小金沢ライブラリー

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ミステリ感想-『隠蔽捜査』今野敏

2009年06月19日 | ミステリ感想
~あらすじ~
連続殺人は序章にすぎなかった。
警察庁長官官房でマスコミ対策を担う竜崎伸也。その朴念仁ぶりに、周囲は〈変人〉という称号を与えた。だが彼はこう考えていた。エリートは、国家を守るため、身を捧げるべきだ。私はそれに従って生きているにすぎない、と。
吉川英治文学新人賞受賞作。


~感想~
こんなに典型的な、にもかかわらず魅力的な官僚がかつていただろうか。
このミス20位にランクインしているが、ミステリ的な要素はほぼ皆無。
起こる事件に謎はなく、主人公の竜崎は事務方だけに、捜査にたずさわることもない。だが物語はその事件を中心に動き、その時々で竜崎に迫られる決断が読む者を引きつけてやまない。
だが構成やストーリーの行方もさることながら、この小説の真の魅力は竜崎という特異な人物の造型にあり、彼の一本芯の通った、だがそれゆえに奇抜な言動や、選択の数々が、非常に面白いのだ。
そういった意味では今作は純然たるキャラ小説であり、どこまでも官僚的で、いついかなる時も正論を放ち、それがしかも本音とリンクしている竜崎というキャラを産み出した時点で、大成功を収めたと言えるだろう。


09.6.4
評価:★★★☆ 7
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ミステリ感想-『贖罪』湊かなえ

2009年06月19日 | ミステリ感想
~あらすじ~
穏やかな田舎町で起きた、むごたらしい少女殺害事件。
犯人と目される男の顔をどうしても思い出せない四人の少女たちに投げつけられた激情の言葉が、彼女たちの運命を大きく狂わせる。
……これで約束は、果たせたことになるのでしょうか?


~感想~
デビュー作『告白』と同じく、連作短編集の体裁をとるが、やはり『告白』のように個々の短編としては特段の謎もトリックもなく、長編の一部としてしか機能していない。
ミステリというか、きわめて普通の文学に近く、全体に謎や伏線を張りめぐらせることよりも、因縁譚として物語に結末をつけることに腐心したようで、驚きや意外性といったものはほとんどない。
だからと言って退屈というわけではないが、『告白』と比較するとオチが弱く、せめて『告白』における『聖職者』のような卓抜した一作があれば見栄えも変わったろうが、全体的にこじんまりとまとまってしまった印象。
とはいえ『聖職者』と同じく教師を語り手に据えたときの毒のすさまじさや、これってミステリというか『呪怨』じゃね? と思えてしまう「関係者は皆殺し」テイストは面白い。
……ひょっとしなくてもこれはホラー小説として読むのが正しいのだろうか。


09.6.17
評価:★★☆ 5
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