~あらすじ~
その「呪い」は26年前、ある「善意」から生まれた。
夜見山北中学に転校してきた榊原恒一は、なにかに怯えているようなクラスの雰囲気に違和感を覚える。不思議な存在感を放つ美少女ミサキ・メイに惹かれ、接触を試みる恒一だが、いっそう謎は深まるばかり。そんな中、クラスメイトの一人が凄惨な死を遂げ……。
~感想~
版元も書店もホラーとして売りたいようだが、これはホラー的な意匠の特殊なルールに基づいた本格ミステリであると断言してしまいたい。
辻村深月のデビュー作『冷たい校舎の時は止まる』にルール的にはかなり近く、なんでもありに陥る一歩手前で制限を設け、本格ミステリとしての解決をもたらす結末も似通っていると言えるだろう。
似ているといえば無表情・人間関係に希薄・眼帯・メイという名前の響きからあからさまに綾波レイなミサキ・メイもそうだが、だからといってオリジナリティに劣るということは全くない。
前半は思わせぶりな雰囲気だけで、事件のひとつも起こさずに200ページ近く引っ張っていく豪腕ぶりだが、すこしの無理もなく読ませてしまい、冗長さを感じさせない。
この読ませる手腕がとにかくすごく、『殺人鬼』さながらにサイコでスプラッタな描写も少なからずあるのだが、語り手の飄々とした空気とあいまって、緊張感や不穏な空気をほとんど感じさせないにもかかわらず、平易な文体でだれることなく最後まで一息に読ませる力は、さすが新本格の旗手といったところ。
終わってみれば、あらゆる伏線が綺麗に回収され、あとに腑に落ちないところが全くないという完成度の高さ、デビュー作『十角館の殺人』をほうふつとさせる、十八番の巧緻な細工で盲点に隠された「犯人」と、本格ミステリとしてはもちろんのこと、ホラーとしても完璧に物語を収束させ、どこにも破綻が見当たらない。綾辻行人の新たなる代表作、と評してかまうまい。
今年はこのミス1位にふさわしい作品がまだないと個人的に思っていたのだが、最後の最後に滑り込みでこれが現れてくれた。初版が10月30日なのでこのミス期限には本当にギリギリだが、順当に行ってくれることを願う。
09.11.20
評価:★★★★☆ 9
その「呪い」は26年前、ある「善意」から生まれた。
夜見山北中学に転校してきた榊原恒一は、なにかに怯えているようなクラスの雰囲気に違和感を覚える。不思議な存在感を放つ美少女ミサキ・メイに惹かれ、接触を試みる恒一だが、いっそう謎は深まるばかり。そんな中、クラスメイトの一人が凄惨な死を遂げ……。
~感想~
版元も書店もホラーとして売りたいようだが、これはホラー的な意匠の特殊なルールに基づいた本格ミステリであると断言してしまいたい。
辻村深月のデビュー作『冷たい校舎の時は止まる』にルール的にはかなり近く、なんでもありに陥る一歩手前で制限を設け、本格ミステリとしての解決をもたらす結末も似通っていると言えるだろう。
似ているといえば無表情・人間関係に希薄・眼帯・メイという名前の響きからあからさまに綾波レイなミサキ・メイもそうだが、だからといってオリジナリティに劣るということは全くない。
前半は思わせぶりな雰囲気だけで、事件のひとつも起こさずに200ページ近く引っ張っていく豪腕ぶりだが、すこしの無理もなく読ませてしまい、冗長さを感じさせない。
この読ませる手腕がとにかくすごく、『殺人鬼』さながらにサイコでスプラッタな描写も少なからずあるのだが、語り手の飄々とした空気とあいまって、緊張感や不穏な空気をほとんど感じさせないにもかかわらず、平易な文体でだれることなく最後まで一息に読ませる力は、さすが新本格の旗手といったところ。
終わってみれば、あらゆる伏線が綺麗に回収され、あとに腑に落ちないところが全くないという完成度の高さ、デビュー作『十角館の殺人』をほうふつとさせる、十八番の巧緻な細工で盲点に隠された「犯人」と、本格ミステリとしてはもちろんのこと、ホラーとしても完璧に物語を収束させ、どこにも破綻が見当たらない。綾辻行人の新たなる代表作、と評してかまうまい。
今年はこのミス1位にふさわしい作品がまだないと個人的に思っていたのだが、最後の最後に滑り込みでこれが現れてくれた。初版が10月30日なのでこのミス期限には本当にギリギリだが、順当に行ってくれることを願う。
09.11.20
評価:★★★★☆ 9