~あらすじ~
並外れた観察力と推理力で「終身検視官」の異名を取る倉石義男を主役にした短編集。
2004年このミス9位、本格ミステリ大賞候補
~感想~
倉石の視点からの話は無く、8話全て別の人物の視点から倉石の鑑識の手腕が描かれる。
横山秀夫の刑事小説なんて面白いに決まっているが、いちおう蛇足的に各話を簡単に紹介して行く。
冒頭の「赤い名刺」がいきなりの変化球。視点人物の一ノ瀬は保身のために被害者との関係を隠し、しかも証拠隠滅にまで手を染める。シリーズ初っ端からこんな手段を使うことはもちろん、あからさまな伏線が何気なく張られていたことにも驚かされるだろう。
2話目「眼前の密室」はタイトルから期待する通りの堅牢な密室が現れるのだが、気付きのきっかけもトリックもどうもピンと来なかった。脇役の一般人の手であっさり解かれるバカミス的トリックのほうがむしろ面白かった。あとスズムシは特に必要ないと思う。
続く「鉢植えの女」でも2つの事件が登場。追い込まれた倉石が鮮やかに決めるカウンターと、ちょっと言葉遊びの度が過ぎるがダイイングメッセージの切れはお見事。
「餞」はここまで鑑識マシンだった倉石が情の深さを見せるが、しかしあくまでマシンのままでそれを垣間見せるのが上手い。普通なら短編集の掉尾に置くだろう本編が中盤に惜しげもなく出されるのが作者のにくいところ。
「声」はある人物の回想から始まるさらなる変化球だが、正直ちょっと無理があるのではないか。だって●歳で●に●されて●が●なんて●が普通思うか? 恋の鞘当て(?)をする二人も含めて登場人物にやべえ奴しかいない。
「真夜中の調書」は雑学とも呼べないような些細な豆知識から2つの逆転を導く。倉石の推理がほとんど妄想だけに基づいているようにも思える気もするが。
「黒星」はかなり強引な話で、倉石の暴走に見えてしかたない。あと1つ目の事件は必要なのだろうか。
だが「黒星」があってこそ最終話「十七年蝉」が輝く。本格ミステリの住人みたいな犯人とそれをめぐる過去パートは普通は長編で描く物語の規模で、それを贅沢にも短編に落とし込み、これ以上ない結末で締めた、本作のラストを飾るにふさわしい一編である。
厳密に言うとミステリとしてはあんまり成立してはいないのだがw
倉石の無頼なキャラや、一話目から繰り出しその後も王道から一歩ずらして投げられ続ける変化球、シリーズ化あるいはドラマ化を見越したような個性的なサブキャラたち、これまで作者がほとんど描かなかったややエロい描写・設定などなど、かなり実験的な面が見え隠れするが、横山秀夫の短編集に期待する水準は楽々と越えつつ、いろいろ好き勝手にやってみせたような、個性豊かな作品である。
18.12.17
評価:★★★☆ 7
並外れた観察力と推理力で「終身検視官」の異名を取る倉石義男を主役にした短編集。
2004年このミス9位、本格ミステリ大賞候補
~感想~
倉石の視点からの話は無く、8話全て別の人物の視点から倉石の鑑識の手腕が描かれる。
横山秀夫の刑事小説なんて面白いに決まっているが、いちおう蛇足的に各話を簡単に紹介して行く。
冒頭の「赤い名刺」がいきなりの変化球。視点人物の一ノ瀬は保身のために被害者との関係を隠し、しかも証拠隠滅にまで手を染める。シリーズ初っ端からこんな手段を使うことはもちろん、あからさまな伏線が何気なく張られていたことにも驚かされるだろう。
2話目「眼前の密室」はタイトルから期待する通りの堅牢な密室が現れるのだが、気付きのきっかけもトリックもどうもピンと来なかった。脇役の一般人の手であっさり解かれるバカミス的トリックのほうがむしろ面白かった。あとスズムシは特に必要ないと思う。
続く「鉢植えの女」でも2つの事件が登場。追い込まれた倉石が鮮やかに決めるカウンターと、ちょっと言葉遊びの度が過ぎるがダイイングメッセージの切れはお見事。
「餞」はここまで鑑識マシンだった倉石が情の深さを見せるが、しかしあくまでマシンのままでそれを垣間見せるのが上手い。普通なら短編集の掉尾に置くだろう本編が中盤に惜しげもなく出されるのが作者のにくいところ。
「声」はある人物の回想から始まるさらなる変化球だが、正直ちょっと無理があるのではないか。だって●歳で●に●されて●が●なんて●が普通思うか? 恋の鞘当て(?)をする二人も含めて登場人物にやべえ奴しかいない。
「真夜中の調書」は雑学とも呼べないような些細な豆知識から2つの逆転を導く。倉石の推理がほとんど妄想だけに基づいているようにも思える気もするが。
「黒星」はかなり強引な話で、倉石の暴走に見えてしかたない。あと1つ目の事件は必要なのだろうか。
だが「黒星」があってこそ最終話「十七年蝉」が輝く。本格ミステリの住人みたいな犯人とそれをめぐる過去パートは普通は長編で描く物語の規模で、それを贅沢にも短編に落とし込み、これ以上ない結末で締めた、本作のラストを飾るにふさわしい一編である。
厳密に言うとミステリとしてはあんまり成立してはいないのだがw
倉石の無頼なキャラや、一話目から繰り出しその後も王道から一歩ずらして投げられ続ける変化球、シリーズ化あるいはドラマ化を見越したような個性的なサブキャラたち、これまで作者がほとんど描かなかったややエロい描写・設定などなど、かなり実験的な面が見え隠れするが、横山秀夫の短編集に期待する水準は楽々と越えつつ、いろいろ好き勝手にやってみせたような、個性豊かな作品である。
18.12.17
評価:★★★☆ 7