熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

大田弘子大臣の「経済一流」論にもの申す

2008年02月09日 | 政治・経済・社会
   大田大臣が、国会で、「日本はもはや経済は一流だと呼ばれる状態にはない」と発言したことに対して、昨日の日経で弁明を行った。
   『「経済一流」復活のカギ 危機感バネに改革一段と」と言う経済教室の記事である。
   一流ではないと言ったのは、①人口減の中で成長を続けるのは並大抵ではないと言う危機感②今なら間に合う、と言うことだと言う。
   更に、将来の成長力こそ問われるべき問題だとして、日本経済の抱える大きな問題を、①サービス産業の生産性が低い②金融、航空、港湾など経済インフラの国際競争力が低い③人材を生かしきれていないことだと説く。
   
   経済成長の要因を、極めて単純に示すと、人口増+生産性のアップであるから、この人口増がマイナスとなると、経済の生産性をそれ以上により大きくアップする以外に経済成長の道はない。
   かっての日本経済は、急速な人口増と、更に急速な生産性のアップによって世界最高水準の域にまで上り詰めたが、バブル崩壊後の長期デフレ不況によって大田大臣の指摘するような状態に至っている。
   大田大臣は、前述の日本経済の問題点が、人口減と高齢化の進行によって更に成長エネルギーを削ぎ、金融資産を減少させるので、日本経済を魅力ある状態に戻し、海外からの資本流入を促すなどして「世界のパワー」を取り込み活性化することだと言うのである。

   至極ご尤もなように聞えるが、このような秀才の作文のような悠長なことを言える段階ではないと思うので、私の考えを述べることにする。

   まず、経済の成長であるが、このブログでも何度も書いていることだが、私自身は、シュンペーターの説くイノベーションによる創造的破壊以外に長期的に持続可能な道はないと思っている。
   話を簡略化するために、ロバート・フランク著「ザ・ニューリッチ」から引用するが、ケビン・フィリップが、「富と民主主義」の中で、アメリカにおける過去の大規模な富の急増は、何れも三つの力、すなわち、新技術、投機市場の台頭、自由市場と高所得者を支援する政府、が一体となって起こったと指摘していると言う。
   歴史的に見て、新技術と投機市場が互いを促し合うことによって、すなわち、技術と金融が一体となって経済成長を推し進めてきた、そして、政府がそのような経済社会環境を提供する体制を取っておれば更にその勢いを増進させると言うことであろうか。

   正に、一世紀も前にシュンペーターが指摘した世界が、あのアメリカにおいて、インターネットの民間解放によって波及的に拡大してIT革命に火を点けて、ファイナンシャル・エンジニアリングの進歩と精緻化によって更に増幅されて、グローバリゼーションの拡大により世界同時好況を生み出したのである。
   アメリカの経済成長を推し進めて来たのは、正に、イノベーターと企業家による新規事業の拡大であって、日本のように歴史と伝統を誇る老舗企業の世界ではなく、マイクロソフトやグーグルを筆頭に、総て、かってのソニーやホンダのような今様ベンチャーの力であり、このIT革命に乗った企業家の牽引がなければ、80年代に沈没してしまっていたアメリカ経済の再生はあり得なかった筈である。
   今成長を続けて驀進している中国やインド経済も、シュンペーターの言う広義の意味でのビジネスのイノベーションが渦巻きながら起こっているのである。
  
   さて、日本の現状に戻るが、シュンペーターのイノベーションを促進し創造的破壊を引き起こすような土壌なり活力が日本経済にあるのであろうか。
   或いは、それを醸成するような政治経済社会環境が日本に整っているのであろうか。
   
   法制度の不備など問題があるとしても、寄ってタカってホリエモンや村上を叩き潰すような起業やベンチャーにネガティブな風潮があり、或いは、日本企業が経営力のなさを棚に上げて外資M&A防衛策に奔走し、オーストラリアの投資ファンドが成田空港のビル運営会社の株式取得に対して危機感を抱いて法案を提出して規制すると言った政府の態度など市場資本主義のいろはを踏み外した風土やセンチメントのある日本には、殆どお先真っ暗と言う以外にない。
   英国病と揶揄されたイギリスが立ち直った一因は、誇り高き大英帝国の魂を捨てて外資に三顧の礼を尽くして迎え入れ、目ぼしい名門企業が殆ど外資の軍門に下ると言うウインブルドン現象まで惹起したサッチャー革命にあったが、これほど厳しい試練と犠牲を払っていることを考えれば、日本の外資に対する姿勢が如何に中途半端かが分かる。

   日本は、余りにも豊かで巨大な国内市場に恵まれている為に、90年代から大きく胎動した世界のIT革命とグローバリゼーションによって引き起こされた壮大な経済社会構造の変化に乗り遅れてしまった。
   あのソニーでさえ、出井元CEOの述懐によると、社長就任当時、アナログ一辺倒でデジタル指向さえなかったと言うほど遅れていたのである。松下が、中村改革を実施して大鉈を振るって脱皮しようとしたが、グループ全体でパナソニック・ブランドに統一したのは極最近だが、それでも、アメリカ市場では殆ど目立ったプレゼンスがなく、世界的なグローバル企業としては緒に就いたばかりであろう。
   IT革命によるビジネス革新に至っては、企業トップの対応が進まず、システム全体が機能しないなど多くの問題を抱えていて、世界の趨勢から大きく遅れを取っているなど、政府公共団体をも含めてビジネス・インフラとしての機動性を備えていないと言う。
   
   イノベーションで立つ工業立国を目指すというのが大方の見方だが、ものづくり日本については、それではダメだと言う野口悠紀雄教授の見解もあれば、主役は金融ではなくものづくりの技術と知財だと言う榊原英資教授の見解など色々あるが、例えば、イノベーション一つを取っても、何故、技術的に優れているソニーのPS3が売れなくて、任天堂のWiiがバカ売れして世界を制覇しているのかを良く考える時期に来ていることを忘れてはならない。
   持続的イノベーション指向一辺倒の技術神話が日本企業を牽引して来たが、これからは、ソフトを包含したクリエイティビティや広範な価値を創造する新市場開発型やローエンドの破壊的イノベーションが如何に大切かと言うことを認識すべきなのである。

   皮肉にも、アメリカ同様に法人所得税が高いのは日本だけだと言って、ポールソン財務長官が減税を訴えているが、
   法人所得税の大幅削減、外資に対するもっともっと積極的な導入策の推進、ベンチャー等起業促進のための法制度・税制など抜本的な改革と体制整備など、とにかく、イノベイティブな企業家精神を喚起し、企業に革新への勢いをつけない限り日本の経済活性化は有り得ないと思っている。
   サービス産業の生産性が低いと大臣は言うが、そのためにも、公務員制度を含めて官僚組織の抜本的改正と、内需関連産業の規制や過保護を徹底的に排除することが必須である。日本のように官民こぞっての談合塗れの経済社会など資本主義の先進国にはあり得ないし、この方面の日本の生産性の低さは徹底しており、合理性と競争原理の風を貫通させなければ生産性の向上等夢に終わってしまう。
   
   
   
   
コメント
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