだろう。「跡」という具体的なものが消えて、「音」が広がる。具体的なものをもとめて。そのとき「足」が「肉体」として見えてくる。砂に触れて、砂がくぼむ。
*
(言葉は騙り)
言葉は
騙り
手足は
黙々
星辰に
疎く
人事は
不断
功を誇り
嫉視を
斥け
自我を
祀る
無恥
*
「騙る/語る」「星辰/精神」「無恥/無知」。音で聞けば、私はきっと間違える。「不断/普段」も間違えるかも。「疎く」が「有徳」なら、「嫉視」にも同音のことばがあるか。「ある」と語れば、騙るになるか。
*
(気持ちが)
気持ちが
淀む
朝
私は
何を
待っているのか
一日は
遅々として
明日は
迅い
言葉に
囚われて
言外へ
亡命する
*
「亡命する」。「難民」の方が私にはしっくりくる。「政治難民」ということばがあるが、「難民」が「亡命(者)」より多いからだろう。「難民になる」ではなく「難民する」という動詞が生まれてくるかもしれない。