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ミステリ感想-『武家屋敷の殺人』小島正樹

2009年11月24日 | ミステリ感想
~あらすじ~
孤児院育ちの静内瑞希は、生家探しを川路弁護士に依頼する。手がかりは捨てられたときに持っていた日記ひとつ。そこには20年前の殺人と蘇るミイラの謎が書かれていた……。


~感想~
島田荘司の『御手洗パロディ・サイト事件』に御手洗もののオリジナル短編を投じて世に出て、『天に還る舟』にて島田荘司御大との共著という異色のデビューを飾ったこの作者。単独デビュー作の『十三回忌』は、ありとあらゆる本格ミステリな意匠とトリックを一作で出してやると言わんばかりの詰め込みすぎ、やりすぎの作品で、あまりに事件が多すぎて、ひとつひとつの謎に費やすページ数がとれず、どんな難問でも探偵がちょっと頭をひねるだけで解けてしまう――というやりすぎにも程がある過剰な内容で、実に楽しませてもらったのだが、今回はカバーと帯に書かれた宣伝からして、
「詰め込みすぎ!」「最後のどんでん返しまで、目が離せないジェットコースター新感覚ミステリー」
という自信満々のうたい文句であり、やりすぎな作者がやりすぎを自認する内容とはいったいどんなものかと期待したのだが、まさしく「やりすぎ」なミステリであった。

まずは冒頭。島田御大の『眩暈』や『ネジ式ザゼツキー』ばりの謎めいた手記が登場するのだが、この手記の謎を解くだけでも十分に一冊ものせるだろうに、ほとんどの謎をくだんの武家屋敷にたどり着くまでの過程で解いてしまう「やりすぎ」さにしびれる。長編にたえうるネタを話のとっかかりに用いるという豪腕につづけて、改めて手記に描かれた物語を別人物の視点から見直し、そこに新たな謎をこれでもかとぶち込み、さらには事件の背景となった江戸時代の事件まで持ち出し、それを即座に解決するという電光石火の早業を見せ、さらにさらに現代パートにまで人物入れ替わりやら家屋(部屋)消失やら謎の首なし死体やらが現れるわ、解決編に移ったと思いきやミイラが突然現れ、死者はよみがえり死体は消失し、合間に本筋とつながらないこれまた謎めいた断章がはさまれ、ようやく大団円を迎えたと思いきや最後の最後に……と、謎と事件とトリックと解決でひたすら話をつなげていくという、THE・本格ミステリの大盤振る舞い。まさかここまで前作を軽々と上回る「やりすぎ」っぷりを見せてくれるとは思わなんだ。
ここまで事件が錯綜し、どんでん返しがつづき多重解決が重なると、ともすれば複雑になるところだが、磐石の結末をきちんと用意し、全く軸がぶれることがないのがお見事。サービス過剰に見せかけて、計算ずくの物語である。
間違いなく今年の本格ミステリ・ベスト10入りするだろうこの作品、本格を愛する方には強くおすすめしたい。
そして誰かがそのうち言うだろうから今のうちに、作者の名字にかけて小島正樹を「やりすぎコージー」と呼んでおこう。


09.11.24
評価:★★★★ 8
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