熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

「ウォール街を占拠せよ」運動から見えてくるアメリカ

2011年10月27日 | 政治・経済・社会
   邦字新聞やTV報道では見えて来ない「ウォール街を占拠せよ」運動について、WSJの電子版にちらちら載る記事から、少しずつ、アメリカの変質が見えて来て興味深い。
   やはり、サブプライム問題に端を発したリーマン・ブラザーズ・ショックで頂点に達した世界的金融危機の影響が、あまりにもアメリカの屋台骨を大きく揺さぶり過ぎたので、その後遺症でもあろうが、アメリカ社会が、丁度、大恐慌の時代に回帰したような状態となっている。
   特に、貧困と格差の問題が深刻な所為である。

   ここで思い出すのは、クルーグマンが、「格差はつくられた」で展開していた「大圧縮」論である。
   ”ルーズベルト時代のニューディール政策を、大恐慌からの経済浮揚改革と言う見方としてではなく、C.ゴールディンとR.マーゴが、1920年代から50年代のアメリカで起こった所得格差の縮小、つまり富裕層と労働者階層の格差、そして労働者間の賃金格差が大きく縮小したのを「大恐慌 THE GREAT DEPRESSION」と引っ掛けて「大圧縮 THE GREAT COMPRESSION」と呼んだのを引用して、ルーズベルトの福祉国家政策的な所得格差の縮小が社会と政治を質的に変化させ、1960年代初頭までの、比較的平等で民主的な中産階級社会を生み出した。”と言う見解である。
   現在の強者のみを利するアメリカ社会は、正に、共和党が意図的に築き上げたものだと詳細にその経緯を論じているが、逆に、この「大圧縮」は、政治改革によって、公平な所得分配を実現し、その過程でより健全な民主主義的な環境を作り上げることが出来るたのだから悲観することはないと説いていた。
   しかし、大きな時代の潮流の変わり目であった筈であり、チェンジに期待して鳴り物入りでアメリカ人が選出したオバマ大統領が、鳴かず飛ばずの期待外れで、完全に、「大圧縮」の期待が頓挫してしまったのである。

   現実には、貧困率で、2010年の公式貧困率(4人家族で所得が2万2314ドル(172万円)を割り込む世帯の構成人数の人口比)は15.1%に達しており、貧困者は数で見ると4600万人で、健康保険を持っていない人が、4900万人と言う高さで、歴史上最悪の格差社会になってしまって、最貧層は、現実に生きて行くのがやっとだと言う。
   逆に、最富裕層の1%が、全体所得の25%を得て、富の40%を支配しており、この極端な格差が、「我々は99%」と言う今日の全世界的なデモの原点となっている。
   「大圧縮」どころか、オバマ大統領の説くささやかな雇用創出政策さえ実現できなければ、アメリカ社会そのものが、崩壊の危機に瀕せざるを得ない、と言った状態であるにも拘わらず、保守派の金持ち優遇政策固守が頑強で、国論が真っ二つに割れたままで、進むに進めない状態が続いている。

   さて、WSJの記事で、4年制大卒の就職について語っていて、”米国の労働者を勝ち組と負け組みに分けるとすれば、4年生大学を出た計30%の人間が勝ち組に入るようにみえる。まず彼らには職がある。高卒労働者の失業率が9.7%なのに対し、四大卒のそれは4.2%だ。給料もいい。高卒と比べ65%給料が高い。
   しかし、四大卒の白人男性の80%が米国は間違った方向に進んでいると考えている。共和党と民主党は足の引っ張り合いをして、協力して物事を進めようという姿勢が感じられない。両党ともその責めを負うべきだ。と言う。
   大卒者が世帯主の家庭の税引き前給料は、1999年に9万9431ドルでピークを付けた後は下がり続け、2010年はピークより9%少ない9万0636ドルで、四大卒の学歴はもはや、安定した給料の上昇やアメリカン・ドリームの達成を保証するものではなくなった。この事実が米国経済はもはや大半の米国民には役立たないとの見方を広めるのに手を貸しており、この自信喪失が社会を蝕むことは避けられない。と言うのである。

   ところが、興味深いのは、「我々は99%」というスローガンを掲げた貧富格差抗議デモに異論を唱え、「私たちは53%」と主張する層がネットで支持を広げている。
   53%は、米国で連邦所得税を払っている納税者の割合を示す数字で、抗議デモの99%とは一線を画したいとの意向から、ブログやツイッターで声を上げ、個人の責任や労働倫理を説いている。と言うのである。
   米国人の大部分が制度の犠牲になっているという抗議デモの主張に反論して、「99%に欠けているのは自己責任の要素だ」「自分の運命の責任は自分にある」「私が成功しても失敗しても、原因は自分だ」と言うのだが、生きるか死ぬか、危機線上に追い込まれた路上生活者が、増加の一途を辿っていると言う現実を、どう見るのであろうか。

   大学を卒業し、その奨学金ローンもきちんと返済するというアメリカの標準モデルを体現する集団である四大卒達が、共和党も民主党も信用せず、自身および国全体の経済的将来に不安を抱いていること自体が、社会的に大問題だ。 と言うのが、David Wessel 記者の言だが、アメリカの良心とも言うべき公序良俗とアメリカン・ドリームの担い手であった中核グループの離反は、アメリカ民主主義と資本主義の最大の危機かも知れないと言う気がする。
   職につけなくて、奨学金を返せなくなり、夢も希望も失いつつあると言うのである。
   ジャパニーズ・ドリームなどには縁のなかった日本の若者たちは、もっと不幸だが、なまじ、ドリームが生き続けていたばかりに、アメリカの若者たちの反逆は、もっと、凄まじいのかも知れない。
      
コメント
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