早稲田大学比較法研究所が主催して、
シンポジウム「アベノミクスの異次元性を問う-『経済と法』の何が破壊されているのか?」が開かれたので聴講した。
アベノミクスおよび安倍政権の危うい政治について、経済的および法学的側面から、何が破壊されているのかを、分析検討しようと言う意欲的な試みである。
プログラムは、」次の通り。
「中央銀行による財政ファイナンスの危険性について」野口 悠紀雄氏(経済学) 早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問
「アベノミクスは『資本の成長戦略』にして『中間層の没落戦略』」 水野 和夫氏(経済学) 法政大学法学部教授
「リーガルマインドなきアベノミクスが破壊しているもの」 上村 達男教授(会社法・資本市場法) 早稲田大学法学学術院教授
「持続可能社会への転換に逆行する法政策-農地法制を中心に」 楜澤 能生教授(法社会学・農業法) 早稲田大学法学学術院長
パネルディスカッション
私自身が、十分に理解できたかどうかは疑問であり、正確にその意図を伝えられるかどうかは分からないが、選挙前でもあり、非常に重要な課題を示唆しているので、備忘録として残しておきたい。
まず、野口教授の「中央銀行による財政ファイナンスの危険性について」
日本銀行は量的金融緩和として、毎年80兆円の国債を購入し、一方、財務省は毎年40兆円の国債を発行している。国債を直接日本銀行が引き受けることは、財政ファイナンスとなって、財政法第5条で禁止されているので、日本銀行は、それを迂回するために、途中で、発行直後の長期国債などを金融機関を通して、間接的に購入することで回避しているのである。
現実には、日銀の国債保有量は、300兆円を突破しているようだが、それに肉薄する形で当座預金残高があるので、通貨量は増加しておらず、財政ファイナンスの貨幣化は起こっていない。
しかし、償還期限が来れば政府は財源を調達しなければならず、また、現下のマイナス金利などは銀行にとっては負のインセンティブであり、何かの切っ掛けで、当座預金の取り崩しが発生すると、日銀は貨幣を印刷せざるを得なくなって、インフレ懸念が増大する。
カーメン・M・ラインハートとケネス・S・ロゴフが、『国家は破綻する――金融危機の800年』で、国家の破綻はよくあることで、銀行危機が、通貨暴落とインフレを引き起こし、これを経由して対外債務・対内債務のデフォルトが起こる。と説いており、日本は、正にこの道を突き進みつつある。
日銀と政府が画策する日銀の国債の多量購入は、国債を返さなくても良い債務に化けさせる、財政ファイナンス、行く行くは、貨幣化となるので、インフレへの道へ一直線。
野口教授は、脱法行為、
上村教授は、違法行為 だと仰る。
フランスの詐欺師大臣ジョン・ローのでっちあげたミシシッピー会社のように泡沫と化すのか、先の大戦で、戦後に国債が暴落して紙くずととなったように、ハイパーインフレで借金棒引きにするのか、歴史は、哀れな末路しか示し得ていないと言う。
この日銀の異次元緩和が、日本経済のみならず、日本の将来を窮地に追い込むカンフル剤だとするならば、どうするのか。
「国家は破綻する」については、ブックレビューしており、ケインズ派のクルーグマンが、ラインハートとロゴフを糾弾していることは、このブログで紹介済みだが、私は、歴史が証明していることでもあり、どうひっくり返っても、日本国の債務が減少する筈がないと思っているので、この危うい日銀の異次元緩和の異常とも言うべき国債購入は、非常に憂慮すべきだと思っている。
野口教授は、対抗通化として仮装通貨ビットコインの話もしていたが、金融は大きな曲がり角に差し掛かっていると言うことであろう。
さて、水野和夫教授のアベノミクス批判は、もっと激しい。
既に、資本主義そのものが、有望な実物投資先がなくなってしまって、更に、経済が資本の異常な蓄積で過剰状態になっている。アベノミクスで、いくらマイナス金利を実施して金融緩和をしても財政出動しても、投資の行き場がなくなった経済への「資本の成長戦略」であるから、やればやるだけ、日本経済を一層疲弊させるだけだ。と切って捨てる。
金融緩和や積極財政で、一時的に景気が回復しても、すぐに、その後バブルが崩壊するなど景気が悪化すれば、途端に企業は賃金を引き下げ従業員を解雇するなど弱者にシワ寄せし、経済格差の拡大を増幅させるだけである。
酷いのは、アベノミクスは、正に、中間層の没落戦略とも言うべき悪政で、ピケティの言う富裕層は益々豊かになり、下層階級は益々所得減で借金が増資して貧しく、今後の生活の見通しが暗くなる一方であると、資料を駆使して克明に説き続ける。
野口教授や上村教授の指摘するように違法・脱法行為を行いながらも、鳴り物入りでアベノミクスが遂行されても、いまだに、デフレ脱却は道半ばで、経済は足踏み状態であり、経済格差地方格差はどんどん拡大して、国民を苦しめ続けていると言うこの現実をどう見るのか。
資本主義経済そのものが、曲がり角に差し掛かっていると言うことで、水野教授の指摘するように電信柱の長いのもポストの赤いのもすべてアベノミクスが悪いと言う訳ではなかろうが、更に、『資本の成長戦略』『中間層の没落戦略』で、その傾向を煽っていると言うことであろう。
私自身としては、資本主義経済が成熟化してしまって投資機会が枯渇して成長の余地がなくなったと言う指摘には多少疑問を持っているのだが、視点が違う所為もあり興味深く聞いていた。
上村教授の講義は、「リーガルマインドなきアベノミクスが破壊しているもの」と言うタイトルからして、凄まじい。
明治以降営々と積み上げてきた日本の法体系、規範意識を、安倍政権が如何に破壊し続けてきたか、選挙によって一切が許される政権と言う幻想を抱いて、リーガルマインドなき政権運営、経済運営をしてきたか、
違憲の審査のない日本で法の番人とも言うべき法制局長官に、専門的なモノの考え方ができない素人を任命したり、NHKの人事や予算の与野党一致の原則を破って押し切ると言った話を皮切りに、日銀、財政、日本改造論、研究成果最大化主義の文教行政、コーポレート・ガバナンス等々多岐に亘って、リーガルマインドなきアベノミクスを鋭く糾弾する。
私など、法律については全く素人だが、安保法案については、国会で3人の憲法学者が相次いで「安保法案は憲法違反」との見解を示し、更に、199人の憲法学者も「憲法違反」との見解を表明したにも拘わらず、押し切ってしまった時には、唖然として、これで、日本も法治国家とは言えなくなってしまったと思った。
それに、トランプなどは、アベはキラーだと言ったと言うのだが、世界の識者たちが、安倍首相の右傾化、極端に言うと日本軍国主義の復活を危惧し始めていると言う傾向も否定し辛くなった感じで、一寸残念である。
上村教授もメモ書きしているのだが、高村副総裁の「たいていの憲法学者より私の方が考えてきたという自信はある」と言う発言に至っては、言語道断。如何に、日本の政治の水準がお粗末か、今になって気付いて唖然としている。
上手く伝えられないので、上村教授のレジュメの「おわりに」を引用しておきたい。
”アベノミクスが戦争や大災害や英国のEU離脱を想定していないとしても、そうしたことがおこりうることが常に法制度論の根幹にある。
アベノミクスがどのような結果をもたらしたとしても制度や規範の破壊は、明治以来の地道な制度論の展開や理論の進展を台無しにし、日本の比較法をベースにした法理のグローバルな指導性の芽を摘む取り返しのつかない事態と言える。
株価と選挙に特化した反知性主義ポピュリズム政権の罪はあまりにも大きい。”
良識ある識者や学者たちが危惧するように、日本の将来に取って、アベノミクスが多くの問題を抱えており、特にリーガルマインドの欠如による暴走など極めて深刻であるにも関わらず、何一つ歯止めをかけようとする良識ある政治家が内部に存在しないと言う、金太郎飴の様な自民党・公明党の体質なり姿勢が、脅威と言うべきだと思っている。
良識あるカウンターベイリング・パワーの働かない組織の恐怖とその惨劇は、先刻、歴史が証明済みである。
楜澤教授の「持続可能社会への転換に逆行する法政策-農地法制を中心に」は、里山経済を彷彿とさせる非常にヒューマンな感じの講義で感銘を受けたのだが、一寸、視点が違うので、コメントは遠慮したい。
シンポジウム「アベノミクスの異次元性を問う-『経済と法』の何が破壊されているのか?」が開かれたので聴講した。
アベノミクスおよび安倍政権の危うい政治について、経済的および法学的側面から、何が破壊されているのかを、分析検討しようと言う意欲的な試みである。
プログラムは、」次の通り。
「中央銀行による財政ファイナンスの危険性について」野口 悠紀雄氏(経済学) 早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問
「アベノミクスは『資本の成長戦略』にして『中間層の没落戦略』」 水野 和夫氏(経済学) 法政大学法学部教授
「リーガルマインドなきアベノミクスが破壊しているもの」 上村 達男教授(会社法・資本市場法) 早稲田大学法学学術院教授
「持続可能社会への転換に逆行する法政策-農地法制を中心に」 楜澤 能生教授(法社会学・農業法) 早稲田大学法学学術院長
パネルディスカッション
私自身が、十分に理解できたかどうかは疑問であり、正確にその意図を伝えられるかどうかは分からないが、選挙前でもあり、非常に重要な課題を示唆しているので、備忘録として残しておきたい。
まず、野口教授の「中央銀行による財政ファイナンスの危険性について」
日本銀行は量的金融緩和として、毎年80兆円の国債を購入し、一方、財務省は毎年40兆円の国債を発行している。国債を直接日本銀行が引き受けることは、財政ファイナンスとなって、財政法第5条で禁止されているので、日本銀行は、それを迂回するために、途中で、発行直後の長期国債などを金融機関を通して、間接的に購入することで回避しているのである。
現実には、日銀の国債保有量は、300兆円を突破しているようだが、それに肉薄する形で当座預金残高があるので、通貨量は増加しておらず、財政ファイナンスの貨幣化は起こっていない。
しかし、償還期限が来れば政府は財源を調達しなければならず、また、現下のマイナス金利などは銀行にとっては負のインセンティブであり、何かの切っ掛けで、当座預金の取り崩しが発生すると、日銀は貨幣を印刷せざるを得なくなって、インフレ懸念が増大する。
カーメン・M・ラインハートとケネス・S・ロゴフが、『国家は破綻する――金融危機の800年』で、国家の破綻はよくあることで、銀行危機が、通貨暴落とインフレを引き起こし、これを経由して対外債務・対内債務のデフォルトが起こる。と説いており、日本は、正にこの道を突き進みつつある。
日銀と政府が画策する日銀の国債の多量購入は、国債を返さなくても良い債務に化けさせる、財政ファイナンス、行く行くは、貨幣化となるので、インフレへの道へ一直線。
野口教授は、脱法行為、
上村教授は、違法行為 だと仰る。
フランスの詐欺師大臣ジョン・ローのでっちあげたミシシッピー会社のように泡沫と化すのか、先の大戦で、戦後に国債が暴落して紙くずととなったように、ハイパーインフレで借金棒引きにするのか、歴史は、哀れな末路しか示し得ていないと言う。
この日銀の異次元緩和が、日本経済のみならず、日本の将来を窮地に追い込むカンフル剤だとするならば、どうするのか。
「国家は破綻する」については、ブックレビューしており、ケインズ派のクルーグマンが、ラインハートとロゴフを糾弾していることは、このブログで紹介済みだが、私は、歴史が証明していることでもあり、どうひっくり返っても、日本国の債務が減少する筈がないと思っているので、この危うい日銀の異次元緩和の異常とも言うべき国債購入は、非常に憂慮すべきだと思っている。
野口教授は、対抗通化として仮装通貨ビットコインの話もしていたが、金融は大きな曲がり角に差し掛かっていると言うことであろう。
さて、水野和夫教授のアベノミクス批判は、もっと激しい。
既に、資本主義そのものが、有望な実物投資先がなくなってしまって、更に、経済が資本の異常な蓄積で過剰状態になっている。アベノミクスで、いくらマイナス金利を実施して金融緩和をしても財政出動しても、投資の行き場がなくなった経済への「資本の成長戦略」であるから、やればやるだけ、日本経済を一層疲弊させるだけだ。と切って捨てる。
金融緩和や積極財政で、一時的に景気が回復しても、すぐに、その後バブルが崩壊するなど景気が悪化すれば、途端に企業は賃金を引き下げ従業員を解雇するなど弱者にシワ寄せし、経済格差の拡大を増幅させるだけである。
酷いのは、アベノミクスは、正に、中間層の没落戦略とも言うべき悪政で、ピケティの言う富裕層は益々豊かになり、下層階級は益々所得減で借金が増資して貧しく、今後の生活の見通しが暗くなる一方であると、資料を駆使して克明に説き続ける。
野口教授や上村教授の指摘するように違法・脱法行為を行いながらも、鳴り物入りでアベノミクスが遂行されても、いまだに、デフレ脱却は道半ばで、経済は足踏み状態であり、経済格差地方格差はどんどん拡大して、国民を苦しめ続けていると言うこの現実をどう見るのか。
資本主義経済そのものが、曲がり角に差し掛かっていると言うことで、水野教授の指摘するように電信柱の長いのもポストの赤いのもすべてアベノミクスが悪いと言う訳ではなかろうが、更に、『資本の成長戦略』『中間層の没落戦略』で、その傾向を煽っていると言うことであろう。
私自身としては、資本主義経済が成熟化してしまって投資機会が枯渇して成長の余地がなくなったと言う指摘には多少疑問を持っているのだが、視点が違う所為もあり興味深く聞いていた。
上村教授の講義は、「リーガルマインドなきアベノミクスが破壊しているもの」と言うタイトルからして、凄まじい。
明治以降営々と積み上げてきた日本の法体系、規範意識を、安倍政権が如何に破壊し続けてきたか、選挙によって一切が許される政権と言う幻想を抱いて、リーガルマインドなき政権運営、経済運営をしてきたか、
違憲の審査のない日本で法の番人とも言うべき法制局長官に、専門的なモノの考え方ができない素人を任命したり、NHKの人事や予算の与野党一致の原則を破って押し切ると言った話を皮切りに、日銀、財政、日本改造論、研究成果最大化主義の文教行政、コーポレート・ガバナンス等々多岐に亘って、リーガルマインドなきアベノミクスを鋭く糾弾する。
私など、法律については全く素人だが、安保法案については、国会で3人の憲法学者が相次いで「安保法案は憲法違反」との見解を示し、更に、199人の憲法学者も「憲法違反」との見解を表明したにも拘わらず、押し切ってしまった時には、唖然として、これで、日本も法治国家とは言えなくなってしまったと思った。
それに、トランプなどは、アベはキラーだと言ったと言うのだが、世界の識者たちが、安倍首相の右傾化、極端に言うと日本軍国主義の復活を危惧し始めていると言う傾向も否定し辛くなった感じで、一寸残念である。
上村教授もメモ書きしているのだが、高村副総裁の「たいていの憲法学者より私の方が考えてきたという自信はある」と言う発言に至っては、言語道断。如何に、日本の政治の水準がお粗末か、今になって気付いて唖然としている。
上手く伝えられないので、上村教授のレジュメの「おわりに」を引用しておきたい。
”アベノミクスが戦争や大災害や英国のEU離脱を想定していないとしても、そうしたことがおこりうることが常に法制度論の根幹にある。
アベノミクスがどのような結果をもたらしたとしても制度や規範の破壊は、明治以来の地道な制度論の展開や理論の進展を台無しにし、日本の比較法をベースにした法理のグローバルな指導性の芽を摘む取り返しのつかない事態と言える。
株価と選挙に特化した反知性主義ポピュリズム政権の罪はあまりにも大きい。”
良識ある識者や学者たちが危惧するように、日本の将来に取って、アベノミクスが多くの問題を抱えており、特にリーガルマインドの欠如による暴走など極めて深刻であるにも関わらず、何一つ歯止めをかけようとする良識ある政治家が内部に存在しないと言う、金太郎飴の様な自民党・公明党の体質なり姿勢が、脅威と言うべきだと思っている。
良識あるカウンターベイリング・パワーの働かない組織の恐怖とその惨劇は、先刻、歴史が証明済みである。
楜澤教授の「持続可能社会への転換に逆行する法政策-農地法制を中心に」は、里山経済を彷彿とさせる非常にヒューマンな感じの講義で感銘を受けたのだが、一寸、視点が違うので、コメントは遠慮したい。