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ミステリ感想-『肖像画(ポートレイト)』依井貴裕

2018年01月30日 | ミステリ感想
~あらすじ~
人気ミステリ作家の片倉弥冬の別荘に招かれた多根井理と富岡秀之。
弥冬の姉妹はそれぞれ音楽と絵画に才能を示し、亡き末妹の史織はその全てに秀でていたという。
まるで史織の亡霊が肖像画から抜け出したように、不可解で陰惨な連続殺人事件の扉が開く。


~感想~
あるミステリの技法の限界に挑んだような意欲作。
その技法が何かを明かすと即ネタバレになってしまうのだが、ただでさえ「名前くらいは聞いたことあるかも?」というマイナーな技法の、その限界に挑むという苦行じみた試みはもはや職人芸に近く、ミステリマニアなら必読とすら言えるだろう。
また技法自体はマイナーながらその内容はごく単純であり、精密機械のように張り巡らされた伏線の山と、怒濤の伏線回収にどんでん返しの嵐は、マニアならずとも楽しめるはず。

ただし小説としての完成度は著しく低いと言わざるを得ない。
ただ伏線を張るためだけに交わされる会話は超不自然だし、ボンクラと評されていたはずのある人物の記憶力はギネス級になっており、警察は度重なる殺人事件にも関わらず一通りの捜査を終えるや総員撤収してしまい、次なる犯行を未然に防ごうとする意志が全くない。見張りを置け見張りを。
解決編の怒濤の伏線回収は素晴らしいが、あんまり推敲していないのか余計な説明や繰り返しが煩雑だし、聞き手の富岡が謎の頭痛に苦しむのも意味不明。

だがそういったツッコミは本格ミステリにおいては野暮というものだし、依井貴裕に我々が求めているのはこういう作品である。
例によって入手困難だが、図書館や好事家の手を借り、ぜひ純度120%の濃縮本格ミステリの超絶技巧をお試しあれ。


18.1.29
評価:★★★☆ 7
コメント (2)