熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

西田宗千佳著「世界で勝てるデジタル家電」

2011年10月20日 | 書評(ブックレビュー)・読書
   一世を風靡したイノベーター・スティブ・ジョブズが亡くなって間もないのだが、何故、日本のデジタル家電メーカーが、アップルを越えられないのか、ジョブズがやったことは、ソニーがやったウォークマン革命と同じなのに、何故、そのイノベーションの火が消えてしまったのか、そんな思いで、この「世界で勝てるデジタル家電」を手にした。
   著者は、冒頭から、iPodは何故すごいのかとと言うテーマから、日本家電の問題点を掘り起こして、世界のモノづくりのルールが変わったのであるから、もう、通用しなくなって勝ち目のなくなった従来のメイドインジャパンのやり方を止めて、日本企業自らが、世界で売れるルール作りを始めろと説く。
   例えば、アップルの場合には、故障しても修理などしないのだが、今や、超・量産と「新品交換」のモノづくりのルールが世界を席巻しているのだと言うのである。

   このことは、確かに最近ではパーツのコストよりサポートのコストの方が手間暇掛かって高くつくであろうし、詰まらぬクレームの対象となってトラブルを起すであろうし、何百万台も売れる大量生産品であれば、何万台新品と交換しても、コスト的には誤差範囲内で済み、何よりも顧客満足度が向上する。
   それに、組み立ては、ビスやネジなど使わずに、「ハメ込み」が基本とかで、何十万人もの労働者が悪条件で働く中国の「鴻海」で徹底的にコスト削減で生産して、「高付加価値」と「低価格」であり、消費者が、安く買えて、動作が軽くて便利であり、それに、美しいと、販売を待ち焦がれて殺到して買うのであるから、日本のメーカーには勝ち目がないと言うことであろうか。

   私が興味を感じたのは、日本の業界関係者の言うアップルの製品について、良く出来ているが特別なことはなく、同じような製品はすぐ作れると言うのだが、iPadと同等以下の価格で、iPadほどの完成度のものを作るのは意外に難しいのだと言うことである。
   それに、驚くべきことに、アップルは、高度なOSや優れた操作性、音楽や映像、アプリケーション、書籍など魅力的な配信事業を武器にして、ハードウエアの魅力を高めて、優れたハードウエアを大量に売ることを本質的なビジネスモデルとしていて、この低価格の機器を量産して、高い利益率で売ると言うシステム、すなわち、ハードウエアの売り上げで利益の大半を叩き出しているのである。
   
   このことは、これまでのビジネスの常識であったコスト競争に勝つことが利益の源泉だと言う常識が生きていると言うことを意味しているのだが、しかし、その商品が、ブルーオーシャン市場を席巻した無競争の製品であり、断トツの魅力と価格競争力を持っていなければならないことをも意味していて、これこそが、著者の言うルールの変更であろう。
   OSの魅力やソフトウエアやサービス分野でのイノベーションが、アップルの成功の秘密だと言われているのだが、それもこれも、大量生産で利益を追求しようと言うビジネス戦略の一環であり、それが、消費者の熱狂的な称賛を受けて利益につながったのであるから、正に、創造的破壊、イノベーションの鑑である。

   今日の日経夕刊で、「パナソニック、最終赤字に 今期 テレビ事業1200億円損失」と言う記事が載っていて、最新鋭のプラズマパネル工場の尼崎第3工場を今期中に稼働停止するのだと報じていた。
   馬車馬のように持続的イノベーションに邁進しながらも、年率20%と言う価格破壊に翻弄されて、どこの会社も似たり寄ったりの何の差別化もないようなテレビを作っておれば、新興国メーカーの餌食になるだけであって、当然の帰結だが、前に、ソニーの所でも書いたが、もう、日本企業は、今やコモディティの最たるテレビ製造など止めて、その資金で、どこかの安全な国の国債でも買った方がましだと思っている。

   テレビの質はどんどん良くなっていると言うのだが、私の新しいビエラも、5年前に買ったビエラも、見ていてそれ程違うと思えない。大体、いくら機能が向上しても、より使い易くならなければ、無意味なのである。
   鳴り物入りで喧伝された3DTVも、放映やソフト不足などシステムとしての未熟故に、鳴かず飛ばずで、いつも書いているように、日本企業の行っているテクノロジーの深追いで、いくら、テレビの質の向上に邁進して持続的イノベーションを追及して見ても、既に、はるかに消費者の要求度を超えてしまって消費者がそれに対価を払わなくなっており、後は、情け容赦のない凄惨な価格競争だけの世界での競争であるから、利益など期待できる筈がない。
   昔、キヤノンの御手洗さんが、パソコンの生産量が低いので採算ベースに乗る筈がないとして撤退したと語っていたが、生産量が、断トツのトップか、アップルのように、破壊的イノベーションを興してブルーオーシャン市場を開拓するか、その能力がなければ、総合総合と言わずに、事業を見直して、ジャック・ウェルチのように1位か2位でなければ撤退した様に、赤字になるような事業は、利益基調への回復は困難であろうから、さっさと切ってしまって、戦略を立て直した方が良いのではないかと思う。
コメント
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