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ミステリ感想-『屋上ミサイル』山下貴光

2009年11月13日 | ミステリ感想
~あらすじ~
アメリカ大統領がテロ組織に拉致されるという大事件が発生していたものの、日本の高校生にとって、それは遠い国の出来事だった。
美術の課題のため、屋上にのぼった高校二年生の辻尾アカネ。そこで、リーゼント頭の不良・国重嘉人や、願掛けのため言葉を封印した沢木淳之介、自殺願望を持つ平原啓太と知り合う。屋上への愛情が共通しているということから、国重の強引な提案で“屋上部”を結成することになった四人。屋上の平和を守るため、彼らは屋上に迫る数々の脅威に立ち向かう。
このミステリーがすごい!大賞2009年受賞作。


~感想~
軽妙でテンポはいいが、笑いにはつながらず魅力的には映らないやりとり、「お前絶対そんなこと思ってなかったろ」とつっこみたくなる、感情の振り幅が0から100に動くような不自然な心理描写と、いわゆるラノベじみた様相が読む人を選ぶだろうが、とにかく勢いだけはあり、抜群のリーダビリティでぐいぐい引っ張っていく力だけは買える。
物語はミステリというよりもRPGみたいなノリで、次から次へとエンカウントバトルのように事件が降ってわいては、解決すると重要アイテムと情報を手に入れ、それが次の事件へとつながっていくというご都合主義きわまりないもので、推理や捜査ではなくフラグ立てをしているだけのように思えるのがネック。
この都合のよさが徹底していて、だいたいの「Why(なぜ)」が「偶然」で片付けられてしまい、つまり「偶然落とした」「偶然拾った」「偶然見ていた」「偶然知ってた」「偶然つながっていた」という有様で、どんだけこの世界は狭いんだよ、っていうかこれ山口雅也の『奇偶』じゃね? とつっこみたくなってしまう。
とはいえデビュー作らしい詰め込みすぎのにぎやかさ、本筋とつながらないテロ事件にもきっちり結末と理由をつける丁寧さ、ぶっ飛んだ言動も思考もないのに印象に残るキャラたちと、荒削りな輝きは随所にあり、将来性は感じられる。
ひょっとするとこの人はミステリには向いてないのかもしれないが。


09.11.13
評価:★★☆ 5
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