「そこから煙が出てくるんだよ」
「ケッ?カラオケじゃないの。随分サービスがいいと思ったがな」
「タクシー強盗にあったら、ここのボタンを押すのさ」とハンドルの横をたたく。
「、、、、、、、、」あっけに取られているとまた後ろを振り向く。よく振り返る男だ。危なくってしょうがない。
そうすると、出てくるのは銀行や郵便局で強盗に投げつけると、色のついたコナが出てきて衣服に付着して取れなくなるマーカーみたいなものか、と聞くと
「カプサイシンさ、唐辛子のコナだよ」
韓国の暴力スリが捕まりそうになると警官に吹き付けるやつだ。そうとう危険なしろものじゃないか。こんなものを陸運局がよく認めるものだ。
この男はヤクザの親分の車を運転していたのだろう。ボディガード兼任で。こんなこともいった。聞きもしないのに得得としゃべる。そしていちいち振り返ってオイラの理解を確認する。よほど気があうと思われたらしい。それともヤクをやってハイになっていたのかも。
「右に思いっきりハンドルを回してから急ブレーキを踏むんだよ。客は反対側に飛び出すから」
「???、、、だってタクシーは止まっているんだろう」
「すぐに急発進できるようにしておくのさ。客が包丁を出したらすぐに急発進して右にハンドルを切ってから急ブレーキをかける。それから車外に出る」
なるほど、理論的だ。コマンドーみたいだ。コリャーどうしても親分のボディガード兼運転手だ。規制緩和でいろんな運転手が入ってきた。外人、リストラされたサラリーマンについても追々紹介しよう。
この男、小指の欠損はないようだった。背中のクリカラモンモンは確認出来なかった。いずれにせよ、この風貌では強盗もビビッて犯行を思いとどまるんじゃないかと思った。