アメリカ軍がイラクの都市部から撤退した。現在13万人のアメリカ兵が退いたわけではないが、来年8月末には戦闘部隊が撤退することになっている。オバマの計画は当面は実行される だろうが、スケジュール通りになる保証はない。
フセインが嫌ったアルカイダが、アフガニスタンにシフトするアメリカ軍へのけん制のためのテロ行為がここに来て活発になっている。イラク軍や警察の治安能力が疑問視されている。
アメリカ撤退後のイラクが抱える最大の問題は、フセインが抑え込んでいた民族対立と宗派抗争である。アメリカの侵攻を最も歓迎したのはクルド人である。今や自治どころではなく、石油の 輸 出まで行っている。逆の民族浄化が起きているくらいである。
ブッシュのバクダッドでの最後の記者会見で靴を投げつけた記者が英雄視されるように、イラクはアメリカ軍の撤退を歓迎はしている。他国の軍隊の駐留を望む国家などない。アメリカがフセインを倒した後の国家建設はいかにも手荒いものがある。しかしながら、それゆえアメリカの武力が一定の効果を持っていたことも事実である。イラク国民は喜びと不安が交叉する。
中東は第1次大戦後はヨーロッパ諸国が、第2次大戦後はアメリカそしてイスラエルが勝手気ま まに蹂躙してきた。そもそも“中東”という呼び名にしてもヨーロッパ視点であるし、国家の建設も欧米が思いのまま行ってきた結果の現状である。そこに今度はヨーロッパ型民主主義を定着させようとするのである。
イスラム国家が歩んできた歴史と伝統には、民主主義はもとより欧米文化とは相いれない側面がかなりある。普段でも大義があれば平気でうそをつくし、人のものを自分のものにする。一般人でもそれを悪いこととは思ってもいない。宗教間の対立も、欧米が際立たせたものである。彼らには長年培ってきた解決方法があるのである。
民族対立も宗派抗争もバックを失ったマリキには到底なしえない難題である。イラクは石油に依存することなく、自らを変える力をどこまで持つことができるかが最大の問題である。
左に<羅臼の小さな山>をアップしました。