先日、楠木教授のこの本で展開されているイノベーション論に反論したが、アマゾンのブックレビューでも、かなり多くの辛口の評価が投稿されているように、私にとっても、随所で違和感を感じることが多い。
一つ一つ反論していても埒が明かないので、今回は、「グローバル化の理論」と言う個所に限って、私見を述べてみたい。
冒頭、マウリッツハイス美術館のフェルメールの「デルフトの眺望」を話題にして、鑑賞最適距離からの「点景」描写が如何に大切かを論じて、グローバル化で目を引く
第1の点景は、「言語の壁」だとして、英語力をメインに、コミュニケーション・スキル
第2の点景は、「多様性」、そのマネジメントで、多様性の「統合」こそ経営の本領だとして、「統合しないことによる統合」と「どこをローカルに任せ、どこをグローバルに統合」するかについて持論を展開している。
もう一つの論点は、それまでのロジックで必ずしも通用しない未知の状況でビジネスをやると言う「非連続性」こそグローバル化の正体があり、未知の未整理の土地で白紙から商売を興して行くと言う仕事がついて回るので、商売丸ごとを動かせる経営人材が必要であり、そのためには、早い段階から、商売センスのある人を抜擢して経験訓練を積ませことが大切である。と説いている。
要するに、グローバル化の本質は、非連続性に挑戦する経営の必要性にあり、この非連続性を乗り越えて行ける経営人材の見極めこそが、多くの日本企業にとって最重要課題であるので、そこさえ克服すれば、次々に可能性が拓ける筈である。と言うのである。
楠木教授の説には、特に、反論する必要はないと思うし、間違っているとは思わないが、ドラッカーが、日本は一番グローバル化が遅れた国であると言っていたことを考えても、例えば、日本本社のトップ・マネジメントそのものが、グローバル化、ないし、グローバル・ビジネスに十分対応できる体制なり能力が備わっていなければ、いくら、楠木教授が言うように現地へ派遣するトップなり従業員が、センスのある有能な経験者であっても、見殺しにしてしまうだけで成功の見込みなどあり得ない。
そして、もっと重要なことは、ローカルの政府や経済社会組織は勿論、グローバルで活躍しているMNEなどのトップリーダーと互角に渡り合える資質能力を、マネジメントや派遣社員に備えさせることが必須で、MBAやPhDなど海外のトップ教育研究機関の学位などをもっともっと取らせて、グローバル社会で受容され縦横無尽に活躍できる人材の質量等をアップして層を厚くすることが、何よりも大切である。
そうでなければ、勝負にさえならないであろうし、それだけの気概を持って態勢整備してグローバル市場に打って出るべきだと思っており、これらの点については、これまで、このブログで詳論しているので、今回は触れないことにする。
さて、まず、第一に、言語の壁についてだが、海外で事業を行おうとするのなら、そのローカル市場の言語、ないし、少なくとも英語を使ってビジネスが出来なければ、まず、失格と考えるべきであろう。
ローカル市場の文化文明、歴史習慣、国民性や気質等々全く違っていると考えて間違いないので、そのビジネス環境や市場を、その国の言葉、少なくとも、国際ビジネス語の英語を通じて、出来るだけ正確に掴めなければ、ビジネス感覚さえ働かない筈である。
楠木教授は、ブロークン英語でも通じれば良いのだと言うが、とにかく、ローカル・ビジネスで通用する言葉を駆使できることが必須で、通訳を使ってのグローバル・ビジネスなど考えるべきではない。(但し、語学力は必要条件だが、絶対に十分条件ではない。)
次の多様性についてだが、前述したように、外国との関わりがなければ、単一民族かつ単一言語で、強大な国内市場を持っていてそれだけでビジネスが成り立つ日本人には、国際感覚なりグローバル感覚など殆どないと思って間違いなく、一歩海外に出れば、悉く異文化異文明の世界との遭遇であり、カルチャ―ショックの連続である。
これを、楠木教授は非連続性と表現するのであろうが、要するに、これまで慣れ親しんで来た日本のビジネス感覚が完全にぶち切られて、日本の常識的なビジネス手法が通用しなくなると言うことであろう。
楠木イノベーション論の非連続性とも、ドラッカーの断絶の時代の非連続性とも違う概念であるが、連続、非連続と言った生易しい認識ではダメで、異文化異文明との遭遇であり、トインビーの「挑戦と応戦」エフェクトを巻き起こすくらいの気概がなければ発展性はなかろうと思う。
品質が良くて安いMade in Japanが、世界市場を制覇していたあの幸せな時代とは違って、正に、下克上とも言うべきクリエイティブ時代の熾烈なグローバル競争の激流に抗して打ち勝って行くためには、一歩も二歩も先を行く破壊的な攻撃力を供えなければならないのである。
また、楠木教授は、多様性に対処するためには、日本的エレメントとローカル・エレメントの統合が大切だと説くが、要するに、その進出先に最も適合したビジネス体制をグローカルミックスで構築すべしと言うことであろう。
現実には、当然のこととして、日本企業の経営・生産上の競争優位性を現地化の要請に合わせて適応したハイブリッド工場が、海外で生産活動を行っている。
マネジメントとしては、当然のことであり、何の疑問もないが、グローバル・ビジネストータルでのこの構築そのものが、非常に難しい難問題なのである。その前に、例えば、以前に触れたT・カナ&K・G・パレプの「新興国マーケット進出戦略」で論じたように、日本企業の既存の能力を土台に、如何に競争優位を構築して、進出国の「制度のすきま」を切り抜けるか、「すきま」を埋める機会を特定し、「市場仲介者」の役割を果たすことによって、如何に市場の現状の構造を有利に活用できるかなど本質的な経営問題を追求して、サステイナブルな戦略的ビジネス像をしっかり作り上げてから、ビジネス体制を考えべきであろうと思っている。
楠木教授のグローバル・ビジネス論だが、この後、MBAプログラムについても論じているのだが、その目的は、グローバルな経営センスを磨くことにあると言う。
この本のタイトルが「経営センスの理論」であり、経営センス、商売人としてのセンスと言った形で、センス、センスが連発されているのだが、センスと言う言葉自体が、曰く言い難く極めて曖昧模糊とした概念であり、非常に把握困難である。
MBA教育については、これまでに、ミンツバーグの理論を引いたりして、随分持論を綴って来たので、これ以上論じるつもりはないが、私自身は、ビジネスへの運転免許書であり、トップクラスのMBAは、グローバル・ビジネスへのパスポートだと思っている。
(追記)もう、随分前の話だが、オランダに4年いたので、フェルメールの「デルフトの眺望 下記の写真」は、何度もじっくりと見ている。
フェルメールに初めて会ってファンになったのは、始めての旅行で、アムステルダム国立博物館を訪れて「牛乳をそそぐ女」を見た時で、それから、故郷のデルフトを訪れたり、フェルメールと言っては、あっちこっちの美術館を回って、36くらいしか残っていないフェルメールの作品を30以上は観ている。
カメラ・オブスクラを使った精巧な、そして、色彩豊かで微妙な光を描いたフェルメールの絵を、光が微かに差し込む古いデルフトの家の佇まいの中で過ごしながら、感じたのも、今では、懐かしい思い出である。
一つ一つ反論していても埒が明かないので、今回は、「グローバル化の理論」と言う個所に限って、私見を述べてみたい。
冒頭、マウリッツハイス美術館のフェルメールの「デルフトの眺望」を話題にして、鑑賞最適距離からの「点景」描写が如何に大切かを論じて、グローバル化で目を引く
第1の点景は、「言語の壁」だとして、英語力をメインに、コミュニケーション・スキル
第2の点景は、「多様性」、そのマネジメントで、多様性の「統合」こそ経営の本領だとして、「統合しないことによる統合」と「どこをローカルに任せ、どこをグローバルに統合」するかについて持論を展開している。
もう一つの論点は、それまでのロジックで必ずしも通用しない未知の状況でビジネスをやると言う「非連続性」こそグローバル化の正体があり、未知の未整理の土地で白紙から商売を興して行くと言う仕事がついて回るので、商売丸ごとを動かせる経営人材が必要であり、そのためには、早い段階から、商売センスのある人を抜擢して経験訓練を積ませことが大切である。と説いている。
要するに、グローバル化の本質は、非連続性に挑戦する経営の必要性にあり、この非連続性を乗り越えて行ける経営人材の見極めこそが、多くの日本企業にとって最重要課題であるので、そこさえ克服すれば、次々に可能性が拓ける筈である。と言うのである。
楠木教授の説には、特に、反論する必要はないと思うし、間違っているとは思わないが、ドラッカーが、日本は一番グローバル化が遅れた国であると言っていたことを考えても、例えば、日本本社のトップ・マネジメントそのものが、グローバル化、ないし、グローバル・ビジネスに十分対応できる体制なり能力が備わっていなければ、いくら、楠木教授が言うように現地へ派遣するトップなり従業員が、センスのある有能な経験者であっても、見殺しにしてしまうだけで成功の見込みなどあり得ない。
そして、もっと重要なことは、ローカルの政府や経済社会組織は勿論、グローバルで活躍しているMNEなどのトップリーダーと互角に渡り合える資質能力を、マネジメントや派遣社員に備えさせることが必須で、MBAやPhDなど海外のトップ教育研究機関の学位などをもっともっと取らせて、グローバル社会で受容され縦横無尽に活躍できる人材の質量等をアップして層を厚くすることが、何よりも大切である。
そうでなければ、勝負にさえならないであろうし、それだけの気概を持って態勢整備してグローバル市場に打って出るべきだと思っており、これらの点については、これまで、このブログで詳論しているので、今回は触れないことにする。
さて、まず、第一に、言語の壁についてだが、海外で事業を行おうとするのなら、そのローカル市場の言語、ないし、少なくとも英語を使ってビジネスが出来なければ、まず、失格と考えるべきであろう。
ローカル市場の文化文明、歴史習慣、国民性や気質等々全く違っていると考えて間違いないので、そのビジネス環境や市場を、その国の言葉、少なくとも、国際ビジネス語の英語を通じて、出来るだけ正確に掴めなければ、ビジネス感覚さえ働かない筈である。
楠木教授は、ブロークン英語でも通じれば良いのだと言うが、とにかく、ローカル・ビジネスで通用する言葉を駆使できることが必須で、通訳を使ってのグローバル・ビジネスなど考えるべきではない。(但し、語学力は必要条件だが、絶対に十分条件ではない。)
次の多様性についてだが、前述したように、外国との関わりがなければ、単一民族かつ単一言語で、強大な国内市場を持っていてそれだけでビジネスが成り立つ日本人には、国際感覚なりグローバル感覚など殆どないと思って間違いなく、一歩海外に出れば、悉く異文化異文明の世界との遭遇であり、カルチャ―ショックの連続である。
これを、楠木教授は非連続性と表現するのであろうが、要するに、これまで慣れ親しんで来た日本のビジネス感覚が完全にぶち切られて、日本の常識的なビジネス手法が通用しなくなると言うことであろう。
楠木イノベーション論の非連続性とも、ドラッカーの断絶の時代の非連続性とも違う概念であるが、連続、非連続と言った生易しい認識ではダメで、異文化異文明との遭遇であり、トインビーの「挑戦と応戦」エフェクトを巻き起こすくらいの気概がなければ発展性はなかろうと思う。
品質が良くて安いMade in Japanが、世界市場を制覇していたあの幸せな時代とは違って、正に、下克上とも言うべきクリエイティブ時代の熾烈なグローバル競争の激流に抗して打ち勝って行くためには、一歩も二歩も先を行く破壊的な攻撃力を供えなければならないのである。
また、楠木教授は、多様性に対処するためには、日本的エレメントとローカル・エレメントの統合が大切だと説くが、要するに、その進出先に最も適合したビジネス体制をグローカルミックスで構築すべしと言うことであろう。
現実には、当然のこととして、日本企業の経営・生産上の競争優位性を現地化の要請に合わせて適応したハイブリッド工場が、海外で生産活動を行っている。
マネジメントとしては、当然のことであり、何の疑問もないが、グローバル・ビジネストータルでのこの構築そのものが、非常に難しい難問題なのである。その前に、例えば、以前に触れたT・カナ&K・G・パレプの「新興国マーケット進出戦略」で論じたように、日本企業の既存の能力を土台に、如何に競争優位を構築して、進出国の「制度のすきま」を切り抜けるか、「すきま」を埋める機会を特定し、「市場仲介者」の役割を果たすことによって、如何に市場の現状の構造を有利に活用できるかなど本質的な経営問題を追求して、サステイナブルな戦略的ビジネス像をしっかり作り上げてから、ビジネス体制を考えべきであろうと思っている。
楠木教授のグローバル・ビジネス論だが、この後、MBAプログラムについても論じているのだが、その目的は、グローバルな経営センスを磨くことにあると言う。
この本のタイトルが「経営センスの理論」であり、経営センス、商売人としてのセンスと言った形で、センス、センスが連発されているのだが、センスと言う言葉自体が、曰く言い難く極めて曖昧模糊とした概念であり、非常に把握困難である。
MBA教育については、これまでに、ミンツバーグの理論を引いたりして、随分持論を綴って来たので、これ以上論じるつもりはないが、私自身は、ビジネスへの運転免許書であり、トップクラスのMBAは、グローバル・ビジネスへのパスポートだと思っている。
(追記)もう、随分前の話だが、オランダに4年いたので、フェルメールの「デルフトの眺望 下記の写真」は、何度もじっくりと見ている。
フェルメールに初めて会ってファンになったのは、始めての旅行で、アムステルダム国立博物館を訪れて「牛乳をそそぐ女」を見た時で、それから、故郷のデルフトを訪れたり、フェルメールと言っては、あっちこっちの美術館を回って、36くらいしか残っていないフェルメールの作品を30以上は観ている。
カメラ・オブスクラを使った精巧な、そして、色彩豊かで微妙な光を描いたフェルメールの絵を、光が微かに差し込む古いデルフトの家の佇まいの中で過ごしながら、感じたのも、今では、懐かしい思い出である。
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