小金沢ライブラリー

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ミステリ感想-『太陽の坐る場所』辻村深月

2009年11月06日 | ミステリ感想
~あらすじ~
高校卒業から10年。クラス会に集まった男女の話題は、女優になったクラスメートの「キョウコ」。彼女を次のクラス会へ呼び出そうともくろむが、「キョウコ」と向かい合うことで思い出される、高校時代の「幼く、罪深かった」出来事――。よみがえる「教室の悪意」。28歳、大人になってしまった彼らの想いとは。


~感想~
痛いキャラを書かせたら若手随一……とそれは以前も書いたのだが、この作品ではその痛キャラぶりが全開で、あまりの痛さに途中で読むのを投げ出してしまい、筋を忘れて最初から読み返し――を何度もしていたら、さすがに伏線・誤導に気づき、あっさりと真相がわかってしまった。
そういう非常にもったいない読み方をしてしまったが、伏線は丁寧かつ大胆で、いかにもミステリらしい事件なんてものはまったく起きないにもかかわらず、巧みなトリックと意外性を忍ばせた物語である。
だがそんなことよりもやはり目に付いてしまうのは、辻村作品史上最強の痛さを誇るキャラたちで、もう痛さと痛さの競い合いをしているかのような激しさで、人によってはドン引きし、読み進めるのも辛いことだろう。
僕は何度も読み返したせいでトリックを味わえず、しかも痛さにあてられた口なので、この作品を正当に評価することはできない。このミス板などでは今年度の意外な収穫として名前が上がってもいるので、興味のある方は実際に手にとってみてほしい。


09.11.4
評価:★★☆ 5
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ミステリ感想-『リバース』北國浩二

2009年11月04日 | ミステリ感想
~あらすじ~
自慢の恋人をエリート医師に奪われてしまった省吾。あることからこの医師が彼女を殺してしまうと「知った」彼は、全てをなげうって奔走する。そんな省吾の執着に、周囲の人間はあきれ、次第に離れていってしまう。やがて、事態は思いも寄らない方向へ転じていく。痛々しいほど真っ直ぐな気持ちだからこそ、つかむことのできた「真実」とは。

~感想~
「信じないで後悔することと、信じて後悔すること、どっちが痛みが大きい?
同じ後悔するなら、信じたほうがいい。それで何も悪いことが起きなければ、笑い話がひとつ増えるだけだからね」



↑のセリフを見てもらってもわかるとおり、省吾の行動は半分以上、妄想の域に達していて、語り手で主人公でなければ、もし現実にこんなヤツがいたらと考えると、もうドン引きである。完全無欠にストーカーである。
しかも、あらすじでほのめかされた、元カノが殺されることを知った「あること」というのが、このくらいはネタを割ってもいいと思うから明かしてしまうが、サイコメトリー能力(物に触れることで、その物に残った思念を読み取る超能力。しかもこの作品では同時に未来予知までできる)という、創作にあたってなにか他に方法はなかったのだろうかと思いたくなるようなトンデモ設定である。
サイコメトリーおよび未来予知を根拠に元カノにつきまとう男に感情移入ができるのかと思われるだろうが、心配することはない。物語は中盤から急転直下の展開を見せ、思いもよらないどころか、ある種ベッタベタの結末を迎えるのだが、その過程で省吾のストーキングもトンデモ超能力もエリート医師の事件も、すべてが一つにまとまっていき、終わってみれば「泣けるちょっといい話」に落ち着くのだからすごい。「イニシエーション・ラブの乾くるみ推薦」と帯に書かれるだけはあるのだ。
昨今の「泣けなければ小説じゃない」とのたまうスイーツ(笑)から、乾くるみ(=イニシエーション・ラブ)ファンの本格マニアまで、誰しも満足させる良作であろう。


09.9.27
評価:★★★★ 8
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ミステリ感想-『矢上教授の午後』森谷明子

2009年11月04日 | ミステリ感想
~あらすじ~
矢上教授と誰もが呼び習わしているが、正確には教授ではなく、非常勤講師の身の上だ。ただし、70年配で白髪に白髯という風貌は、世間一般が抱く教授のイメージにぴったりくる。
所属は生物総合学部。にもかかわらず、矢上の専門は日本古典文学である。
そんな彼が大好きなミステリに囲まれ過ごす、夏休みの老朽校舎に謎の死体が現れ……。


~感想~
単に僕と合わないだけなのだろうが、平易な文体でありながら非常に内容がつかみづらく、「いまなにを話しているのか」「いまなにが起こっているのか」は理解できても、ほのめかされた裏の事実にいたるとさっぱりで、事件が佳境に入り、解決編へと流れていくにつれ、まったく話の流れを追えなくなってしまった。もちろん日常会話も同様で、知的(らしい)で英国風(らしい)な会話の妙味なんてものはまったく感じられなかった。
というか、昨今のミステリ界隈は特殊な舞台やウンチクを動員して、独自性を出すことに躍起になっているものが多いが、今作はせっかく大学、それも生物学を題材としながらウンチクというものがいたって薄く、交わされる会話も書いてる当人は軽妙なつもりなのかもしれないが、上滑りをしつづけて楽しみ方がわからない。
というか、僕は世界が女性だけになったら戦争は無くなると思っている程度にはフェミニストだということを予防線として張ってから暴言を吐くが、いかにも女性作家が書いた小説という空気が蔓延しており、ことに男性の描写ときたらもう「女から見た男」臭が全開で、見た目が軽薄な男には軽薄な中身しかなかったり、いくら70過ぎのジジイだといってもいまどきこんな口調の人間はいねえよという無茶なキャラ設定、絵に描いて判を押して説明書を付してJISの認可を受けて出荷したような男尊女卑の描写、などなどとにかく鼻についてたまらなかった。会話で楽しませたいなら、もうちょっと内容のある会話をしようよ……。
こうなってくると坊主憎けりゃなんとやらで、場面が変わるたびに章題の代わりに地名が表示される形式の小説に目次なんてものの必要性があるのだろうかと重箱の隅までつつきたくなってしまう。
とにかく僕に合わないお話(というか作家)だったので、合う人には合うんじゃないでしょうか。


09.11.4
評価:★☆ 3
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