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ミステリ感想-『取調室 静かなる死闘』笹沢左保

2022年11月04日 | ミステリ感想
~あらすじ~
佐賀県で父子間によるものと思われる殺人事件が発生。だが被害者の息子の死亡時刻、犯人と目される父は遠く離れた北海道にいた。
鉄壁のアリバイを持つ冷徹な容疑者に「落としの達人」「取調べの神さま」と呼ばれる取調官・水木正一郎が挑む。


~感想~
取調室での攻防に重きを置いた刑事小説。いかりや長介主演で19作もドラマ化されている。(※シリーズ外作品も原作に採られている)
捜査や推理は最低限の描写に抑えられ、徹頭徹尾、取調室での一対一(※記録係除く)の直接対決が描かれる。取調官はたとえ真相を見抜いたとしても、犯人を自白させ決定的証拠を得なければ勝利とはならず、そのあたりの駆け引きの妙も面白い。
出版から数十年が経ち科学的捜査がいくら向上しても、この取調室での戦いは昔と変わることなく、不変なものでもあり古びていない。
ミステリ的にはアリバイが鉄壁過ぎて、逆にこれしかないという真相におそらく読者もたどり着いてしまうのだが、水木の推理力も卓越しているため実は早々に真相に気づいているが、自白を引き出すためここぞという場面まで温存しているという手法で、物語に説得力を持たせる。
アリバイトリックとアリバイ崩し、密室劇さながらの対決、ある意味で倒叙ミステリ的な趣向と読みどころの多い佳作である。


22.11.1
評価:★★★ 6
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