熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

T・L・フリードマン&M・マンデルバウム著「かっての超大国アメリカ」

2013年07月04日 | 書評(ブックレビュー)・読書
   世界中の希望の星であった超大国アメリカが、惨憺たる状態に陥ってしまっている。
   なぜ、このような状態になってしまったのか。どこで道を間違ってしまったのか。
   そんな深刻な問題意識から現状分析をして、まだまだ、偉大なアメリカには、希望はあると、アメリカ合衆国に、活力を吹き込み、草の根のエネルギーをすべて巧みに制御し、経済成長を煽り、国民の士気を回復し、グローバルリーダーシップ発揮するにはどうすれば良いか、提言したのが、この本である。
   アメリカの良心とも言うべき二人の卓越した知的リーダーの現代アメリカ論であり、警世の書であるから、非常に、密度の高い素晴らしい本である。

   アメリカが、建国以来、歴史上、テクノロジーや社会の基準が変化して、どんな変わり目でも、世界で最も活気のある経済や民主主義を打ち立てて繁栄して来たのは、「アメリカの秘訣(Formula)」があったからである。
   この秘訣とは、国民向けの公共教育の充実、インフラ、移民に門戸を開放、基礎研究・開発への政府の支援、民間経済活動への必要な規制の実効、である。
   この秘訣を絶えずグレードアップすべきであったのだが、グローバリゼーションとIT革命と言う二本の大きな潮流の合流点と言う最も重要な転機であった21世紀の10年紀に、魔の二歳児とも言うべき稚拙極まりない愚行とも言うべき、正に逆行政治によって、財政赤字を増大させ、必須であった教育、インフラ整備、基礎研究や技術学問向上努力に手を抜き、社会をもっと開放して才能のある移民を受け入れようとする門戸をどんどん閉ざして、今日のアメリカの凋落を惹起してしまった。

   ベルリンの壁が崩壊して、共産主義の終焉によって、アメリカは強敵を失ってしまった故に、太平天国に酔いしれて、迫り来る四つの大きな難題――グローバリゼーションにどう適応するか、IT革命にどう順応するか、急増する巨額の財政赤字にどう対処するか、エネルギー消費が増加し気候変動の脅威が高まっている世界をどう運営するか――の重大性に気付かずに、無視、ないし、軽視してきた。
   アメリカのみならず、人類の未来を救うためにも、この難題を、全米一丸となって敢然と立ち向かって対処すべき時に、アメリカの二大政党政治は、深い溝と亀裂によって二極化の極に達してマヒ状態であって、妥協の余地など全くないような状態で、二進も三進も行かなくなってしまっている。
   少なくとも、必死になって、民主・共和両党は、ともにイデオロギーを捨てて、社会保障費、国防費、裁量経費など総ての分野における歳出削減、社会全体の増税、税の抜け穴を塞ぐことを認め、それに加えて、目標のはっきりしたインフラや基礎研究などR&Dへの投資を行わなければならない時、それも、緊急、一切の猶予も許されない時にである。

   ところで、興味深い解決法は、「ショック療法 Shock Therapy」と言う章で、二人が、アメリカの衰退を食い止めるためには、ある種の政治的不安定が必要だとして、政治的ショック療法を提言していることである。
   アメリカの政治体制は、両党とも、強力な特別利益集団に支配され、二大政党は激しく二極化し、思想的な痛みを伴う意義のある歩み寄りなど不可能となっているのだが、
   高度なITが一層急速に広まって来るグローバル化した経済でアメリカが成功するためには、政府が教育とインフラに投資しなければならないと言う民主党の考えは正しいし、
   国の経済発展の原動力は、民間セクターでなければならないし、政府は民間のイノベーションと起業家精神を奨励し、それが可能になるような政策を適応させなければならないと言う共和党の考えは正しいので、
   今のアメリカに必要なのは、敵対する二つの思想の恨みを残す妥協を、クリエイティブな統合に置き換える「ハイブリッド政治」を実現して、「さらなる高み」を目指すべきだと言うのである。

    アメリカの難題に取り組むために求められているのは、右派と左派の政治的範囲で、現状の民主党主流と共和党主流の立場の間にある広い領域のどこかに位置する中道派与党の政策で、正に、この「急進中道」の政治を必要としているのだと言う。
   この実現のために、種々のイデオロギーと構造面での障害を迂回する唯一の方法は、第三党もしくは独立派の大統領候補を擁立することだと言うのである。

   面白いのは、これまでに、第三党の候補が大統領になったことは一度もないし、二大政党政治が定着しているので勝つ見込みなどはサラサラないのだが、選挙に勝てなくても、勝った党の政治目標に影響を与えれば、成功を収めたのも同然であると、
   これまでの三度の例、1912年のセオドア・ルーズベルトのブル・ムース党の運動、1968年のジョージ・ウオレス・アラバマ州知事の運動、1992年のH・ロス・ペローの運動のケースを上げて、彼らが掲げた政策の殆どを勝利した政権が実現したと説明している。
   したがって、この第三党の大統領候補は、当選することはないが、長期的には、アメリカの歴史の方向性に、大統領に当選した人物よりもずっと大きな影響を及ぼすだろうと言うのである。

   著者たちは、正に、機は熟していると確信できると言う。
   二極化したことで、二大政党は国民全体の代表と言う性格を失いつつあり、独立派と言う無党派層の有権者が増えて来ている。
   世論調査で、国民の71%が、両党以外の候補者が大統領選挙に出ることが望ましいと答えている。
   過去三回の選挙で、選挙民がどちらかの方向に激しく揺れる「揺り戻し」選挙現象が起こっている。(余談だが、日本もこれかも知れない。) 
   ティパーティ運動が功を奏しているので、影響力のある独立派の台頭の可能性が出て来ている。
   IT革命のお蔭で、インターネットが、二大政党複占傾向を打ち破るかも知れない。等々であるが、とにかく、アメリカが目覚めなければ、Gゼロ後の世界は、グローバルベースで、混沌が広がって行くだけである。

   フリードマンの「フラット化する世界」や「グリーン革命」などは、グローバルベースの展開だったが、この本は、アメリカの歴史や政治に深く切り込んでいて、非常に興味深い本で、啓発されることが多かった。
   グローバリゼーションとIT革命によって急速に進展する知識社会の転換と職の大転換、教育や基礎研究・テクノロジー政策の重要性、アメリカ政治を極端な二極化に追い詰めた特殊利益団体の暗躍と政治の堕落等々、とにかく、面白くて、久しぶりに骨のある本を読んだ感じである。
   日本の政治家も読むべきかも知れない。
   原書で、読み返そうと思っている。
   
コメント
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