熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

ロバート・D・カプラン著「地政学の逆襲」(4)「パックス・アメリカーナは中国に有利?」

2016年07月14日 | 書評(ブックレビュー)・読書
   先のブレマーのブックレビューで触れたのだが、
   東アジアは別として、アメリカが従来通り軍事的優位を保ってくれて、中国の経済成長を阻む、発展の障害となる世界的な紛争と言うリスクが抑えて貰えれば、中国が、世界的なリーダーとして役割を果たすべきプレッシャーから解放されるので、中国にとっては、むしろ、好都合である。と述べている。
   すなわち、パックス・アメリカーナは、中国の国益にもかなっている。と、ブレマーは主張しているのである。
   中国が、何の不安もなく、マラッカ海峡を通過して、中東の石油にアクセスできるのも、アフリカから天然資源を自由に輸入できるのも、米軍の航行安全維持の世界戦略故であり、中国は何のコストも負担することなく、アメリカの構築した公共財を享受できているのである。

   同じような見解を、形は違っているが、カプランも本書で述べている。
   その部分を一部引用すると、
   ミアシャイマーなどは、・・・・アメリカが中東の無駄な戦争に多大な資源を費やしている間に、中国が最新の防衛技術を獲得したことに憤りを感じている。たとえアメリカがアフガニスタンとパキスタンを安定化させることが出来たとしても、その恩恵を主に受けるのは中国なのだ。中国は、エネルギーや戦略的鉱物資源を確保するために、この地域全体に道路やパイプラインを建設することが出来るからだ。

   先にルトワックの「中国4.0」で論じたように、このパックス・アメリカ―ナを上手く利用して、中国は、2000年頃までは、世界に対して「平和的台頭」を示して、、北京のリーダーたちは、合理的な費用対効果の推測を含んだ冷静な計算をして、弱者を装って、欧米や日本から支援や投資を受け続けて、大国への道を成功裏に歩んできた。
   ところが、この「平和的台頭」さえ維持しておれば、中国は反発を受けることなく外界の荒波にもまれることなく、穏やかな国際環境を泳いでいけた筈なのだが、リーマンショックで経済危機に直面した欧米日などを尻目に、中国は、経済的な成功に舞い上がって、「金は力なり」と、カネと権力の混同と言う錯誤を侵して、更に、経済力と国力の関係を見誤って、一気に馬脚を現して、世界覇権への道へ舵を切った。
   習近平自身が就任演説以降、「中華民族の偉大なる復興という中国の夢の実現」を標榜しているように、そして、先日、カプランの解説を記したように、中国は、「帝国」への道を突っ走り始めた。

   今回の南シナ海の領有権問題に対する仲裁裁判所の裁定を、「紙屑」だと、北京政府自らが、国際法規と国際秩序を否定して憚らない、この野蛮極まりない暴挙に対して、国際社会は、どう対処するのか。
   フィリピンのTVでは、仲裁裁判の裁定後、フィリピンの漁船が、スカボロー海域に入ろうとしたら、中国の船が侵入を妨害して入れなかったと詳細に実況で報じていた。
   日本人のように、「恥」を知る民族かどうかは知らないが、国際社会、すなわち、グローバル世間に対する顔向けが出来るのかどうか。

   さて、この本は、何も、中国だけを書いているのではなく、ヘロドトスから、ナチス、そして、冷戦、地域論においても、ヨーロッパ、ロシア、インド、イラン、トルコ、メキシコ等々、多岐に亘って、地理や地政学、外交や軍事、戦争と平和、民族の興亡など、微に入り細に入り論述していて、非常に興味深くて面白い。
   私は、NHKのBS1の7時からの「キャッチ!世界のトップニュース」と夜10時からの「国際報道2016」を見ることにしているのだが、この本のお陰で、益々、面白くなってきている。
コメント
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