日本人にとって、地政学上、中国がどのような位置にあるのか、非常に関心の高いトピックスである。
中国の台頭は、今昔の感で、私自身、イギリスにいて、フィナンシャル・タイムスやタイムスなど主要メディのアジアのタイトルが、chinaとなって、japanが消えて行くのを見ながら、アジアの権力の移行なり、欧米メディアの関心が、一気に中国にシフトして行くのを知って、日本の凋落を感じたのだが、今や、経済力、国力の差は歴然としていて、尖閣諸島問題など、中国が脅威にさえなってしまった。
東シナ海のみならず、もっとアグレッシブに領土拡大を試みている中国の南シナ海問題に対して、
これは、毎日ニュースのタイトルだが、
”<南シナ海>中国の主張「九段線」認めず 仲裁裁判所判決”
フィリピンが申し立てた仲裁手続きに対して、オランダ・ハーグの仲裁裁判所は、12日、南シナ海をめぐる中国の主張や行動は国連海洋法条約違反だとして、中国が「歴史的権利」として主張する「九段線」について国際法上の根拠は認められないとの裁定を下した、「人工島」の海洋権益についても否定した。南シナ海のほぼ全域の主権を主張して強引に進出する中国に対し、初めて国際法に基づく判断が下されたのである。
裁定は、南シナ海で実効支配の拡大を続けている中国側の主張を退けたが、中国は、これまで通り一貫して裁定を無視する姿勢を続けるであろう。強制的に裁定に従わせる罰則などの手段はないのだが、国際法違反だと明確に裁定されたのであるから、国際社会が、中国に対して、司法判断の尊重を求める圧力を高めるのは必至となり、中国が窮地に追い込まれるのは必置で、南シナ海情勢は一段と緊迫度を増してくるであろう。
この九段線については、「中国4.0」で、ルトワックが、
九段線の元となった地図は、中国が実効支配的な支配力をほとんど持たなかった時期に国民党の軍の高官が酔っ払らいながら描いたもので、こんな馬鹿げたでっち上げの地図に拘るなど初めからない。と書いていることは、先に紹介済み。
更に、正確を期するために、ウォールストリート・ジャーナルのAndrew Browneの記事と写真を引用しておくと、
”「九段線」はこれまで常に不可解なものだった。旧中国国民党政権が台湾に逃れる前の内戦終戦前の混沌とした時期である1946年に描かれたものだ。実際、当初は9本ではなく11本だった。勝利を収めた共産党員がこの線を採用した後、1953年にそのうち2本が削除された。地図作成者は規模と正確さを尊重するが、九段線は正確な位置を示していない。太くて黒いマジックペンで書き足されたように見える。
さらに、中国政府がこの九段線の意味を適切に説明したことはない。(前述の根拠のない線引きなら、説明など出来る筈がない)。この線の内部に点在する領域の要所に対する「疑う余地のない主権」という中国の主張は、この線自体から発生しているのだろうか。あるいは、その逆で、この線は領域の要所と周辺の海域から発生しているのだろうか?”

こうした理由のため、国際法に従えば、九段線の正当性が認められる可能性はほとんどないだろうというのが、欧米の法学者たちの一般的な見解だ。と結んでいたが、その通りに裁定が下されたのである。
前置きが長くなってしまったが、それでは、中国が、何故、海洋進出とその覇権確立に躍起となっているのか、「大中華圏」1章を割いて中国を語っているので、カプランの見解を考えてみたい。
かっての中国は、古代から万里の長城を築いたり、ロシアなど隣接する強国などとの鬩ぎ合いで国境警備が大変であったが、現時点での中国の陸の国境は、危険よりも機会に恵まれており、インド亜大陸と朝鮮半島を除けば、競合諸国とぶつかり合うことなく、単に空間を埋めているだけであり、人民解放軍が中国国境を超えるのは、誤算が生じた時のみである。
冷戦当時、毛沢東の中国は、国防予算を陸軍に集中させる必要があったために、海上の防衛が手薄であった。
ところが、現在は、陸の国境に敵なく、陸上において非常に有利な位置を占めているので、軍事予算を大きく海の国防のために回して、海軍力の増強に取り組み、太平洋とインド洋を、勢力圏として再び確立し始めることが出来るようになった。
外洋に面した都市国家や島国がシーパワーを求めるのは当然だが、中国の様な閉鎖的な大陸国がシーパワーを追及するのはぜいたくであり、何らかの「帝国」が生まれつつあることの証左である。とカプランは言う。
加えて、現実には、日本からオーストラリアまでびっしり張り巡らされた「逆・万里の長城」とも言うべきアメリカの同盟国による監視塔が存在して、中国は、この身動きが取れない状態にいらだっており、著しく攻撃的な方法で、この問題に対処してきた。
したがって、21世紀の中国は、主に海軍を通じて勢力を投射することになるであろう。と言うのである。
カプランは、第二次世界大戦中に、ニコラス・J・スパイクマンが、「アメリカの地中海(カリブ海)論」に倣って、中国が、近代化し、活性化し、軍事化すれば、「アジアの地中海(南シナ海)」の沿岸帯の大部分を支配し、日本のみならず、西洋列強の地位を脅かすと予言していたのを紹介して、この地域への中国の経済進出が政治的な含みを帯びることは間違いなく、この海域が、中国空軍によって支配される日が来ることは容易に想像されると述べている。
また、中国は、制海権を握ることが如何に重要か、「制海権は共通海域から敵船の旗を一掃する圧倒的な力になる」と説くアルフレッド・セイヤー・マハンへの傾倒を益々強めており、中国海軍は、規模と範囲の拡大に傾注している。
中国海軍は、西太平洋を越えて、インド洋への進出を目論んでおり、インドは脅威を感じ始めている。近隣諸国に、多額の軍事・経済援助を行い、政治的支援を提供しており、ミャンマーのチャウピュ、バングラデシュのチッタゴン、スリランカのハンパントタ、パキスタンのグワダルなどのインド周辺で、港湾の建設・改修を進めている。
まずは、ヨーロッパへの経済的布石だとしても、あれ程、共産化を恐れて、EUとNATOにギリシャを引き入れたにも拘らず、何故、中国が、地中海への突破口・アテネの外港ピレウスを抑えたのを、米欧は阻止しなかったか不思議だが、とにかく、中国が、制海権を握ろうと必死に動き始めたことは事実であろう。
南シナ海は、中国にしてみれば、マラッカ海峡を経て、インド洋と中近東、アフリカへ抜ける最も重要な生命線とも言うべき海域であるから、大唐帝国への回帰を国是とする中国にとっては、絶対落とせない布石なのである。
今回の仲裁裁判所の裁定が、どのように推移して行くのか、問題山積みの東シナ海と南シナ海への中国のアグレッシブな外交・軍事戦略が、風雲急を告げている。
中国の台頭は、今昔の感で、私自身、イギリスにいて、フィナンシャル・タイムスやタイムスなど主要メディのアジアのタイトルが、chinaとなって、japanが消えて行くのを見ながら、アジアの権力の移行なり、欧米メディアの関心が、一気に中国にシフトして行くのを知って、日本の凋落を感じたのだが、今や、経済力、国力の差は歴然としていて、尖閣諸島問題など、中国が脅威にさえなってしまった。
東シナ海のみならず、もっとアグレッシブに領土拡大を試みている中国の南シナ海問題に対して、
これは、毎日ニュースのタイトルだが、
”<南シナ海>中国の主張「九段線」認めず 仲裁裁判所判決”
フィリピンが申し立てた仲裁手続きに対して、オランダ・ハーグの仲裁裁判所は、12日、南シナ海をめぐる中国の主張や行動は国連海洋法条約違反だとして、中国が「歴史的権利」として主張する「九段線」について国際法上の根拠は認められないとの裁定を下した、「人工島」の海洋権益についても否定した。南シナ海のほぼ全域の主権を主張して強引に進出する中国に対し、初めて国際法に基づく判断が下されたのである。
裁定は、南シナ海で実効支配の拡大を続けている中国側の主張を退けたが、中国は、これまで通り一貫して裁定を無視する姿勢を続けるであろう。強制的に裁定に従わせる罰則などの手段はないのだが、国際法違反だと明確に裁定されたのであるから、国際社会が、中国に対して、司法判断の尊重を求める圧力を高めるのは必至となり、中国が窮地に追い込まれるのは必置で、南シナ海情勢は一段と緊迫度を増してくるであろう。
この九段線については、「中国4.0」で、ルトワックが、
九段線の元となった地図は、中国が実効支配的な支配力をほとんど持たなかった時期に国民党の軍の高官が酔っ払らいながら描いたもので、こんな馬鹿げたでっち上げの地図に拘るなど初めからない。と書いていることは、先に紹介済み。
更に、正確を期するために、ウォールストリート・ジャーナルのAndrew Browneの記事と写真を引用しておくと、
”「九段線」はこれまで常に不可解なものだった。旧中国国民党政権が台湾に逃れる前の内戦終戦前の混沌とした時期である1946年に描かれたものだ。実際、当初は9本ではなく11本だった。勝利を収めた共産党員がこの線を採用した後、1953年にそのうち2本が削除された。地図作成者は規模と正確さを尊重するが、九段線は正確な位置を示していない。太くて黒いマジックペンで書き足されたように見える。
さらに、中国政府がこの九段線の意味を適切に説明したことはない。(前述の根拠のない線引きなら、説明など出来る筈がない)。この線の内部に点在する領域の要所に対する「疑う余地のない主権」という中国の主張は、この線自体から発生しているのだろうか。あるいは、その逆で、この線は領域の要所と周辺の海域から発生しているのだろうか?”

こうした理由のため、国際法に従えば、九段線の正当性が認められる可能性はほとんどないだろうというのが、欧米の法学者たちの一般的な見解だ。と結んでいたが、その通りに裁定が下されたのである。
前置きが長くなってしまったが、それでは、中国が、何故、海洋進出とその覇権確立に躍起となっているのか、「大中華圏」1章を割いて中国を語っているので、カプランの見解を考えてみたい。
かっての中国は、古代から万里の長城を築いたり、ロシアなど隣接する強国などとの鬩ぎ合いで国境警備が大変であったが、現時点での中国の陸の国境は、危険よりも機会に恵まれており、インド亜大陸と朝鮮半島を除けば、競合諸国とぶつかり合うことなく、単に空間を埋めているだけであり、人民解放軍が中国国境を超えるのは、誤算が生じた時のみである。
冷戦当時、毛沢東の中国は、国防予算を陸軍に集中させる必要があったために、海上の防衛が手薄であった。
ところが、現在は、陸の国境に敵なく、陸上において非常に有利な位置を占めているので、軍事予算を大きく海の国防のために回して、海軍力の増強に取り組み、太平洋とインド洋を、勢力圏として再び確立し始めることが出来るようになった。
外洋に面した都市国家や島国がシーパワーを求めるのは当然だが、中国の様な閉鎖的な大陸国がシーパワーを追及するのはぜいたくであり、何らかの「帝国」が生まれつつあることの証左である。とカプランは言う。
加えて、現実には、日本からオーストラリアまでびっしり張り巡らされた「逆・万里の長城」とも言うべきアメリカの同盟国による監視塔が存在して、中国は、この身動きが取れない状態にいらだっており、著しく攻撃的な方法で、この問題に対処してきた。
したがって、21世紀の中国は、主に海軍を通じて勢力を投射することになるであろう。と言うのである。
カプランは、第二次世界大戦中に、ニコラス・J・スパイクマンが、「アメリカの地中海(カリブ海)論」に倣って、中国が、近代化し、活性化し、軍事化すれば、「アジアの地中海(南シナ海)」の沿岸帯の大部分を支配し、日本のみならず、西洋列強の地位を脅かすと予言していたのを紹介して、この地域への中国の経済進出が政治的な含みを帯びることは間違いなく、この海域が、中国空軍によって支配される日が来ることは容易に想像されると述べている。
また、中国は、制海権を握ることが如何に重要か、「制海権は共通海域から敵船の旗を一掃する圧倒的な力になる」と説くアルフレッド・セイヤー・マハンへの傾倒を益々強めており、中国海軍は、規模と範囲の拡大に傾注している。
中国海軍は、西太平洋を越えて、インド洋への進出を目論んでおり、インドは脅威を感じ始めている。近隣諸国に、多額の軍事・経済援助を行い、政治的支援を提供しており、ミャンマーのチャウピュ、バングラデシュのチッタゴン、スリランカのハンパントタ、パキスタンのグワダルなどのインド周辺で、港湾の建設・改修を進めている。
まずは、ヨーロッパへの経済的布石だとしても、あれ程、共産化を恐れて、EUとNATOにギリシャを引き入れたにも拘らず、何故、中国が、地中海への突破口・アテネの外港ピレウスを抑えたのを、米欧は阻止しなかったか不思議だが、とにかく、中国が、制海権を握ろうと必死に動き始めたことは事実であろう。
南シナ海は、中国にしてみれば、マラッカ海峡を経て、インド洋と中近東、アフリカへ抜ける最も重要な生命線とも言うべき海域であるから、大唐帝国への回帰を国是とする中国にとっては、絶対落とせない布石なのである。
今回の仲裁裁判所の裁定が、どのように推移して行くのか、問題山積みの東シナ海と南シナ海への中国のアグレッシブな外交・軍事戦略が、風雲急を告げている。