恒例の夏の東京国際ブックフェアが、ビッグサイトで始まったので出かけた。
今回の基調講演は、作家大沢在昌の「デジタルと紙が並走する時代~作家が考えること、できること~」で、紙媒体の本とデジタル媒体の電子ブックの鬩ぎ合いについて、出版・書店界としてどう対応して行くのか、小説家の立場から語っていて、示唆に富んでいて、結構面白かった。
残念ながら、私は、推理小説や、ハードボイルドや冒険小説と言ったジャンルには、全く興味がないので、ベストセラーの「新宿鮫」を読んだこともないのだが、有名小説家の見解だと言うことで話を聞いていた。
数時間のハラハラ・ドキドキを読者に提供する商品を作っているのだと言うことであったが、「新宿鮫」は、既に、糸井重里の「ほぼ日」で、電子版で公開した10まで、20年以上も続く長寿シリーズらしい。
何故、一銭の金にもならない電子版で、無料で10を公開したのだと言うことだが、シリーズも長くなると、読まず嫌いの読者が多くなって下火になるので、話題性を狙って宣伝のためにやったのだと言う。
同事務所大極宮の京極夏彦が、電子版を出して話題になり、紙媒体の本が売れに売れたらしい。
電子版を出すと言うと、自分の将来像の投影でもあり心配なのか、ジャーナリストが押しかけて来て、記事やニュースになり、話題性が増し、他の本にも波及効果が起きて見直されるのであろう。
大沢氏は、電子ブックの動向を語る前に、苦境に立つ本屋の現実について語った。
何故、書店が苦しいのか、それは、出版される本が多すぎるのだと言う。
あまりにも多すぎて、何を、どのように読んだらよいのか、読者が混乱している上に、書店員の給与が安くて、大半がアルバイト店員であり、本に対する知識や愛情が不足しているので、何のアドバイスもアシストも出来ない状態である。薬局に行けば、風邪でも症状を聞いて適切な薬を提供してくれるのと比べれば、カスタマー・サティスファクションどころか、あまりにも、書店は、客をバカにしていると言うことであろうか。
それに、書店に行けば、出版社別ジャンル別に本が並んでいて、特定の作家の作品を探すのに、あっちこっちの書棚を巡らねばならず、作家別にアイウエオ順に並んでいるブックオフの方が、はるかに探しやすく、ディスプレイも顧客オリエンテッドだと、敵だと言うブックオフにも劣ると言うのだから、書店の凋落は当然だと言わんばかりである。
私は、本の洪水を止めなければダメだと言う大沢説には賛成で、あまりにも次から次へと新刊本が出版されるので、大型書店を含めて一般書店では、書棚に限りがあるため、話題性のある本や売れる本ばかりを正面に押し出して売っているので、殆ど、何の新鮮味も、価値ある本に遭遇する喜びも、見だし得ないと言う感じである。
東京の大型書店に出かけて、私の場合には、経済経営ビジネス関連コーナーに出向くことが多いのだが、比較的、重宝しているのは、丸善の丸の内本店で、大体の潮流が分かる。
しかし、ここに展示されている本は、既に、新聞や雑誌などで承知済みの本が大半であり、至って常識的であり、私が、読みたい新刊書に偶然出会うのは、案外、小さな古書店で、その新刊本(新古書)を買うことがある。専門書を扱っている古書店だと、新刊本が次から次に並び、本の数が少ないので、探し易いのである。
もう、半世紀以上も、本と付き合っているので、読みたい本については誰よりも良く知っていると思っているので、人の紹介や書評に影響されることもないので、本は、すべて自分の偏見と独断で選んでおり、書店では、聞くなら、その本がどこにあるのかを聞く程度である。
大体、どんな本を読めば良いのかも分からずに、本屋に出かけて、店員にアドバイスを受けるなどと言う神経が分からないし、大沢氏が、痛く嫌っていたのだが、読みたい本を図書館に行って読むなどと言う気持ちも理解できない。
学生時代に、シュンペーターの「経済発展の理論」の5巻目が1500円して、買えなかった記憶はあるが、それが唯一で、それ以外は、何千冊になるか分からないが、知と喜びの源泉である本を高いとは思ったことはなく、僅かな例外を除いて、すべて、自分で買って読みつぶしている(尤も、読めない本も多い)。
さて、電子ブックだが、大沢氏の話では、書店に遠慮して、出版社が、電子ブック事業に思い切って踏み込めないのだと言う。
現在の電子ブックは、高過ぎるのであって、安くすれば、ブックオフを駆逐出来るのだが、今の状態が続くと、異業種からの参入が起こる心配があって、出版業界にマイナスになると言う。
私には詳しいことは分からないが、電子ブックなどは、デジタル化してデータに落とし込めば、その後の限界コストは、限りなくゼロになり、実質コストはイニシャルコストだけになるので、極めて安くなる筈であり、そうなれば、本の価格は、コンテンツの価値そのものに収束するような気がしており、今以上に、著作権が問題になるような気がしている。それに、課金どころか、無料配信の可能性が、限りなく大きくなってくるとも思っている。
大沢氏は、出版業界が思い切って電子ブックに本腰を入れて事業展開し、安く提供してブックオフを駆逐すれば、その分、一般書店の売り上げも回復すると言うのだが、聞いていると、本の電子化のスピードを、相当、ゆっくりだと考えているようである。
私など、インターネットによる電子化で、新聞や雑誌などメディア業界の凋落のあまりにも急速な動きを見ていると、そして、キンドルを筆頭とした各種の良質な電子ブックリーダーデバイスの登場と、電子ブックに対する急速なイノベーションを考えれば、そんな生易しいスピードではなく、紙媒体の本は、チッピングポイントを越えれば、一気に、電子ブックに駆逐されてしまうと思っている。
本は、読むことに目的と価値があり、紙や電子は、あくまで、媒体であり黒衣に過ぎないのであるから、フィルムカメラがデジカメに駆逐され、グーテンベルクの印刷機が革命を起こしたように、イノベーションに逆らうことは出来ない。
時代がトランジスターに移っているにも拘わらず、強大な生産設備を抱えていたために真空管を諦めきれずにソニーに出し抜かれた大手電機メーカーと同じように、出版・書店業界にも、イノベーションのジレンマが渦巻いており、急速な方向転換を迫られている。
私がビジネスクールにいた頃は、本のことは須らくバーンズ&ノーブルであったが、今は見る影もなく、アマゾンの快進撃のみが目立つ。楽天が、百貨店やスーパーを凌駕するのも時間の問題で、デジタルを背負ったビジネスモデルには、絶対に勝てない。
この東京国際ブックフェアの主役が、本の出版社から、急速に、電子機器、IT、ソフトウエア等々デジタル産業に移っていることも見れば、火を見るより明らかであろう。
さて、ブックフェアの方だが、半日、あっちこっちを回って楽しませて貰った。
買った本は、2冊だけ、
ポール・ケネディ著「世界の運命」、ヘンリー・ポラック著「地球の「最後」を予測する」
他に、孫たちに、科学書、参考書、そして、外国絵本などを買って帰った。
洋書のバーゲン・コーナーがあり、ファンで賑わっていた。私は、ECONOMICSやMANAGEMENTの所に行ったが、マンキューのECONOMICSはともかく、こんな本を誰が買うのかと思うような本ばかりであった。
ところで、このフェアには、ミネルヴァや白水社、東大などの大学出版会など食指の動く高級な本を提供している出版社もブースを持っていて、もう少し若ければ挑戦するのにと思いながら、ウインドーショッピングに止めたが、日本の出版界も捨てたものではないと思った。
今回の基調講演は、作家大沢在昌の「デジタルと紙が並走する時代~作家が考えること、できること~」で、紙媒体の本とデジタル媒体の電子ブックの鬩ぎ合いについて、出版・書店界としてどう対応して行くのか、小説家の立場から語っていて、示唆に富んでいて、結構面白かった。
残念ながら、私は、推理小説や、ハードボイルドや冒険小説と言ったジャンルには、全く興味がないので、ベストセラーの「新宿鮫」を読んだこともないのだが、有名小説家の見解だと言うことで話を聞いていた。
数時間のハラハラ・ドキドキを読者に提供する商品を作っているのだと言うことであったが、「新宿鮫」は、既に、糸井重里の「ほぼ日」で、電子版で公開した10まで、20年以上も続く長寿シリーズらしい。
何故、一銭の金にもならない電子版で、無料で10を公開したのだと言うことだが、シリーズも長くなると、読まず嫌いの読者が多くなって下火になるので、話題性を狙って宣伝のためにやったのだと言う。
同事務所大極宮の京極夏彦が、電子版を出して話題になり、紙媒体の本が売れに売れたらしい。
電子版を出すと言うと、自分の将来像の投影でもあり心配なのか、ジャーナリストが押しかけて来て、記事やニュースになり、話題性が増し、他の本にも波及効果が起きて見直されるのであろう。
大沢氏は、電子ブックの動向を語る前に、苦境に立つ本屋の現実について語った。
何故、書店が苦しいのか、それは、出版される本が多すぎるのだと言う。
あまりにも多すぎて、何を、どのように読んだらよいのか、読者が混乱している上に、書店員の給与が安くて、大半がアルバイト店員であり、本に対する知識や愛情が不足しているので、何のアドバイスもアシストも出来ない状態である。薬局に行けば、風邪でも症状を聞いて適切な薬を提供してくれるのと比べれば、カスタマー・サティスファクションどころか、あまりにも、書店は、客をバカにしていると言うことであろうか。
それに、書店に行けば、出版社別ジャンル別に本が並んでいて、特定の作家の作品を探すのに、あっちこっちの書棚を巡らねばならず、作家別にアイウエオ順に並んでいるブックオフの方が、はるかに探しやすく、ディスプレイも顧客オリエンテッドだと、敵だと言うブックオフにも劣ると言うのだから、書店の凋落は当然だと言わんばかりである。
私は、本の洪水を止めなければダメだと言う大沢説には賛成で、あまりにも次から次へと新刊本が出版されるので、大型書店を含めて一般書店では、書棚に限りがあるため、話題性のある本や売れる本ばかりを正面に押し出して売っているので、殆ど、何の新鮮味も、価値ある本に遭遇する喜びも、見だし得ないと言う感じである。
東京の大型書店に出かけて、私の場合には、経済経営ビジネス関連コーナーに出向くことが多いのだが、比較的、重宝しているのは、丸善の丸の内本店で、大体の潮流が分かる。
しかし、ここに展示されている本は、既に、新聞や雑誌などで承知済みの本が大半であり、至って常識的であり、私が、読みたい新刊書に偶然出会うのは、案外、小さな古書店で、その新刊本(新古書)を買うことがある。専門書を扱っている古書店だと、新刊本が次から次に並び、本の数が少ないので、探し易いのである。
もう、半世紀以上も、本と付き合っているので、読みたい本については誰よりも良く知っていると思っているので、人の紹介や書評に影響されることもないので、本は、すべて自分の偏見と独断で選んでおり、書店では、聞くなら、その本がどこにあるのかを聞く程度である。
大体、どんな本を読めば良いのかも分からずに、本屋に出かけて、店員にアドバイスを受けるなどと言う神経が分からないし、大沢氏が、痛く嫌っていたのだが、読みたい本を図書館に行って読むなどと言う気持ちも理解できない。
学生時代に、シュンペーターの「経済発展の理論」の5巻目が1500円して、買えなかった記憶はあるが、それが唯一で、それ以外は、何千冊になるか分からないが、知と喜びの源泉である本を高いとは思ったことはなく、僅かな例外を除いて、すべて、自分で買って読みつぶしている(尤も、読めない本も多い)。
さて、電子ブックだが、大沢氏の話では、書店に遠慮して、出版社が、電子ブック事業に思い切って踏み込めないのだと言う。
現在の電子ブックは、高過ぎるのであって、安くすれば、ブックオフを駆逐出来るのだが、今の状態が続くと、異業種からの参入が起こる心配があって、出版業界にマイナスになると言う。
私には詳しいことは分からないが、電子ブックなどは、デジタル化してデータに落とし込めば、その後の限界コストは、限りなくゼロになり、実質コストはイニシャルコストだけになるので、極めて安くなる筈であり、そうなれば、本の価格は、コンテンツの価値そのものに収束するような気がしており、今以上に、著作権が問題になるような気がしている。それに、課金どころか、無料配信の可能性が、限りなく大きくなってくるとも思っている。
大沢氏は、出版業界が思い切って電子ブックに本腰を入れて事業展開し、安く提供してブックオフを駆逐すれば、その分、一般書店の売り上げも回復すると言うのだが、聞いていると、本の電子化のスピードを、相当、ゆっくりだと考えているようである。
私など、インターネットによる電子化で、新聞や雑誌などメディア業界の凋落のあまりにも急速な動きを見ていると、そして、キンドルを筆頭とした各種の良質な電子ブックリーダーデバイスの登場と、電子ブックに対する急速なイノベーションを考えれば、そんな生易しいスピードではなく、紙媒体の本は、チッピングポイントを越えれば、一気に、電子ブックに駆逐されてしまうと思っている。
本は、読むことに目的と価値があり、紙や電子は、あくまで、媒体であり黒衣に過ぎないのであるから、フィルムカメラがデジカメに駆逐され、グーテンベルクの印刷機が革命を起こしたように、イノベーションに逆らうことは出来ない。
時代がトランジスターに移っているにも拘わらず、強大な生産設備を抱えていたために真空管を諦めきれずにソニーに出し抜かれた大手電機メーカーと同じように、出版・書店業界にも、イノベーションのジレンマが渦巻いており、急速な方向転換を迫られている。
私がビジネスクールにいた頃は、本のことは須らくバーンズ&ノーブルであったが、今は見る影もなく、アマゾンの快進撃のみが目立つ。楽天が、百貨店やスーパーを凌駕するのも時間の問題で、デジタルを背負ったビジネスモデルには、絶対に勝てない。
この東京国際ブックフェアの主役が、本の出版社から、急速に、電子機器、IT、ソフトウエア等々デジタル産業に移っていることも見れば、火を見るより明らかであろう。
さて、ブックフェアの方だが、半日、あっちこっちを回って楽しませて貰った。
買った本は、2冊だけ、
ポール・ケネディ著「世界の運命」、ヘンリー・ポラック著「地球の「最後」を予測する」
他に、孫たちに、科学書、参考書、そして、外国絵本などを買って帰った。
洋書のバーゲン・コーナーがあり、ファンで賑わっていた。私は、ECONOMICSやMANAGEMENTの所に行ったが、マンキューのECONOMICSはともかく、こんな本を誰が買うのかと思うような本ばかりであった。
ところで、このフェアには、ミネルヴァや白水社、東大などの大学出版会など食指の動く高級な本を提供している出版社もブースを持っていて、もう少し若ければ挑戦するのにと思いながら、ウインドーショッピングに止めたが、日本の出版界も捨てたものではないと思った。