ロンドンをふらつく人狼ノラが、ルパンとファントムと遭遇して終わった前巻。
その続きの事件が始まるのかな、と思っていたら、この4巻は短編集、それも一種の連作短編集だった。
内容は、鴉夜、津軽、静句、三人のバックストーリー。
その前後に、鳥籠使いの3人が、欧州に出立するまでに解決したのっぺらほうの話と、欧州に来てそうそう?解決した人魚裁判の話がおかれる。
前者では西洋の妖怪と日本のおばけに通じた小泉八雲が登場し、後者では、鳥籠使い一行の準メンバーであるアニーと出会う。
そんな感じで、要するにこれまでの3巻を補う話が5編記されていた。
といっても、やっぱり読みどころとなるのは、真ん中に挟まれた鴉夜、津軽、静句それぞれのバックストーリー。
この3つは完全に「アンデッドガール・マーダーファルス“ゼロ”」って感じの、特大級の設定バレ話。
何に驚いたかって、やっぱりそれは鴉夜がどうやって「不死」となったか、を描いた
「輪る夜の彼方に流す小笹船」
の一篇。
もうツッコミどころ満載だよw
鴉夜の師匠が蘆屋道満というのも驚きだったけど、でもまぁ鴉夜が御年950ウン歳というのだから、そりゃ、陰陽師だよな、やっぱり、とは思った。
でもね、その道満師匠が、まさか「80万3千年」後の未来からやってきた未来の科学者だとは思ってなかったよw
え、未来人なの?
未来の技術で鴉夜は「不死」になったの?
いや確かに途中で道満が「ポリマー」なんて言葉を発していたから、へ?とは思ってたけどさ。
でも、80万年後の未来かよw
しかも、どうやら道満をこの平安時代に送り込んだ相手が鴉夜本人のようなんだよね。。。
まぁ、そこは明確にそうだとは書いてないから、もう一捻りあるのかもしれないけれど。
でもとにかく超未来技術で鴉夜は〈不死〉となったというのだから、もうこれ、怪異譚じゃなくてSFじゃん。
しかも、思い切りタイムバラドクス含みの時間SFじゃん。
・・・って、マジで驚いたのだった。
だって、それだともうこの作品世界の「怪物」の出自自体が怪しくなってくるじゃない。
だって、その超未来技術で作られた、いわば人工の怪物〈不死〉を殺せる、つまり機能停止させることのできる〈鬼〉が、天然の怪物であるはずないじゃない。
きっと〈鬼〉にしても道満のように未来からやってきた科学者が作り出した存在に相違ないでしょ?
だとすると、他の怪物にしても天然物とはいいがたくなる。
そう思うと、3巻に登場した人狼が、種族を通じて個体の性能を上げていき無敵の「完全個体」を目指すというのも、種の進化の実験のために用意されたのが人狼だったと思いたくなってしまう。
ていうか、世界各地に存在する怪物そのものが、未来人からの襲撃にすら見えてくる。
まぁ、これはまだ完全に憶測というか妄想でしかないけれどw
ただ、とにかく鴉夜については、人工的に作られた怪物であったことは確かで、その存在のあり方に時間SF的背景があったのも確か。
ていうか、だから「輪堂」なんて姓だったのね、と。
輪廻に準じる名前だった。
どこかで、このSF設定に触れられることがあるのだろうか?
ただそれにしたって、時間SF的状況を理解できるまでに物理学が進んだ未来にならないとそもそも仮説すら立てられないわけで、となると明治末期という設定はいかにも古く、津軽たち一行じゃ、そこまでいかないか。。。
・・・と思いながらも、でも、時代的にはむしろ量子力学や相対性理論の誕生期の20世紀初頭も近いわけで、となると、物語の終盤には、プランクやボーア、さらにはアインシュタインも登場して、鴉夜さまの不死の秘密に迫るのかもしれないw
まぁ、それまでに何巻必要になるかはわからないけれど。
とにかく、鴉夜様の不死の秘密にはびっくりだったよ。
それに比べれば、津軽と静句のエピソードは、もっと二人の個人史にまつわるもだったのでだいぶおとなしいものだったけど。
でも、モリアーティ教授と切り裂きジャックによって、津軽が半人半鬼になった一件を描いた「鬼人芸」を読むと、津軽がうちに秘めた無念がよく分かる。
これまでも何度か触れられていた、津軽が属していた鬼狩りの〈第六班〉が、モリアーティ一行によって全滅させられたのだから。
しかも、鬼化実験の被験体として隊長だった荒屋苦楽を除いて全員が発狂死したようなものだから。
津軽は今までモリアーティ一行に対して自らの復讐心をあらわにしたことはなかったけれど、内心、仲間の無念を果たしたいという思いは強いのだろうなと感じた。
だから、鴉夜の半身を取り戻した後、いわば鴉夜との契約を果たした後、津軽がどんな行動に出るか、というのも今から楽しみでならない。
そんな津軽の秘めた復讐心と比べたとき、静句の覚悟を記した「言の葉一匙、雪に添え」は、鴉夜さまラブだった静句にかけられた呪いの話だった。
こちらの一篇は、基本的に鴉夜が生首だけにされた一件の一部始終が描かれたのだが、その過程で静句の実家である馳井家の様子も記されていた。
簡単に言えば忍者の家系だったわけだけど、そこで400年近くともにあった鴉夜は、静句にとってはもう完全に崇高の対象であり、恋愛の対象であり、とにかく全てだった。
問題は、その鴉夜に対する想いをまさに口にした夜に、モリアーティ一行の襲撃を受け、鴉夜は生首だけの存在になってしまったこと。
つまり、静句の主観では、自分がそのような主に対する独占欲を示したからこそ天罰が生じてしまったわけで、そのことをなにより静句は悔いている。
要するに自分が不埒な想いを示したからこそ、鴉夜は生首だけになってしまったと思い込んでしまった。
しかも、その直後には、ともに永遠にありたいと思った鴉夜から「殺してくれ」と願われてしまった。
主君への忠誠心と、想い人への恋慕が完全に交錯してしまう悲しさ。
静句は静句で、こうして思い違いから勝手に自ら鴉夜の一件に対して十字架を背負ってしまった。
自責の念の塊であるだけに、これはもう静句本人がみずからを許さない限り下ろすことのできない重荷となってしまった。
なので、静句にとっては、物語の最後で、そうした自ら課した枷から開放できるのかどうかが、鍵になる。
・・・という具合に、この4巻はとにかくもう内容が濃くて困ったw
読み終わってむしろ気になったのは、こうした鳥籠使い一行の設定情報の解禁が次巻以降の展開にどう絡んでくるのか、というところ。
さっきアインシュタインの名前を出したけど、19世紀末から20世紀初頭の時代は、近代科学が思い切り進んだ時代で、その分、偉人伝には事欠かない時代なので、これからどんな偉人が登場して、物語をかき乱してくれるのか、楽しみでならない。
またちょっと思いついたら別途追加の感想を書くかもしれないけれど、とりあえず今はここまでw
その続きの事件が始まるのかな、と思っていたら、この4巻は短編集、それも一種の連作短編集だった。
内容は、鴉夜、津軽、静句、三人のバックストーリー。
その前後に、鳥籠使いの3人が、欧州に出立するまでに解決したのっぺらほうの話と、欧州に来てそうそう?解決した人魚裁判の話がおかれる。
前者では西洋の妖怪と日本のおばけに通じた小泉八雲が登場し、後者では、鳥籠使い一行の準メンバーであるアニーと出会う。
そんな感じで、要するにこれまでの3巻を補う話が5編記されていた。
といっても、やっぱり読みどころとなるのは、真ん中に挟まれた鴉夜、津軽、静句それぞれのバックストーリー。
この3つは完全に「アンデッドガール・マーダーファルス“ゼロ”」って感じの、特大級の設定バレ話。
何に驚いたかって、やっぱりそれは鴉夜がどうやって「不死」となったか、を描いた
「輪る夜の彼方に流す小笹船」
の一篇。
もうツッコミどころ満載だよw
鴉夜の師匠が蘆屋道満というのも驚きだったけど、でもまぁ鴉夜が御年950ウン歳というのだから、そりゃ、陰陽師だよな、やっぱり、とは思った。
でもね、その道満師匠が、まさか「80万3千年」後の未来からやってきた未来の科学者だとは思ってなかったよw
え、未来人なの?
未来の技術で鴉夜は「不死」になったの?
いや確かに途中で道満が「ポリマー」なんて言葉を発していたから、へ?とは思ってたけどさ。
でも、80万年後の未来かよw
しかも、どうやら道満をこの平安時代に送り込んだ相手が鴉夜本人のようなんだよね。。。
まぁ、そこは明確にそうだとは書いてないから、もう一捻りあるのかもしれないけれど。
でもとにかく超未来技術で鴉夜は〈不死〉となったというのだから、もうこれ、怪異譚じゃなくてSFじゃん。
しかも、思い切りタイムバラドクス含みの時間SFじゃん。
・・・って、マジで驚いたのだった。
だって、それだともうこの作品世界の「怪物」の出自自体が怪しくなってくるじゃない。
だって、その超未来技術で作られた、いわば人工の怪物〈不死〉を殺せる、つまり機能停止させることのできる〈鬼〉が、天然の怪物であるはずないじゃない。
きっと〈鬼〉にしても道満のように未来からやってきた科学者が作り出した存在に相違ないでしょ?
だとすると、他の怪物にしても天然物とはいいがたくなる。
そう思うと、3巻に登場した人狼が、種族を通じて個体の性能を上げていき無敵の「完全個体」を目指すというのも、種の進化の実験のために用意されたのが人狼だったと思いたくなってしまう。
ていうか、世界各地に存在する怪物そのものが、未来人からの襲撃にすら見えてくる。
まぁ、これはまだ完全に憶測というか妄想でしかないけれどw
ただ、とにかく鴉夜については、人工的に作られた怪物であったことは確かで、その存在のあり方に時間SF的背景があったのも確か。
ていうか、だから「輪堂」なんて姓だったのね、と。
輪廻に準じる名前だった。
どこかで、このSF設定に触れられることがあるのだろうか?
ただそれにしたって、時間SF的状況を理解できるまでに物理学が進んだ未来にならないとそもそも仮説すら立てられないわけで、となると明治末期という設定はいかにも古く、津軽たち一行じゃ、そこまでいかないか。。。
・・・と思いながらも、でも、時代的にはむしろ量子力学や相対性理論の誕生期の20世紀初頭も近いわけで、となると、物語の終盤には、プランクやボーア、さらにはアインシュタインも登場して、鴉夜さまの不死の秘密に迫るのかもしれないw
まぁ、それまでに何巻必要になるかはわからないけれど。
とにかく、鴉夜様の不死の秘密にはびっくりだったよ。
それに比べれば、津軽と静句のエピソードは、もっと二人の個人史にまつわるもだったのでだいぶおとなしいものだったけど。
でも、モリアーティ教授と切り裂きジャックによって、津軽が半人半鬼になった一件を描いた「鬼人芸」を読むと、津軽がうちに秘めた無念がよく分かる。
これまでも何度か触れられていた、津軽が属していた鬼狩りの〈第六班〉が、モリアーティ一行によって全滅させられたのだから。
しかも、鬼化実験の被験体として隊長だった荒屋苦楽を除いて全員が発狂死したようなものだから。
津軽は今までモリアーティ一行に対して自らの復讐心をあらわにしたことはなかったけれど、内心、仲間の無念を果たしたいという思いは強いのだろうなと感じた。
だから、鴉夜の半身を取り戻した後、いわば鴉夜との契約を果たした後、津軽がどんな行動に出るか、というのも今から楽しみでならない。
そんな津軽の秘めた復讐心と比べたとき、静句の覚悟を記した「言の葉一匙、雪に添え」は、鴉夜さまラブだった静句にかけられた呪いの話だった。
こちらの一篇は、基本的に鴉夜が生首だけにされた一件の一部始終が描かれたのだが、その過程で静句の実家である馳井家の様子も記されていた。
簡単に言えば忍者の家系だったわけだけど、そこで400年近くともにあった鴉夜は、静句にとってはもう完全に崇高の対象であり、恋愛の対象であり、とにかく全てだった。
問題は、その鴉夜に対する想いをまさに口にした夜に、モリアーティ一行の襲撃を受け、鴉夜は生首だけの存在になってしまったこと。
つまり、静句の主観では、自分がそのような主に対する独占欲を示したからこそ天罰が生じてしまったわけで、そのことをなにより静句は悔いている。
要するに自分が不埒な想いを示したからこそ、鴉夜は生首だけになってしまったと思い込んでしまった。
しかも、その直後には、ともに永遠にありたいと思った鴉夜から「殺してくれ」と願われてしまった。
主君への忠誠心と、想い人への恋慕が完全に交錯してしまう悲しさ。
静句は静句で、こうして思い違いから勝手に自ら鴉夜の一件に対して十字架を背負ってしまった。
自責の念の塊であるだけに、これはもう静句本人がみずからを許さない限り下ろすことのできない重荷となってしまった。
なので、静句にとっては、物語の最後で、そうした自ら課した枷から開放できるのかどうかが、鍵になる。
・・・という具合に、この4巻はとにかくもう内容が濃くて困ったw
読み終わってむしろ気になったのは、こうした鳥籠使い一行の設定情報の解禁が次巻以降の展開にどう絡んでくるのか、というところ。
さっきアインシュタインの名前を出したけど、19世紀末から20世紀初頭の時代は、近代科学が思い切り進んだ時代で、その分、偉人伝には事欠かない時代なので、これからどんな偉人が登場して、物語をかき乱してくれるのか、楽しみでならない。
またちょっと思いついたら別途追加の感想を書くかもしれないけれど、とりあえず今はここまでw