熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

アフリカは、ブレイクアウト・ネーションになるのか

2013年07月11日 | 政治・経済・社会
   横浜で開催された第5回アフリカ開発会議(TICAD5)に対する安倍内閣の入れ込みようなどもあって、最近、テレビでも、新聞雑誌でも、アフリカ経済の成長加速現象を反映して、アフリカ市場が注目されて来ている。
   プラハラードのBOPビジネスの対象として注目される点から言っても、日本企業にとっても、中国や韓国と比べて、遅れを取り戻すためにも、努力を傾注すべき市場かも知れない。
   ゴールドマン・ザックスのネクスト11には、エジプト、ナイジェリア、
   ルチル・シャルマのブレイクアウト・ネーションズには、南アフリカ、ナイジェリア、東アフリカ共同体等が列記されている。

   さて、IT革命とグローバリゼーションの進展によって、近年では、遅れていた発展途上国でも、人口やエネルギー、天然資源等に恵まれていると、世界中から資金を集めて、最先端の科学技術や経営手法を活用して、一気に、経済発展を加速して、キャッチアップできると言う錯覚なり風潮が強くなって来ている。
   この典型が、成長著しい中国とインドで、両国が、共産主義体制から資本主義へ転向し、長年にわたって押さえつけられていたダイナミズムが一挙に爆発して、社会制度を大きく変えることなく、一寸した改革によって、一気に高度経済成長を達成して、経済大国として伸し上ってきた。
   ところが、ダニエル・コーエンは、この転向が持続する保証は全くなく、その判断を下すには慎重でなければならないと言う。経済的発展は必ず政治的発展を促すと考えるよりも、政治が経済的発展から受ける影響には、本質的に両義性があって、経済活動は、二つの方向に、同時に作用すると考えた方が良いと言うのである。
   私は、中国などは、政治的に暗礁に乗り上げると思っているのだが、現在、中所得国の罠についても心配されているし、第一、かっての日本と違って、経済力の巨大さと人口圧力が桁違いに大きなっていて、その成長と発展を、グローバル経済のみならず、宇宙船地球号さえ、吸収できない筈である。

   ところで、ここで問題にしたいのは、中国やインドのことではなく、アフリカの発展である。
   近代の経済成長は、国民国家の近代的枠組みに依拠しなければならず、社会に根差す深い下部構造が重要であり、それが整っていないグローバリゼーションから取り残されたポール・コリアーが言う「最底辺の10億人」には、無理だと、ダニエル・コーエンは、言うのである。
   富を生産するためには、資本(機械)、人材(教育・公衆衛生)、効果的な社会制度(きちんと整備された市場、公平な司法)がほぼ同等の割合で必要であり、このうちの後者二つ(人的資本と社会制度)は、国家が生み出す社会インフラであって、この国家が責任を負う「公共財」が、十分に整備されていなければ、経済成長のみならず、健全な発展は無理だと言うことである。

   ここで、コーエンは、日本を引き合いに出して、
   日本が成功した理由は、国が、学校・公衆衛生・司法・領土など、基本的な公共財をきちんと整備したからであり、このやり方を、アジア全域でコピーしたからこそ、今日のアジアの隆盛があるのだと説いている。
   ところが、アフリカ諸国には、これらの要因が徹底的に欠如しており、これこそが、成功した日本と、アフリカの将来の決定的な差だと、コーエンは説くのである。

   テレビで放映されていたが、アフリカでは、ほんの数キロ離れたところと交易するにも、交通網が整備されていないので大変な困難を伴う。確かに、ケニアでは、M-ペサと言う携帯電話を使用した新しい決済サービスおよび送金サービスと言ったICT技術を活用したビジネスが銀行業の代わりを果たすなど、新ビジネス、BOPビジネスが、生まれてはいるのだが、本格的な国家の経済発展には、それ程、役には立っていない。

   少し前に、T・カナ&K・G・パレプ著「新興国マーケット進出戦略」のブック・レビューで、
    新興国市場(エマージング・マーケット)とは、”買い手と売り手を、容易に、あるいは、効率的に引き合わせて取引させる環境が整っていない国々の市場のことで、理想としては、どの経済でも、市場の機能を支える各種制度が整っていることが望ましいのだが、発展途上国の場合、多くの面で、それが不十分なのである。”と書いたが、
   正に、これこそが、コーエンが言う「公共財」の欠如で、
   この制度が整わない領域、すなわち、「制度のすきま(institutional void)」が、市場をエマージング(発展途上)の状態にして、これらが取引コストを高くしたり、業務が様々な障害に阻まれる原因となるのだが、新興国には、必ずこの制度のすきまがあり、夫々の国には固有の歴史、政治、法律、経済、文化的要因が市場を形成しており、新興国毎に、具体的なすきまの種類や組み合わせや深刻度が市場によって異なるので、その市場の攻略のためには、この制度のすきまに対処するために、如何に、適切な進出戦略を打ち立てるべきかが、多国籍企業や進出企業にとって最も重要な経営戦略だと、カナとパレブは説いているのである。

   例えば、ネットショッピングを考えれば分かるが、インターネットが通じているからではなくて、決済システムから流通ロジスティック、関連する司法体制など、高度に完結した公共財としての経済社会体制が整備されているからこそ、アメリカにはアマゾンがあり、日本には楽天があり、中国にはアリババがあるのであって、アフリカ諸国がキャッチアップするためには、まだまだ、時間がかかるであろう。

   話が、少し脱線してしまったのだが、
   確かに、アフリカは、将来的には、有望なブレイクアウト・ネーションズの資格のある国があって、日本企業としては、事業展開を図るべきエマージング・マーケットではあるのだが、ゴールドマン・ザックスやモルガン・スタンレーのレポートに安易に乗せられるのではなくて、十分にアフリカのホスト国の「公共財」の現状を理解して、「制度のすきま」を埋めるべく、イノベーションなり、ビジネスモデルの構築に自信を持ってから、臨むべきであろうと思っている。
   
コメント
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