私、ここ最近の5年間、東京都の公立中高一貫校には教え子をすべて合格させてきました。そのエッセンスを書き残しておきます。
(1)普段からPISA学力を意識する
「情報収集」⇒「解釈」⇒「熟考」⇒「評価」⇒「発信」⇒「交流」という流れがPISA型学力と言います。これを毎日の授業の中で繰り返すことにより、ひとつの課題から20も30も答えを編み出せる学力が訓練されます。これまでの日本の入学試験や模擬試験では、ひとつの答えに対してひとつの答えしかない問題が出されてきました。なぜなら、その方が採点しやすいからです。ところが、これからの時代は、答えなき課題に対して効果的と思われる複数の答えを用意していくことこそ求められる力になっています。それを問う入試問題を出しているのが東京都中高一貫校なのです。
(2)担任の授業革命が必要
6年生の担任は、一問一答式の授業方法を捨てて、一問多答式の授業をしていかなくてはなりません。これは何も中高一貫校に合格させるためだけではなく、これからの時代に生きていくすべての子どもたちのために必要な学力です。こうした一問多答式の授業によって、幅広い思考を鍛えられた子どもたちは、中学校では生徒会や学級の中でリーダー性を発揮し、学年内に起こる様々な問題を解決していく生徒に育ちます。中高一貫校で求められる学力とは、このような問題解決能力なのです。
(3)家族の会話が重要
保護者は担任の先生だけに頼るようなことを決してしてはいけません。家庭内の会話をこれまでの数十倍増やす努力をすべきです。中高一貫校に合格させること・・・これが最終目標なのではありません。受験を通して親子が成長していくことが大事なのです。受験というものは合否がありますから、成功することもあれば失敗することもあるでしょう。肝心なのは、この受験を通して家族の何を成長させるかという的をしぼることなのです。そのためには、「何のために受験するのか」という根本のモチベーションを再確認する必要があります。この根となるモチベーションがあいまいな場合は、受験をやめるべきです。あわよくば合格という親のあいまいな姿勢こそ、私は断じて切っておきたい。子どもに受験を強いるならば、親の責任で必ず合格させる。万が一不合格だったとしても、子どもに挫折感を味わわせることのないように周到な準備をしておく。最低限このくらいの努力ができない親だとしたら、「お宅は受験をあきらめてください。」と指導してきたのが担任時代の私です。
(4)親子、夫婦の会話で社会問題を1~2時間話せ
家庭の教育環境を高めることが中高一貫校の合格に必要なことです。教育力を高めるために、社会問題を語り合う時間をもつべきです。今の時代、1年間に流れる情報の量は何百倍という異常な加速状態になっています。この膨大な情報の中から、自分の家庭の生活にあった情報を選び出し、日々家族で考えていく。このような思考の訓練が普通に行われることで子どもの思考力が鍛えられていきます。家庭で難しい場合は、それに代わるような環境を用意してあげることが必要です。毎日、そして毎時間の学校の授業が、思考力を鍛えていくものであるならば、それが一番の近道にはなります。なぜなら、学校の授業時間数というのは6年生ならば1000時間以上あるからです。この1時間1時間を鍛えの時間としているか、ただなんとなく使っているかで、1000倍の思考力が身についているか、1000分の1の思考力で止まっているかの大きな分かれ道となるからです。
(5)表現力を鍛えよ
自分の考えを人に伝える努力をすることこそ、中高一貫校合格への近道になります。これについてはいついかなる場合でも訓練できます。たとえば、バレーボールの練習や試合の最中にだって、チームメイトの気持ちを高揚させるための言葉を選んでしゃべることができるのですし、練習を通して「強い心」を鍛え上げることだってできます。その「強い心」から発せられた言葉が、チームの仲間の心・・・いや、それ以上に監督である私の心・・・を打つようであれば、最高の表現力(心からのさけび)になるのです。
(6)リーダーであること
中高一貫校に合格した子、または、「この子が受けたら間違いなく合格しただろう」と思われる子は、必ずリーダーシップを持っています。公立中学校に進学した私の教え子たちの中で、小学校高学年時代に能力開発できた子は、必ず生徒会役員や学級委員になって学校を動かしています。その程度のことは当たり前にできる「統率力」を持っているのです。
(7)遠いビジョンを親子で考えよ
中学校受験など小さな壁です。今進んでいる道が正しいかどうかなど、10年はたたないとわかりません。中学受験の合否で左右される人生など歩まないことです。なんのために自分の力を使うのか。そのことを常に自分に言い聞かせ、行き詰まっても原点回帰して粘り強く立ち上がることのできる力を受験を通して育んでいくこと。その先には輝ける未来を描けること。ご自身の子どもをそのように強くたくましく育てていくこと。これが中高一貫校を受験する意味になれば良いだろうにと感じています。
ある保護者の方から中高一貫校の受験心得を質問されましたので、ほんの少しだけ掲載しておきました。