The Big Lie and Its Consequences
May 17, 2021
ELIZABETH DREW
ワシントンベースのジャーナリストで、近著に『ウォーターゲート事件とニクソン失脚に関するリポート』があるエリザベス・ドリューのプロジェクト・シンジケートの「トランプの大嘘とその結果」という興味深い、しかし、当然というか良識派のトランプ糾弾の論文を紹介したい。
主義信条は二の次にして、選挙に勝つためには、トランプの大嘘をものともせずに、トランプの人気頼みでトランプ党に変節して、支持者層でない国民を選挙権から排除するなど、なり振り構わず暗闘暗躍する保守党の姿を活写して、「トランプの大嘘とその結果」として立憲民主主義の悲劇を論じている。
FTのマーティン・ウルフが、述べていたように、
”安定した自由民主主義なら、トランプのような必要な資質と能力の総てを欠いた人物を指導者に選ぶことはなかったであろう。”と言うほどではないにしても、トランプの存在そのものが、アメリカの民主主義の危機だと言うから、勇ましい女傑である。
しかし、平時において、これだけ酷い大統領を選んだということが信じられないのだが、
虎の子の民主主義が如何にひ弱いものであるかと言うこと、人類の歴史が有史以来少しも進歩しておらず、何時暗転しても不思議ではないことなどを思い知らされた感じで、不安を禁じ得ない。
まず、彼女の論考を披露すると、
2020年の選挙に関する彼の嘘にもかかわらず、ドナルド・トランプに対する渇望への忠誠心を示すことによって、共和党は、もはや、単に、党本来の主義信条のために行動してはいない。アメリカの選挙制度の完全性そのものに疑問を呈することによって、今や、米国の憲法秩序に対する公然たる脅威を露呈した。米国の歴史の中で、今現在、大統領を選出するためのアメリカの民主主義システム(米国市民の最も結果的な義務)が、破壊された瞬間と見做されよう。
確かに、米国憲法の約束と中心的な前提については、国民が大統領を選出するという大前提は完全に果たされていない。アメリカの権力者であった建国の父たちは、国家の最高機関の為政者を選ぶのに、一般大衆(または奴隷や女性)を信用していなかったので、米国は、賢明な人々、 すなわち、選挙人による投票によって大統領を選ぶことにしたのである。
ドナルド・トランプが俎上に上げた問題は、選挙人の数が実際に州の人気投票結果を表しているかどうかであった。「ビッグ・ライ( 大嘘)」と呼ばれるようになったのは、選挙がトランプから「盗まれた」と言うだけでなく、本当の結果を逆転させようとする下手な手段を正当化しようとする試みが含まれていたとしたためである。
20年の選挙に向けて、トークショーの司会者は、トランプが負けたら、単にホワイトハウスを去ることを拒否するかもしれないと冗談を言った。しかし、トランプはもっと精巧で危険な行動を考えていた。もし負けたら、投票数が間違っている、選挙が盗れたと宣言したのである。
ワシントン・ポスト紙によると、破れた候補者のこの戦略は、しばらくの間、右翼の間で漂っていた。連邦議会の以前の候補者は拒否していた。しかし、トランプは自分の行動が他人や国に与える影響についてあまり懸念しなかったし、憲法を把握しているという証拠もほとんどない。
公式の選挙結果の真実性を疑問視することは、選挙制度の完全性の前提を損なうことである。しかし、不名誉で、拒絶され、2度弾劾された元大統領は、彼の証拠のない主張を、共和党員の4分の3までも説得して追随させたのである。
これがどう言うことかを深く考える価値がある。重要な要因は、ビッグ・ライを利用するという概念は、トランプだけではなく、いくつかの放送局が執拗に報道し続けるので影響された右翼活動家の集団によっても追認されていることである。トランプは、有能なデマゴーグの修辞的なスキルを持っている。彼は、危険な害毒を香水のようにファンに撒き散らした。また、アメリカの有権者の多くは十分な情報を得ていない。市民権についての教宣は本質的に消滅している。そして、トランプはメディアに対する不信感を煽った。彼は真実をバレーボールに変えた。
彼がすでに醸成してきた巨大な情熱的な説得を考えれば、彼のクレイムの性質を満足させ、何千もの小さな嘘をついて、トランプは、彼の最も非常識な議論の地ならしをしてきた。脅しと権力を通じて、彼は党指導部の潜在的なライバルを押しつぶしてきた 。 慎重な上院少数派院内総務ミッチ・マコネルは、トランプのグリップを壊そうとしたが、失敗した。
現職の共和党議員が十分に従順でなければ、トランプは別の共和党員を支持することによって、これら異分子を排除することができる。彼の選挙への主張が根拠のないことを知っている多数の現職の共和議員は、同時に、彼が1月6日の米国議会議事堂への攻撃を助長したことを否定しているのも知っていながら、トランプを警戒すると同時に、彼に従う有権者も恐れているのである。これに加えて、トランプは党の最も熟練した資金調達者なのであるから尚更である。
トランプの存在が国にとってさらに大きな危険である。2020年の選挙での彼の敗北は、少なくとも、ホワイトハウスから独立していると思われてはいるが、国防総省と司法省の政治的支配を含む政府権限に対する彼の更なる行進を止めた。
彼は一部の州当局者を脅迫して選挙結果を虚偽に操作させようとして法制度を危険にさらした。政敵を起訴するという彼の要求は、それまで無関心であった司法長官ウィリアム・バーへは行き過ぎであった。国境で移民の子供たちを家族から切り離すことは国家の恥であった。
下院共和党がリズ・チェイニーを共和党の議長から外すという彼の要求は、盗まれた選挙に関するトランプの嘘が憲法に対する脅威であり、ニューヨークのエリーゼ・ステファニクに置き換えられるという主張によって、チェイニーをはるかに強力な敵にした。実際、共和党の下院議員トップ3人のうちの1人が、ミスガイドとは言え党の立場を率直に批判したのは不都合であるという共和党の議論には、何らかの問題があり、根本的な憲法上の問題において、共和党は、反対意見を押さえ込むと言う一層明白な点を回避できなかった。
ビッグ・ライをめぐるような共和党内の分裂は、過去にはない。それは党の将来を決定する可能性がある。ジョー・バイデンの選挙人の勝利は僅差であったので、3つの州(ジョージア州、ウィスコンシン州、アリゾナ州)で、約43,000票を反対に切り替えただけで、選挙結果が逆転していた。
そして今、州レベルで、共和党議員は、共和党の大統領勝利を意図して、不品行者排除や投票者拒否などで黒人が投票するのを難しくするために編み出した法律の成立を急いでいる。これらの法律が成立すれば、バイデンや他の民主党員が、2020年の選挙地図を悪化させて復活するのを困難にし、民主党が不利になる可能性がある。
アメリカ人は法の支配にコミットした国であると主張している。しかし、民主主義は、自発的な協力、信頼、抑制がなければ、成功できない。法律は自己執行的ではなく、最高裁判所の指名が今や悪質な争いの対象となっているのには正当な理由がある。時には彼の行き過ぎには境界を設定しているが、トランプが大統領であった結果として、裁判所は、当分は、間違いなく保守的な支配下にある。
重要人物が一貫して不誠実な行動を取れば、法律は最終的に我々を守ってはくれない。トランプと彼が緩めてしまった体制は、私たちの立憲民主主義に対する脅威なのである。
ドリューの論陣は、かなり控えめだと思うが、殆ど異存はない。
とにかく、アメリカでは、信じられないような茶番劇が演じられていると言うことである。
May 17, 2021
ELIZABETH DREW
ワシントンベースのジャーナリストで、近著に『ウォーターゲート事件とニクソン失脚に関するリポート』があるエリザベス・ドリューのプロジェクト・シンジケートの「トランプの大嘘とその結果」という興味深い、しかし、当然というか良識派のトランプ糾弾の論文を紹介したい。
主義信条は二の次にして、選挙に勝つためには、トランプの大嘘をものともせずに、トランプの人気頼みでトランプ党に変節して、支持者層でない国民を選挙権から排除するなど、なり振り構わず暗闘暗躍する保守党の姿を活写して、「トランプの大嘘とその結果」として立憲民主主義の悲劇を論じている。
FTのマーティン・ウルフが、述べていたように、
”安定した自由民主主義なら、トランプのような必要な資質と能力の総てを欠いた人物を指導者に選ぶことはなかったであろう。”と言うほどではないにしても、トランプの存在そのものが、アメリカの民主主義の危機だと言うから、勇ましい女傑である。
しかし、平時において、これだけ酷い大統領を選んだということが信じられないのだが、
虎の子の民主主義が如何にひ弱いものであるかと言うこと、人類の歴史が有史以来少しも進歩しておらず、何時暗転しても不思議ではないことなどを思い知らされた感じで、不安を禁じ得ない。
まず、彼女の論考を披露すると、
2020年の選挙に関する彼の嘘にもかかわらず、ドナルド・トランプに対する渇望への忠誠心を示すことによって、共和党は、もはや、単に、党本来の主義信条のために行動してはいない。アメリカの選挙制度の完全性そのものに疑問を呈することによって、今や、米国の憲法秩序に対する公然たる脅威を露呈した。米国の歴史の中で、今現在、大統領を選出するためのアメリカの民主主義システム(米国市民の最も結果的な義務)が、破壊された瞬間と見做されよう。
確かに、米国憲法の約束と中心的な前提については、国民が大統領を選出するという大前提は完全に果たされていない。アメリカの権力者であった建国の父たちは、国家の最高機関の為政者を選ぶのに、一般大衆(または奴隷や女性)を信用していなかったので、米国は、賢明な人々、 すなわち、選挙人による投票によって大統領を選ぶことにしたのである。
ドナルド・トランプが俎上に上げた問題は、選挙人の数が実際に州の人気投票結果を表しているかどうかであった。「ビッグ・ライ( 大嘘)」と呼ばれるようになったのは、選挙がトランプから「盗まれた」と言うだけでなく、本当の結果を逆転させようとする下手な手段を正当化しようとする試みが含まれていたとしたためである。
20年の選挙に向けて、トークショーの司会者は、トランプが負けたら、単にホワイトハウスを去ることを拒否するかもしれないと冗談を言った。しかし、トランプはもっと精巧で危険な行動を考えていた。もし負けたら、投票数が間違っている、選挙が盗れたと宣言したのである。
ワシントン・ポスト紙によると、破れた候補者のこの戦略は、しばらくの間、右翼の間で漂っていた。連邦議会の以前の候補者は拒否していた。しかし、トランプは自分の行動が他人や国に与える影響についてあまり懸念しなかったし、憲法を把握しているという証拠もほとんどない。
公式の選挙結果の真実性を疑問視することは、選挙制度の完全性の前提を損なうことである。しかし、不名誉で、拒絶され、2度弾劾された元大統領は、彼の証拠のない主張を、共和党員の4分の3までも説得して追随させたのである。
これがどう言うことかを深く考える価値がある。重要な要因は、ビッグ・ライを利用するという概念は、トランプだけではなく、いくつかの放送局が執拗に報道し続けるので影響された右翼活動家の集団によっても追認されていることである。トランプは、有能なデマゴーグの修辞的なスキルを持っている。彼は、危険な害毒を香水のようにファンに撒き散らした。また、アメリカの有権者の多くは十分な情報を得ていない。市民権についての教宣は本質的に消滅している。そして、トランプはメディアに対する不信感を煽った。彼は真実をバレーボールに変えた。
彼がすでに醸成してきた巨大な情熱的な説得を考えれば、彼のクレイムの性質を満足させ、何千もの小さな嘘をついて、トランプは、彼の最も非常識な議論の地ならしをしてきた。脅しと権力を通じて、彼は党指導部の潜在的なライバルを押しつぶしてきた 。 慎重な上院少数派院内総務ミッチ・マコネルは、トランプのグリップを壊そうとしたが、失敗した。
現職の共和党議員が十分に従順でなければ、トランプは別の共和党員を支持することによって、これら異分子を排除することができる。彼の選挙への主張が根拠のないことを知っている多数の現職の共和議員は、同時に、彼が1月6日の米国議会議事堂への攻撃を助長したことを否定しているのも知っていながら、トランプを警戒すると同時に、彼に従う有権者も恐れているのである。これに加えて、トランプは党の最も熟練した資金調達者なのであるから尚更である。
トランプの存在が国にとってさらに大きな危険である。2020年の選挙での彼の敗北は、少なくとも、ホワイトハウスから独立していると思われてはいるが、国防総省と司法省の政治的支配を含む政府権限に対する彼の更なる行進を止めた。
彼は一部の州当局者を脅迫して選挙結果を虚偽に操作させようとして法制度を危険にさらした。政敵を起訴するという彼の要求は、それまで無関心であった司法長官ウィリアム・バーへは行き過ぎであった。国境で移民の子供たちを家族から切り離すことは国家の恥であった。
下院共和党がリズ・チェイニーを共和党の議長から外すという彼の要求は、盗まれた選挙に関するトランプの嘘が憲法に対する脅威であり、ニューヨークのエリーゼ・ステファニクに置き換えられるという主張によって、チェイニーをはるかに強力な敵にした。実際、共和党の下院議員トップ3人のうちの1人が、ミスガイドとは言え党の立場を率直に批判したのは不都合であるという共和党の議論には、何らかの問題があり、根本的な憲法上の問題において、共和党は、反対意見を押さえ込むと言う一層明白な点を回避できなかった。
ビッグ・ライをめぐるような共和党内の分裂は、過去にはない。それは党の将来を決定する可能性がある。ジョー・バイデンの選挙人の勝利は僅差であったので、3つの州(ジョージア州、ウィスコンシン州、アリゾナ州)で、約43,000票を反対に切り替えただけで、選挙結果が逆転していた。
そして今、州レベルで、共和党議員は、共和党の大統領勝利を意図して、不品行者排除や投票者拒否などで黒人が投票するのを難しくするために編み出した法律の成立を急いでいる。これらの法律が成立すれば、バイデンや他の民主党員が、2020年の選挙地図を悪化させて復活するのを困難にし、民主党が不利になる可能性がある。
アメリカ人は法の支配にコミットした国であると主張している。しかし、民主主義は、自発的な協力、信頼、抑制がなければ、成功できない。法律は自己執行的ではなく、最高裁判所の指名が今や悪質な争いの対象となっているのには正当な理由がある。時には彼の行き過ぎには境界を設定しているが、トランプが大統領であった結果として、裁判所は、当分は、間違いなく保守的な支配下にある。
重要人物が一貫して不誠実な行動を取れば、法律は最終的に我々を守ってはくれない。トランプと彼が緩めてしまった体制は、私たちの立憲民主主義に対する脅威なのである。
ドリューの論陣は、かなり控えめだと思うが、殆ど異存はない。
とにかく、アメリカでは、信じられないような茶番劇が演じられていると言うことである。