
今年はいよいよ昨年の自然災害からの復興が本格化することになるのでしょうが、駅や電車内の照明が暗くなっているのを除けば既にほぼ平常通りの首都圏で生活しておりますと、ややもすると「この国は被災したのだ」という事実を忘れてしまいそうになります。一方。被災地では何とか美しい山河を取り戻すべく今後も努力が続けられるわけで、そのためにも今後ますます趣味活動で訪れてお金を落とすことも悪くないのだろう……と愚考する次第です。
そこで、昨年末の京都出張にあたりましては、この出張を最後に年内の仕事のヤマを終えたことから翌日を休みとしまして、かねてからの念願であった奈良交通・八木新宮線の完乗を果たして参りました! この路線バスは、現代の日本では高速バスを除く最長路線として知られ、日本最大の村である奈良県十津川村をはじめ、森厳と横たわる紀伊山地を縦貫する壮絶な旅が展開されることから、路線バス趣味界においては一度は巡礼するべき路線といわれているのみならず、鉄道ファンとしても時刻表をめくるにつけ否応なしに興味をかき立てられずにはいられないものがあります。そこで私としても乗車のタイミングを狙っていたのですが、去る9月に紀伊半島を襲った未曾有の大水害により、このバスが走る熊野川流域と国道168号線は壊滅的な打撃を被ってしまいました……。このため、八木新宮線もしばらく運休を強いられ、「しまった……まさか数年、あるいは永遠に運休なのではないか? もっと早くに乗っておくべきだった!」と悲観したものですが、関係者の必死の努力により何と!11月1日に運行再開! 骨折からの回復により長時間のバス旅にも耐えられるようになったことから、京都発7:40の橿原神宮前行近鉄特急で勇躍大和八木駅へ向かったのでした。

大和八木では無事ヲタシートを確保し、「がんばろう十津川村・五條市」を掲げたバスに揺られていざ出発! 直後眼前に見える神武天皇陵に道中の武運長久を祈りつつ、八木新宮線用特別パワーアップ仕様のブルーリボンを操るベテラン運転手氏の鮮やかな手さばきに難路の全てを託す旅が始まったのでした……。詳しいことは、既に完乗された多くの方々がHPやブログなどで記されている内容の通りで、拙ブログが特にあれこれと綴るまでもありませんが、簡潔に道中を記しますと、
*大和八木駅~近鉄御所駅……頻繁な乗降。至ってフツーの市街近郊路線バス。
*近鉄御所駅~五條BC……葛城山ハイキング客が大量に乗降。里山を快走。
……和歌山線との並走時に105系旧塗装Wパン車に抜かれ、思わず目移り (^^;;
*五條BC~城戸……谷底の山里を縫い、国鉄五新未成線バス専用道と並走。
専用道経由のバスは本数が激減し、雰囲気は侘びしさ炸裂。早めに乗らないと。
*城戸~天辻峠……五新線橋梁の立派さに仰天しつつ一気に高度上げ!
*天辻峠~阪本……一気に谷底へ! ここまで線路を延ばそうとしたことに仰天!
*阪本~上野地……旧大塔村の核心部を走る区間は狭隘区間が続くハイライト!
しかし大水害で最も大きな崩落被害が出たところでもあり、迂回箇所多数……。
辻堂・宇井・長殿といった狭隘集落は通れず、代わりに絶叫過酷代替路通過!
(早期の復興・再整備を望みますが、究極の狭隘路体験も意味のあることかと…)
*上野地~十津川温泉……整備された道が増えるものの、所々ヤバめな狭隘さ。
折立では橋梁が流され (故に孤立世帯が多数発生)、仮橋を恐る恐る通過。
十津川温泉BTの手水の湯は素晴らしい湯加減。いつか泊まりたい……

*ホテル昴往復……ここ走るの?と絶句する狭隘区間を走行!
*十津川温泉~熊野本宮……凄まじい高度感と山々のボリューム感!
狭隘区間を解消するべく建設された七色桟道橋の偉容に圧倒されまくり……。
*熊野本宮~請川……湯の峰温泉の狭隘路は通行不能につき迂回。
*請川~新宮手前隧道……大津波に等しい熊野川の壮絶な増水の爪痕に絶句。
水面より10mほど高いところを走るバスの天井よりも上まで水が……。
*新宮市街……駅前は実は街外れだったことを初めて知りました (汗)。
……総じて、山また山、谷また谷。紀伊山地の規模、そしてそこに降った豪雨の爪痕に圧倒されるとともに、かくも峻険なる土地を貫くかたちで交通網が維持され、そして人の営みがあることに、大いに見聞を新たにした次第です。現在は残念ながら、熊野川の両岸が激しく荒廃しており、大水害前の美観は偲ぶべくもありませんが、数年後には緑が再び覆い、めくるめく山水の美が展開されることを祈らずにはいられないのでした……。

最高地点・新天辻トンネル。ここを抜け、奈落の底・阪本集落へと下ると・・・

行く手には古い旅館が立ちはだかり、どちらへ曲がっても極狭隘路!

五條市役所大塔支所(旧大塔村役場)前の狭い橋を渡りしばらく行くと・・・

橋や建設中の桟道が折り重なる奥に、辻堂集落を迂回する道が見え戦慄!

華奢な橋を渡り左折した瞬間、この極狭クネクネ坂が現れ内心絶叫!!
その狭さたるや、ガードレールや工事用の柵からご推察下さい・・・
大型路線バスが走る道としては世界最狭の部類に入るのでは・・・?
※同じ奈良交通の押熊は真っ直ぐな分だけ全然マシだと思います。
あ、でもそういえば、秋篠寺W直角という凶悪地点が・・

難所と崩落箇所の連続を終えて上野地集落に。それでもこの狭さ・・・

上野地休憩中のお約束・谷瀬の大吊橋。強風で恐ろしく、中間点で引き返し (^^;

ついに間もなく新宮駅。整理券番号は109! (シブヤとは全く別世界。汗)

大和八木駅BTに掲げられた路線図。これを全行程乗り通したのです!!