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ミステリ感想-『無貌伝 夢境ホテルの午睡』望月守宮

2009年11月10日 | ミステリ感想
~あらすじ~
怪盗・無貌……それは世界が畏怖する魂と人間のヒトデナシ。探偵・秋津とその助手・望は、無貌逮捕の報を受け、「夢境ホテル」へと向かった。そこには、名だたる三探偵をはじめ、一癖も二癖もありそうな宿泊客ばかりが。やがて、探偵たちを嘲笑うかのようにホテルの一室で刺殺死体が発見される。


~感想~
期待の新人の待望の第二作は、期待にたがわぬ代物だった。
この新人はデビュー二作目にして早くも「ヒトデナシ」という異形の存在を見事に活かし、この作品でしかなしえない自分だけの物語を、安定感あふれる筆致で描ける力を身につけている。
「ヒトデナシ」の能力はなんでもありすぎて、ひとつ間違えば興ざめになってしまいかねない危険な題材だが、作者は抜群のバランス感覚で「ヒトデナシ」のいる世界の魅力だけを抽出し、物語に奉仕させることに成功しているのだ。
そう、ぶっちゃけるとこの小説は本格ミステリじゃなくても十分に楽しめる。その証拠に、本格な部分の真相は意外と早くに明かされ、探偵による謎解きが終わった後にラスボスとのバトルが始まるのだが、ここが本編よりも盛り上がり、どんどん本格からもミステリからもかけ離れた地平へと飛んでいくのだが、主眼のはずの謎解きよりもさらに読ませ、楽しめてしまうのだ。
「第三巻へつづく」と書かれてもまったく違和感のない、後を引くラストシーンといい、早くも次回作が待ち遠しい。もう次は万が一ぜんぜんミステリじゃなくなっても買うね。
メフィスト賞はひょっとすると、とんでもない逸材を手に入れたのかもしれない。


09.11.10
評価:★★★★ 8
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