熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

イノベーターズ:天才、ハッカー、ギークがおりなすデジタル革命史

2021年05月25日 | 書評(ブックレビュー)・読書
   ウォルター・アイザックソン の「イノベーターズ:天才、ハッカー、ギークがおりなすデジタル革命史」二巻本。
   著者のウォルター・アイザックソンは、アスペン研究所の所長兼CEO、CNNの会長兼CEO、『タイム』誌の編集長などを歴任したと言うアメリカの凄いジャーナリスト兼伝記作家で、私は、これまでに、『レオナルド・ダ・ヴィンチ』(2017年)と『スティーブ・ジョブズ』(2011年)しか読んでいないが、とにかく、スケールの大きな作家で、圧倒されて読み進んだ。
   
   ハーバード大学で歴史と文学を専攻し、オックスフォード大学で、哲学・政治学・経済学を学び、First Class Honoursで卒業したと言うから、文化系のバックグラウンドでありながら、理系専攻でも舌を巻くような詳細に亘ったICT革命、デジタル革命の歴史を書いており、まさに、欧米の偉大な知識人の典型である。
   ウィキペディアによると、
   アイザックソンは、2012年にはアメリカ歴史家協会会長を務め、ロイヤル・ソサエティ・オブ・アーツのフェローであり、2013年には同協会のベンジャミン・フランクリン・メダルを受賞した。また、アメリカ芸術科学アカデミー、米国哲学協会の会員である。2014年、全米人文科学基金は、アイザックソンを人文科学分野での業績に対するアメリカ連邦政府の最高の栄誉であるジェファーソン・レクチャーに選出した。と言うことであるから、科学分野に造詣が深いのも当然なのかも知れない。

   この本は、第4次産業革命の機動力で最も重要な発明であるコンピュータとインターネットに焦点を当てて論じられている革命史だが、この本で重要な点は、誰が発明して作ったのかは殆ど明確には分かっていない世界のイノベーション論であることである。ICT革命の先駆けでもあるエジソンやベルやモールスと言った殿堂入りの天才発明家が、何を発明したのか明快だが、デジタル時代の発明は、これとは逆で、ほとんどが、突出した特定の発明家だけの偉業ではなく、コラボレーションのなかから生まれてきている。そこには、独創的な人間や、少数ながら真の天才まで、魅力的な人間が数多くかかわってはいるものの、
   原タイトルが、The Innovators: How a Group of Hackers, Geniuses, and Geeks Created the Digital Revolutionであるように、本書は、偉大な現代のイノベーションは、先駆けした先駆者たちに加えて、ハッカーや天才的なギーク、異端児などが八面六臂の活躍をするなど、発明家、アントレプレナーたち挙っての集団が、どのようにして、「デジタル革命」を創造したのかを、物語っている。
   その創造の源が何だったのか、どのようなコラボレーションが繰り広げられたのか、そして、チームとして働く能力が彼等の創造性を一層引き出したのは何故かを、アイザックソンは、克明に描写して解き明かしている。

   冒頭から意表を突く描写で、詩人バイロン卿の唯一の娘であるラブレス伯爵夫人エイダの「数学の美」を愛でる「詩的科学」から説き起こして、最後に、「エイダよ永遠に」で、「人文科学と自然科学の交わりがイノベーションを生む」と結ぶ。
   エイダは、芸術と科学技術という素晴らしい組み合わせがコンピュータという形で顕在化する日を夢想した。イノベーションを生み出すのは、美とエンジニアリング、人間性とテクノロジー、そして、詩とプロセッサーを結びつけることの出来る人物であり、人文科学と自然科学の交差点で何かを成し遂げられるクリエーター、両方の美に気づかせてくれる新鮮な驚きのセンスを忘れない自由人であり、それは、エイダ・ラブレスの精神的後継者であると言うのである。

   その章の間に、「コンピュータ」「プログラミング」「トランジスタ」「マイクロチップ」「ビデオゲーム」「インターネット」「パーソナルコンピュータ」「ソフトウエア」「オンライン」「ウェブ登場」と、克明にかつビビッドに、デジタル革命史を活写する。

   リチャード S テドローの「アンディ・グローブ」を読んでインテルを知り、先の「スティーブ・ジョブズ」などジョブズの本を読み、ビル・ゲイツや「マイクロソフト」関係の本を読み、断片的には、大きなデジタル史の山は分かっていても、最初の方のコンピュータの発明などは、我が母校の「ペンシルベニア大学」がコンピュタの発明に関わったと言うことくらいしか知らず、わかり始めたのは、ムーアやグローブの登場する「マイクロチップ」くらいからであった。
   しかし、この本のように、エポックメイキングな、革命的なイノベーションが、次々に生まれ出でて、あたかも万華鏡のように展開されてゆく状態を、史実を追いながら鮮やかに映し出されると、良質な戯曲を観ているようで感動的でさえある。

   シェイクスピアではないが、
   All the world’s a stage, And all the men and women merely players.
   この世は舞台、アンディ・グローブも、ビル・ゲイツも、スティーブ・ジョブズも、登場しては消えていく役者に過ぎない。

   そんな感動的な物語が、この本である。
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