Helping the Other 66%
May 4, 2021
KENNETH ROGOFF
先に、同じくプロジェクト・シンジケートの記事「ドルの脆弱な覇権」のケネス・ロゴフ教授の新しい論文「他の66%の救済」である。
各国とも、国内の深刻な不平等に悩んでいるが、もっと深刻かつ緊急事は、世界的な不平等で、先進国16%と中国18%を除いた残りの66%との深刻な経済的不平等を解消すべきだと、パンデミックの苦境を絡ませて論じている。
コロナから解放されつつある豊かな先進国や中国は、積極的に、有効な国際機関や組織手段を活用して財政的資金的に援助を行って、コロナに苦しむ66%の発展途上国の人々を救って、深刻なグローバルベースの不平等を解消すべきである、と言うのである。
論文の概要は、ほぼ、次の通り。
国内の不平等への対処は、今日の緊急な政治的課題である。しかし、世界全体に亘る不平等、特に、先進国と中国以外に住む人類の3分の2に影響を及ぼす大きな格差に取り組むことは、21世紀の地政学的安定を維持するための真の鍵である。
近年、先進国におけるナショナリズム感情の高まりについて注目すべき点は、気候変動やCOVID-19パンデミックなど、今日の最も差し迫った課題の多くが、グローバル・ベースで解決を必要とする世界的な問題である時期に起こっていることである。ワクチンの乏しい国の市民間で巻き起こっている怒り、基本的には、先進国と中国の外で住む人類の3分の2の怒りが、急速に、豊かな世界に跳ね返ってくるだろうことである。
バイデン米大統領のアメリカの不平等に対処する野心的な計画は、政権が、税金を引き上げ、経済経済成長を加速して、長期的なコストをカバーすることに成功すれば、歓迎されるべきである。また、パンデミックの影響を激しく受けているイタリアやスペインなどのEU加盟国を支援する次世代EUスキームが、小規模とは言え、依然として重要である。
先進国に住む世界の16%は厳しいパンデミックに直面しているが、今や回復の見込みである。世界人口のさらに18%を占める中国は、コロナウイルスを封じ込める対策の効果と国家権力のおかげで、リバウンドした最初の主要経済である。
しかし、その他の地域の人々は、 IMFが4月の世界経済見通しで強調しているように、世界的に、大きな不平等の落差の底にある。インドのCOVID-19の恐ろしい波は、貧困が蔓延している多くの発展途上国を今後急速に見舞うであろう徴候を示している。これらの殆どの国は、少なくとも2022年末までに、パンデミック以前の生産レベルに戻る可能性は低い。.
これまで、21世紀は、発展途上国のキャッチアップの成功物語であり、1980年代と1990年代に実現したよりも成長発展してきた。しかし、COVID-19危機は貧しい国々に打撃を与え、豊かな世界に、パンデミックと迫り来る気候変動による大惨事の両方を封じ込めるためには、発展途上国の経済に大きく依存しているという事実を思い知らせた。パンデミックが露呈した世界的な不平等について、テロリスト集団やならず者為政者為政者を封じ込めるのと同様に、強力な協力が必要であることは言うまでもない。
さらに悪いことに、新興市場を含む発展途上国の多くは、急激に増加した対外債務悪化状態でパンデミックに突入した。金融政策金利は先進国ではゼロまたはマイナスだが、新興市場や発展途上国では平均4%を超えており、開発に必要な長期的な借入金利は、はるかに高い。アルゼンチン、ザンビア、レバノンを含む多くの国はすでにデフォルトしており、不均一な回復が世界の金利を押し上げると、さらに多くの国が危機に直面する。
それでは、貧しい国々はCOVID-19ワクチンとその救済をどのように賄うのか、ましてやグリーン経済への移行においては尚更である。 世界銀行とIMFは、解決策を見つけるという大変なプレッシャーにさらされており、少なくともこの問題を説明する上で良い仕事をしてきたが、これらの組織は、この規模の課題に対処するために必要な財務構造を欠いている。近い将来、特別引出権の新たな割り当てが役立つだろうが、この手段はあまりにも粗雑で、日常的に使用するには設計が不備であう。
第二次世界大戦の終わりに設立されたブレトンウッズ機関は、主に貸し手として機能するように設計された。しかし、豊かな国々がパンデミックの間に、無条件トランスファーをしたように、発展途上国にも同じことをする必要がある。より高い債務は、特に様々な公的および民間の貸し手の間で優先順位を決定することに関与する困難を考えると、パンデミックの余波の影響によるデフォルトを悪化させるだけである。スタンフォード大学のジェレミー・ブローとロゴフは、長い間、無条件譲渡は、貸し出し手段としてよりクリーンで、好ましいと主張してきた。
まず第一になすべきは、豊かな世界は、多国間COVID-19ワクチングローバルアクセス(COVAX)に完全に資金を提供することで、発展途上国の予防接種のコストを取り除く必要がある。この数十億ドルのコストは、より豊かな国々が自国経済に対するパンデミックの影響を軽減するために費やしている数兆ドルに匹敵する。
先進国は、ワクチンの代金を支払うだけでなく、ワクチンを提供するための広範な補助金と技術支援を提供する必要がある。この方が、多くの理由から、少なくとも別のパンデミックが存在するとすれば、ワクチン開発者から知的財産を免除するよりも効果的な解決策である。
同時に、国内のグリーンエネルギー開発に数兆ドルを費やす準備ができている先進国は、新興市場における同じ移行を支えるために、年間数千億ドルの財源を拠出できるはずである。この支援は、理想的には世界カーボンバンク(発展途上国の脱炭素化を支援することに焦点を当てた新しいグローバル機関)によって仲介される炭素税によって賄われるであろう。
また、先進国が、諸国間の不平を低下させる主な要因となる世界貿易を、開放し続ることも重要である。各国政府は、アフリカやアジアの何十億人もの人々に不利益を与える貿易障壁を築くのではなく、移転と社会的セーフティネットを拡大することによって、国内の不平等に取り組むべきである。そして、これらの人々は、また、世界銀行の援助機関・国際開発協会の大幅な拡大の恩恵を受けるであろう。
国内の不平等に対処することは、現在の政治的問題かもしれない。しかし、非常に大きな国際的な格差に取り組むことは、21世紀の地政学的安定を維持するためには、真のキーとなる。
以上、ロゴフ教授の見解は、了解できるし正論だと思うが、果たして、Gゼロの世界でリーダーを喪失し、米中の深刻な対立が、新冷戦状態にあり、世界政府もなく、国連など国際機関が機能不全に陥っている現下で、どのように機能させ得るのか。
ミャンマーの惨状を思うと、暗澹とせざるを得ないのだが、欧米先進国も日本も、自国のコロナ終熄に汲々としており、益々、コロナが悪化する66%など、全く念頭にない。
残りの66%との深刻な不平等とその格差を埋めない限り、地政学的な安定など夢の夢、
どうするのか。
May 4, 2021
KENNETH ROGOFF
先に、同じくプロジェクト・シンジケートの記事「ドルの脆弱な覇権」のケネス・ロゴフ教授の新しい論文「他の66%の救済」である。
各国とも、国内の深刻な不平等に悩んでいるが、もっと深刻かつ緊急事は、世界的な不平等で、先進国16%と中国18%を除いた残りの66%との深刻な経済的不平等を解消すべきだと、パンデミックの苦境を絡ませて論じている。
コロナから解放されつつある豊かな先進国や中国は、積極的に、有効な国際機関や組織手段を活用して財政的資金的に援助を行って、コロナに苦しむ66%の発展途上国の人々を救って、深刻なグローバルベースの不平等を解消すべきである、と言うのである。
論文の概要は、ほぼ、次の通り。
国内の不平等への対処は、今日の緊急な政治的課題である。しかし、世界全体に亘る不平等、特に、先進国と中国以外に住む人類の3分の2に影響を及ぼす大きな格差に取り組むことは、21世紀の地政学的安定を維持するための真の鍵である。
近年、先進国におけるナショナリズム感情の高まりについて注目すべき点は、気候変動やCOVID-19パンデミックなど、今日の最も差し迫った課題の多くが、グローバル・ベースで解決を必要とする世界的な問題である時期に起こっていることである。ワクチンの乏しい国の市民間で巻き起こっている怒り、基本的には、先進国と中国の外で住む人類の3分の2の怒りが、急速に、豊かな世界に跳ね返ってくるだろうことである。
バイデン米大統領のアメリカの不平等に対処する野心的な計画は、政権が、税金を引き上げ、経済経済成長を加速して、長期的なコストをカバーすることに成功すれば、歓迎されるべきである。また、パンデミックの影響を激しく受けているイタリアやスペインなどのEU加盟国を支援する次世代EUスキームが、小規模とは言え、依然として重要である。
先進国に住む世界の16%は厳しいパンデミックに直面しているが、今や回復の見込みである。世界人口のさらに18%を占める中国は、コロナウイルスを封じ込める対策の効果と国家権力のおかげで、リバウンドした最初の主要経済である。
しかし、その他の地域の人々は、 IMFが4月の世界経済見通しで強調しているように、世界的に、大きな不平等の落差の底にある。インドのCOVID-19の恐ろしい波は、貧困が蔓延している多くの発展途上国を今後急速に見舞うであろう徴候を示している。これらの殆どの国は、少なくとも2022年末までに、パンデミック以前の生産レベルに戻る可能性は低い。.
これまで、21世紀は、発展途上国のキャッチアップの成功物語であり、1980年代と1990年代に実現したよりも成長発展してきた。しかし、COVID-19危機は貧しい国々に打撃を与え、豊かな世界に、パンデミックと迫り来る気候変動による大惨事の両方を封じ込めるためには、発展途上国の経済に大きく依存しているという事実を思い知らせた。パンデミックが露呈した世界的な不平等について、テロリスト集団やならず者為政者為政者を封じ込めるのと同様に、強力な協力が必要であることは言うまでもない。
さらに悪いことに、新興市場を含む発展途上国の多くは、急激に増加した対外債務悪化状態でパンデミックに突入した。金融政策金利は先進国ではゼロまたはマイナスだが、新興市場や発展途上国では平均4%を超えており、開発に必要な長期的な借入金利は、はるかに高い。アルゼンチン、ザンビア、レバノンを含む多くの国はすでにデフォルトしており、不均一な回復が世界の金利を押し上げると、さらに多くの国が危機に直面する。
それでは、貧しい国々はCOVID-19ワクチンとその救済をどのように賄うのか、ましてやグリーン経済への移行においては尚更である。 世界銀行とIMFは、解決策を見つけるという大変なプレッシャーにさらされており、少なくともこの問題を説明する上で良い仕事をしてきたが、これらの組織は、この規模の課題に対処するために必要な財務構造を欠いている。近い将来、特別引出権の新たな割り当てが役立つだろうが、この手段はあまりにも粗雑で、日常的に使用するには設計が不備であう。
第二次世界大戦の終わりに設立されたブレトンウッズ機関は、主に貸し手として機能するように設計された。しかし、豊かな国々がパンデミックの間に、無条件トランスファーをしたように、発展途上国にも同じことをする必要がある。より高い債務は、特に様々な公的および民間の貸し手の間で優先順位を決定することに関与する困難を考えると、パンデミックの余波の影響によるデフォルトを悪化させるだけである。スタンフォード大学のジェレミー・ブローとロゴフは、長い間、無条件譲渡は、貸し出し手段としてよりクリーンで、好ましいと主張してきた。
まず第一になすべきは、豊かな世界は、多国間COVID-19ワクチングローバルアクセス(COVAX)に完全に資金を提供することで、発展途上国の予防接種のコストを取り除く必要がある。この数十億ドルのコストは、より豊かな国々が自国経済に対するパンデミックの影響を軽減するために費やしている数兆ドルに匹敵する。
先進国は、ワクチンの代金を支払うだけでなく、ワクチンを提供するための広範な補助金と技術支援を提供する必要がある。この方が、多くの理由から、少なくとも別のパンデミックが存在するとすれば、ワクチン開発者から知的財産を免除するよりも効果的な解決策である。
同時に、国内のグリーンエネルギー開発に数兆ドルを費やす準備ができている先進国は、新興市場における同じ移行を支えるために、年間数千億ドルの財源を拠出できるはずである。この支援は、理想的には世界カーボンバンク(発展途上国の脱炭素化を支援することに焦点を当てた新しいグローバル機関)によって仲介される炭素税によって賄われるであろう。
また、先進国が、諸国間の不平を低下させる主な要因となる世界貿易を、開放し続ることも重要である。各国政府は、アフリカやアジアの何十億人もの人々に不利益を与える貿易障壁を築くのではなく、移転と社会的セーフティネットを拡大することによって、国内の不平等に取り組むべきである。そして、これらの人々は、また、世界銀行の援助機関・国際開発協会の大幅な拡大の恩恵を受けるであろう。
国内の不平等に対処することは、現在の政治的問題かもしれない。しかし、非常に大きな国際的な格差に取り組むことは、21世紀の地政学的安定を維持するためには、真のキーとなる。
以上、ロゴフ教授の見解は、了解できるし正論だと思うが、果たして、Gゼロの世界でリーダーを喪失し、米中の深刻な対立が、新冷戦状態にあり、世界政府もなく、国連など国際機関が機能不全に陥っている現下で、どのように機能させ得るのか。
ミャンマーの惨状を思うと、暗澹とせざるを得ないのだが、欧米先進国も日本も、自国のコロナ終熄に汲々としており、益々、コロナが悪化する66%など、全く念頭にない。
残りの66%との深刻な不平等とその格差を埋めない限り、地政学的な安定など夢の夢、
どうするのか。