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ミステリ感想-『原子炉の蟹』長井彬

2018年01月09日 | ミステリ感想
~あらすじ~
新聞社の編集委員の曾我は、地方紙に勤める知人から会社社長の不可解な失踪の話を聞かされる。
行方を追った矢先に社長はフェリーから投身自殺するが、曾我は偽装自殺を疑う。
一方、九十九里浜原発では建屋内で放射能汚染された死体が発見されるもやはり姿を消し、握っていた紙にはサルカニ合戦の一節が書かれていたといい……。

1981年文春1位、江戸川乱歩賞


~感想~
長らく絶版となっていたが3.11を機に、事故から8ヶ月後に新装版が出された一作。
ありていに言えば古き良きミステリで、見立ての題材にサルカニ合戦を採り上げたのはトリッキーながら、それ以上の効果は挙げていない。
わざわざ見立てを施した理由はまあ納得できるが、感心するところまでは行かず、終盤に明かされる意外な犯人に別段驚かされることもないが、哀切あるラストシーンだけは評価できる。

見どころはやはり原発の話題で、舞台は架空の原発ながら3.11で明らかになった事実から鑑みて、1981年当時から一歩たりとも改善されていない現場作業員の労苦や、杜撰な管理体制と隠蔽体質には呆れるばかり。
本作に限らず3.11以前には陰謀論とどっこいの扱いをされていた原発関連の噂が、一から十まで全くおっしゃる通りだったという事実には言葉もない。
ミステリ的には取り立てておすすめできる要素が無いので、原発の話題に興味がある向きにだけ、ごくごく控えめに推薦したい。


18.1.4
評価:★★☆ 5
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