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ミステリ感想-『クラインの壺』岡嶋二人

2017年07月18日 | ミステリ感想
~あらすじ~
上杉彰彦が大学時代に書いた冒険小説を原作にした画期的なゲームマシン「クラインの壺」。
彰彦は原作者としてテストプレイに参加し、現実と区別がつかないほどの仮想空間に魅了される。
だが「引き返せ」という謎の声が彰彦の耳にだけ届き、やがて現実にも暗い影を落とし始める。

1989年このミス5位、文春7位、本格ベスト29位


~感想~
まず1989年の刊行当時には「20~30年後には実現しているかもしれない近未来の技術」だったのが、2017年現在から見ると「30年後でも無理そうなSF」になっており、リアルタイムで読んでいた人とは相当捉え方が違ってくるのだろうなと思った。
ゲーマーの端くれとしてPSVRがやっとこの現状を見るにつけ、昨今の技術の進歩は目覚ましいが、よほど革命的な発展でもない限りは本作で描かれたレベルの仮想現実が自分の生きている間に誕生するとは思えない。はたして22世紀でもどうだろうか?
お金の話をすると「ウィッチャー3」の百倍綺麗なグラフィックで、百倍の自由度があり、音声認識でしかも五感に働きかけるゲームなど少なく見積もっても「ウィッチャー3」の一万倍の開発費が必要なことは疑いない。(※ウィッチャー3の開発費は宣伝費を含めず40億円。その一万倍は40兆円。ロシアの国家予算が35兆円)
「ウィッチャー3」自体が不世出の可能性すらある化け物ゲームなのに、それがファミコンでドラクエⅢが発売されていた時代に開発されていた、とする設定はあまりにも無理がありすぎて、なまじ現実に根ざした話だけにSFを通り越し絵空事のように感じてしまった。

物語自体は素晴らしい引きで始まる冒頭から、不穏な気配の漂う展開へ流れていき最後まで読ませるものだが、「クラインの壺」を題材にし、この設定で描いた時点で予想していた物語から一歩も出ないもので、正直言って全く好みではない。
この作品を最後に岡嶋二人は解散し、片割れの徳山諄一は本作について(※超ネタバレ→)「いわゆる夢オチではないか」という身も蓋もない発言をしているそうだが、自分もそれに完全同意である。

ミステリとして見れば評価できる点はほとんど無く、刊行当時はまだしも現在では物語も結末も一切の裏切りのない、極端に言えば平板なものながら、岡嶋二人ほどの作者に今さら言うまでもなく読ませる力は十分であり、読んで損することは一切ないだろう。


17.7.16
評価:★★★ 6
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