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ミステリ感想-『皇帝と拳銃と』倉知淳

2018年01月17日 | ミステリ感想
~収録作品とあらすじと感想~
連作ではないが共通の探偵役が登場する倒叙縛りの短編集。
タイトルは表題作から見るにタロットカードというよりもジョジョの奇妙な冒険第三部が元ネタか。


運命の銀輪
共作相手を殺した恋愛小説家の伊庭。犯行はシンプルさを心掛け証拠は何一つ残さなかったはずだった。
だが死神のような風貌の乙姫警部は、些細な気付きから伊庭に迫る。

冒頭から「なぎなた」に収録された短編の再録というがっかりさ。シリーズ短編を集めるためとはいえ、ただでさえ寡作の作者なのに、他の短編集の再録とは。以下「なぎなた」に書いた感想を再録。

ドラマならまだしも本格として倒叙ミステリに必要な物がごっそり抜け落ちている。
ほぼ印象論だけの推理、偶然見つかった証拠、不発に終わった揺さぶりと物足りない。
偶然に支配された皮肉な結末を描くにしても、読者が知りようもない証拠をいくつも使うのはどうだろうか。


皇帝と拳銃と
皇帝の異名を取る大学教授の稲見は、脅迫相手を拳銃で脅し墜落死させる。
発砲した場所を偽装する等、仕掛けられたいくつもの関門に乙姫警部が挑む。

1話目とほぼ同じ感想。決着手はなぜそんな初歩的なミスを犯したのか理解に苦しむもので、しかも読者にはまず解きようがなく、盛り上がっているのは犯人と作者だけという厳しさ。
この1~2話目のどこがどう面白くないのか仔細に検証すれば、論文が一本書けるのではと思うほど尋常ではなくつまらない。


恋人たちの汀
劇作家の間宮は恋人を借金のかたとして差し出すよう脅した叔父を発作的に殺害。
恋人にアリバイ工作を頼み、逃げ切りを図る。

ある一つの手がかりを突破口にねちっこい論理で攻めに攻めまくる、出色の一編。
作者お得意の小劇団を舞台にしたこともあり、事件の背景や登場人物たちの置かれた状況それ自体が面白い。また倒叙物には不可欠とまでは言わないが、できればあって欲しい「殺したくなる被害者」もしくは「同情の余地ある犯人」がいたのも良かった。


吊られた男と語らぬ女
芸術家の男が首吊り死体で発見。しかし遺体の首には死因とは別のロープが巻かれていた。
乙姫警部は同居人の一人である美女カメラマンに目を付けるが……。

4編目は冒頭からしてここまでの3編とは異なり、それならこう捻ってきたかなと予想させ、でもただひねるだけでは終わらないはずだと期待していたら、なんの捻りもないまま決着してしまい激しく落胆した。

この一編に限ったことではないどころか、近年の倉知に共通の傾向として、氏の全盛期と比べていまいちな作品が多いのはつまるところ「絶対こんなページ数必要ない」に尽きると思う。
事情聴取をする相手の心情を丹念に描き、そのたびにイケメン鈴木と死神乙姫の描写を繰り返すのははっきり言って無駄の一言。こんな余計なものを省いて猫丸先輩シリーズの頃の短編の分量にするだけでもだいぶ見栄えは変わるはずなのだが……。


18.1.13
評価:★ 2
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