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ダメミス感想-『黙過の代償』森山赳志

2011年03月22日 | ミステリ感想
~あらすじ~
大学生の秋月昌平は墓参りに行った霊園で、瀕死の男に遭遇。その男は片言の日本語で「コレをダイトウリョウに渡してほしい」と言い残して昌平に鍵を託す。日本と韓国の間に渦巻く陰謀に巻き込まれた昌平の身にふりかかる危機! 本作で第33回メフィスト賞を受賞、韓国翻訳版も同時刊行した新進気鋭の作家がおくる国際派ハードボイルドサスペンス決定版。
※コピペ


~感想~
「ブォーーーー、ブォーーーー!」※本文より抜粋(クラクションの音)

あまりにダメすぎて読むのに二週間かかってしまった代物。
なにがダメかと問われれば「なにもかも」と答えるしか無いのだが、それでも細かく挙げていくと、

1.文章
↑に引用した文学史上初かもしれない、クラクションの音を会話文で表現した手法を筆頭に、とにかく文章が酷い。
登場人物が無駄に多いが描き分けは全くできておらず、さらに同じ人物でも場面によって、蔡、蔡(チェ)、チェ、とおそらく視点人物によって呼び名が変わり、しかもチェという名前の別人までいる(とどめにもう一人のチェは偽名であり本名まで出てきやがる)ため、誰が誰やら最後まで把握できなかった。

2.ストーリー
ストーリー展開も絶望的で、「大統領にこれを渡してくれ」と鍵を託された主人公が、どうやって大統領に接触するか――に頭を悩ませる前に、本屋で前から欲しかった本を物色し、公園の芝生の上で嫌なことを忘れて読書をエンジョイし、そのエピソードが物語に一切関わってこないとか、手掛かりを求めてとった行動が「その辺のバーに飛び込んでヤクザが出てくるまで用心棒をボコる」だったり、そのヤクザは主人公を保護してくれるのだが、その方法が若い義妹の家に二人きりで預けるだったり、主人公はまだ大学生で得意のテコンドーも修行中のはずなのに、ヤクザも警官も用心棒も秒殺の暴れっぷりで、そのくせラストで重要人物たち(9割殺し屋)が一堂に会し、一触即発の空気が流れたが事態を収束させたのはテコンドー無双ではなく、偉い人が出てきて怒るだったりと、もはやストーリーが破綻しているとかそういう問題ではない。

3.韓国マンセー
本書は恐ろしいことに日韓同時発売をしたのだが、あまりに韓国寄りな描写が目に余る。
本編に入る前の前文からして、韓国の国定教科書からの引用だし、韓国人のヒロインは太平洋戦争の際の日本軍によるアジア侵略を定型的に罵るのだが、それに対して日本人の主人公は普通に納得しちゃったりと、終始「うわぁ……うわぁ……」とつぶやきっぱなしであった。
また、中盤から日韓問題を絡めたそれなりに興味深い真相が明らかになるのだが、それも最終的には投げっぱなしにされ、問題提起されただけで置き去りなのも悲しい。

4.痛い
ご覧の有様なのに作者は、

社会性と娯楽性、この二つが両立した小説が好きでした。殘念ながら、こういった描き手はそう多くはないようです。だったら自分が読みたいものを妥協せずに描いてみようと。そうやって苦しみ拔いて、この小説はできあがりました。みなさんの厳しい目で、志の高さ、を確かめてください。

と、お前は清涼院流水かと思うくらいの強気っぷりである。ついでに新刊の帯には、

すべての謎、登場人物の葛藤などがひとつの事柄へ集約していくよう、ミステリの仕掛けを施してあり、クライマックスにそれらを踏まえたサスペンスも用意しています。この手の小説は嫌いだ、という方も、プロローグの一行だけでも読んでみてください。そこからすでに謎(トリック)ははじまっています。

と書かれているのだが、そのプロローグの一行目といえば、

まったくなんてことをするんだ。

だったりするのだからある意味本当にすごい。
切りがないのでこのくらいにしておくが、作者の新作は全く出ていないこと、本書はメフィスト賞史上最低の誉れ高いことを付記しておく。


11.3.21
評価:問題外
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