熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

The Economist:バイデンの特許権一時放棄案に反対

2021年05月18日 | 政治・経済・社会
   今日の日経にエコノミストの特約記事「豊かな国はワクチン備蓄やめよ」が掲載されていて、バイデン大統領の特許権一時放棄案に反対だと表明している。
   昨日、スティグリッツの記事で、バイデン案に賛成し、薬品会社の貧欲を非難して、人命重視が優先であって、薬品会社の利益は、それからだと言っているのとは、対極にあり興味深いので、考えてみたい。

   この記事では、バイデン批判の見解部分だけに絞って論じたい。
   記事を、そのまま引用させて貰うと、
   ワクチン特許放棄は実効なし
   本誌はバイデン氏の考えは間違っていると考える。特許権の放棄で、バイデン政権が世界を気にかけているというメッセージは送れるだろう。だがこれはせいぜいポーズにすぎず、悪く言えば他の国を侮った行動だ。
   特許を放棄しても年内のワクチン不足の解消にはつながらない。この問題を議論するWTOのトップは、採決は12月になる可能性があるとしている。技術移転に今すぐ着手しても、完了するのに6カ月はかかる。米ファイザーや米モデルナのメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンの場合、もっとかかるだろう。
   技術移転が迅速にできたとしても、経験豊富なワクチン製造業者を手配することはできず、大量の受注を抱えるサプライヤーから原材料を調達するのも難しいだろう。ファイザーのワクチン生産には19カ国のサプライヤーから280の原材料を調達する必要がある。急ごしらえで生産できる企業はないだろう。
   いずれにしても、いずれにしても、ワクチンメーカーは自社の技術を独り占めしているわけではない。そうでなければ、生産はこれほど急増しない。各社が締結した技術移転契約は空前の214件に上る。便乗値上げはみられず、資金力のなさがワクチン確保の障害にはなっていない。貧困国はワクチンが高くて手が出ないのではなく、新型コロナワクチンを共同購入する国際枠組み「COVAX(コバックス)」により無償で分配されている。
   特許放棄の長期的な効果は予測し難い。貧しい国に技術移転が実現する可能性はあるものの、サプライチェーン(供給網)の混乱や資源の無駄遣いという弊害が生じかねない。結果的にイノベーション(技術革新)が抑制される可能性がある。いずれにしても、22年にワクチン不足が解消すれば、対策は遅きに失する。

   さらに、
国際共同購入の枠組みに寄付を
   バイデン氏が状況改善を真に望むのなら、コバックスを通じてただちにワクチンを寄付すべきだ。豊かな国はどのワクチンが有効かわからず、過剰発注した。英国の発注は成人1人あたり9回分以上、カナダは13回分以上に上る。余剰分は至急他の国に回すべきだ。死亡リスクが極めて低い10代の若者に、貧しい国の高齢者や医療従事者より先に接種するのも間違っている。豊かな国は万が一に備えて人口の何倍ものワクチンを備蓄すべきではない。
   ”豊かな国はワクチン備蓄やめよ” 貧困国へ、備蓄するワクチンを放出せよというのである。

   これに対して、スティグリッツは、途上国が新技術に基づいてCOVIDワクチンを製造する能力もスキルを欠いているという議論は、偽りである。
   米国とヨーロッパのワクチンメーカーが、インドの血清研究所(世界最大のワクチン生産者)や南アフリカのアスペンファーマケアのような外国の生産者とのパートナーシップに合意したとき、これらの組織は顕著な製造上の問題を抱えていなかった。さらに、ワクチンの供給を増やすのに同じ可能性を持つ企業や組織が世界中に沢山存在しており、彼らに必要なのは、技術とノウハウへのアクセスだけなのである。
   CEPIは、ワクチンを製造できる約250の企業を特定しており、モデルナの元化学ディレクター、スハイブ・シディキは、技術とノウハウを十分に共有すれば、多くの近代的な工場が3、4ヶ月以内にmRNAワクチンの製造を開始できるはずだと主張している。として、”ビッグファーマーの大きな嘘”と一蹴している。
   ”イノベーション(技術革新)が抑制される可能性がある”と言うことについても、スティグリッツは、先日論じたように問題にはしていない。
   知的財産権の保護は、イノベーションにとっては、両刃の剣であって、細心の注意を払って対応すべきであろう。

   興味深いのは、フランスのノーベル賞経済学者のジャン・ティロールが、「善き社会の経済学」の中の、「イノベーションの知的財産権」で、
「知的財産権というものは、本質的には、研究開発や芸術的創造を促すための”必要悪”である。」と論じている。
   私自身は、原則的には、知的財産権は、法制度としては確立しておくのは当然だと思っているが、人類社会の運命の帰趨を決するような、今回のパンデミックのような緊急非常事態時においては、特例として、知的財産(特許)の保護を一時免除して、COVID-19緊急免除を発令すべきだと思っている。
   エコノミストの ”豊かな国はワクチン備蓄やめよ” と言うスローガンについては、全く異存はないが、この記事での、トップ一流紙としての知見を疑う。

   問題は、スティグリッツも問題にしているように、バイデンのCOVID-19外交の拙さで、トランプと殆ど変らない「アメリカ・ファースト」で、膨大なワクチンを抱え込んでいることである。
   中国やロシアのように積極的に発展途上国を援助するワクチン外交と比べて、あまりにも、悲しい現実に、覇権を喪失しつつあるアメリカの黄昏を観る思いである。
   「私たち全員が安全になるまで誰も安全ではない」 地球上の人類が総てパンデミックから解放されない限り、COVID-19は居座り続けて、アメリカさえ吹っ飛ばせてしまうと言う厳粛なる事実を、バイデンは分かっているのかどうか。
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