熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

インドのローエンドのイノベーション

2008年02月01日 | イノベーションと経営
   インドのタタ自動車が、ニューデリーの「オートエキスポ」で2500ドルの自動車を発表したのは有名な話であるが、ニッサンもルノーと共同で3000ドルカーを開発すると言う。
   この傾向は、成熟しきってこれ以上の拡大を望み得ない先進国と違って、一途に急成長する新興国のイマージングマーケットをターゲットにする為には、製造業が如何にあるべきかを如実に物語っている。
   慶応義塾大学の三田キャンパスで、開催された「供創ジャパン~これからのインドと日本」セミナーで、アフターブ・セット慶大教授、インフォシス・ベンカタラマン・スリラム副社長、アラン・シヨウリー元大臣たちが、インドの経済・ビジネスの現状や日印パートナーシップなどについて熱っぽく語ったが、工業立国日本企業が、インドやBRIC's市場を目指すための一番重要な指摘と指針は、ローエンドのイノベーションであった。

      
   しかし、日本人は当たり前だと簡単に言うかもしれないが、世界最高の工業製品の品質を追求し、これに徹底的に拘る品質にうるさい顧客を持つ日本企業には、今や至難の業のイノベーションなのである。
   このローエンドのイノベーションについては、クレイトン・クリステンセンが「イノベーターズ ジレンマ」で提起した破壊的イノベーションの最低の市場を狙ったイノベーションで、かっては日本企業のお家芸とも言うべきイノベーションであった。
   トヨタがアメリカ自動車市場に参入を果たせたのも、ソニーなど日本の電機メーカーがアメリカ市場に入り込んで輸出を拡大できたのも、正に、コスト競争に打ち勝って最低層の顧客を取り込んだローエンド・イノベーションあってこそだったのである。

   スリラム氏は、このローエンド・イノベーションについて「Frugal engineering 倹約型エンジニアリング」と言う言葉を使って説明した。
   凄い勢いで中産階級化が進んでいるとは言え、インドには巨大な人口の貧困層が存在し、これらの人々の需要を満足させる為には、成熟社会とは違った大量生産ローコストの製品革命が求められているのであり、そのようなインド人が本当に必要としている製品を供給しない限り、欧米型の価値観を持ち込んだ製品では競争に勝てない。
   頭を白紙の状態に戻して、白紙からローエンドのイノベーションを追求して新しい製品やビジネスモデルを生み出すことが必須だと言うのである。
   これに成功しているのが韓国企業で、電気製品など、インドの需要に完全にマッチした製品をインド国内で開発して生産し市場を押さえていると言う。

   このようなインドが必要とする、インドに適応したモノやサービスを追及した市場戦略が、豊かで巨大な無限の市場を開拓するとして、最貧困層市場をターゲットとした市場戦略を説いたのが、C.K.プラハラードの「ネクスト・マーケット」である。
   欧米では、片足7~8000ドルするような義足よりも遥かに質が良く、しゃがんでも、あぐらをかいても、でこぼこ地面をはだしで歩いてもびくともしない立派な義足を、インド企業がたった50ドルで開発したなどと、多くの実に感動的な例を引きながら、ネクスト・マーケットへの経営戦略を説いている。

   シヨウリー元大臣は、「インテレクチュアル・パートナーシップ」を提言した。
   欧米とは全く違った文化的背景を持つ巨大な大国日本とインドが、知の共創を行えば、世界の文化文明に無限の可能性が生まれる。
   日本の素晴らしい技術や工業力と、インドの悠久の知とエネルギーを結集すれば、素晴らしい価値が創造出来るということであろうか。

   何れにしろ、質の向上と技術の深化のみに傾注して持続的イノベーションを追求する日本企業戦略をどこかで転換しない限り、グローバリゼーションの波に乗りおくれると言うことであろうか。
コメント
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