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ミステリ感想-『記念樹(メモリアル・トゥリー)』依井貴裕

2018年01月19日 | ミステリ感想
~あらすじ~
大学生の富岡秀之は、ゼミ仲間の高屋から記念樹(メモリアル・トゥリー)にまつわる不思議な記憶を聞かされる。高屋はさらにゼミ生の交通事故を夢で予見。そしてある夜、別のゼミ生が電話ボックス内で刺殺体で発見される。秀之の友人の多根井理は論理で全ての謎を解き明かせるのか?


~感想~
久々に「論理が面白い!」と快哉を叫びたくなるロジカルミステリ。
次々とゼミ仲間を殺されてるのに一向に慌てず騒がずのさとり世代よりもっと悟ってるキャラ達は単純に筆力の限界だが、全編にわたって張り巡らされた細かい伏線と論理が実に楽しい。
前半に本筋の事件とは一切関係ない余興のように起こる「誰かこっそりAV観てた事件」で、読者は日常風景にさりげなく張られていた伏線と、その論理的な解決に驚かされるだろうが、それが予行演習か予告編に過ぎず、メインの事件でも同じように怒涛の伏線回収と緻密なロジックが披露されるのだからたまらない。
またこれまで作者は文章が下手なのだと思っていたが、デビュー作でもある本作は無味乾燥かつ人物の書き分けができていないだけで、別に読みづらくはなかった。前に読んだ二作はどちらも文章自体であれこれしていたため読みづらかっただけで、決して下手ではないのだろう。

とにかく論理と伏線だけしか無い作品で、読者への挑戦状を配するにふさわしいフェアプレイで、4つの事件が論理的に紐解かれるのだが、自分は一顧だにせず解決編へと読み進めてしまったものの、ちゃんと本を閉じ考えてみれば解けていたかもしれない、と思わせる、言われてみればおっしゃる通りの不自然な描写や伏線があるわあるわ。
こんなあからさまな不自然さを見逃すのは警察がボンクラ過ぎるのではという疑問もあるが、ゲーム的な本格ミステリならばそのくらいは許容範囲であり、真相に直結する伏線だけではなく、とりあえず張ってはみたものの使わなかった伏線も山のように存在し、圧巻の一言。
とどめの一撃となる決定的証拠は「あれ? これさえあれば他の伏線全部いらなくね?」という実は目撃者がいました級の決定的すぎる証拠なのが難だが、演出的なインパクトと意外性は十分だし、何より端的に言って「美しい」決着なので文句は言えまい。

絶版なのが実にもったいない、本格ミステリファン垂涎の論理ミステリである。
余談だがラストシーンで出てくるちょうどいい仔犬には吹いた。
「あったよ! ちょうどいい仔犬が!」「よしでかした!」


18.1.18
評価:★★★★ 8
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