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ミステリ感想-『第三の女』夏樹静子

2017年07月26日 | ミステリ感想
~あらすじ~
フランス旅行中、暗闇の中で一瞬の愛の交歓をした男女。
互いに絶対に殺さなければいけない相手の名前を語り合い、顔も知らないまま別れたが、やがて男の憎む相手が謎の女によって殺される。


~感想~
交換殺人の変奏曲とでも呼ぶべきプロットが光り、犯人側の視点で描きながら、顔を知らないため女の素性はわからず、フーダニットとしても成立させているのが上手い。
真相はこの設定から想像しうる何パターンかの1つに落ち着くものの、逆に言えばこの設定ならばこれしかないという収束を見せ、ミステリのみならず物語としての完成度も高めることに成功している。

一方で交換殺人の相方で語り手を務める大胡(だいご)の癖がすごすぎるのが難点。
不用意に標的の周りをふらふら嗅ぎ回り、挙げ句の果ては自宅から堂々と標的の自宅に電話を掛ける始末で、不思議なことに作中の警察は全く電話会社に問い合わせるという発想をしないからいいものの、問い合わせればそれこそ電話一本で犯人に直通してしまうノーガード戦法には開いた口が塞がらない。
また女と見れば探し求める相手だと思い込んで見境なく発情し、二人切りになったら「丸太町ルヴォワール」もかくやというペダンチックで超うぜえ愛の囁きを、立て板に水のごとく速射砲で放つのも癖がすごすぎ、普通に描けば悲哀あふれる物語の雰囲気をブチ壊しにしている……と思うのは自分だけだろうか。
また細かいあげつらいになるが、新装版のくせに237ページで一昨日を一昨年と誤植しているのはどういう了見か。

色々いちゃもんは付けたものの、全体的には佳作と言っていい出来であり、読んで損はしないだろう。


17.7.26
評価:★★★ 6
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