そりゃおかしいぜ第三章

北海道根室台地、乳牛の獣医師として、この国の食料の在り方、自然保護、日本の政治、世界政治を問う

健全な牛乳を飲みたい消費者たちに知っていただきたいこと

2014-11-13 | マイペース酪農
下の写真は、10産目の子供をお産して起立不能になった乳牛です。血液中のカルシュウムが低くなる、乳牛ではよくある”乳熱”と呼ばれる病気です。
この乳牛は、10産目で初めての乳熱です。幸い一回の治療で起立し、今も元気に搾乳しています。ちょっと高齢なので、少し気を使った治療ををしました。
この酪農家にはこれより年上の牛が2頭います。搾乳頭数は、45頭ほどです。子牛まで入れても、80頭足らずです。家族は、本人夫婦と両親と子供3人の7人家族です。この頭数で十分一家が生活できるのです。日本最大の酪農地帯の根室地方は、酪農の大型化が進行して平均130頭飼育しています。ほぼ半分の飼養頭数です。
この酪農家は、ほとんど病気というものがありません。年間に診療代も、30万円足らずです。通常この頭数なら100万円以上は見ておくべきでしょう。牛が病気にならない酪農家は、獣医さんにとっては、お金になりません。
写真の牛もそうですが、治療への反応が良くて基礎体力が高いことが判ります。
一頭平均の乳量は年間6000キロ足らずで、この地域の平均の7割足らずです。牛舎も古く新しい投資はほとんどなく、穀物給与量も少なく、出荷乳量も年間250トンほどで、この地域の平均の600トンの半分以下です。
現在日本の酪農家は、多頭化・高泌乳化が進んでいます。特に大規模農家では、平均産次数(分娩回数)が、2.5産ほどになっています。3年も搾らないということです。牛全体が不健康で、若い牛しか飼えないといえます。この酪農家の牛は、驚異的に高齢なのです。
北海道の乳牛と言えば、青空の下で牧草を食べている印象がありますが、そうした健全な牛乳は北海道牛乳の5%にも満たないのです。多くの北海道牛乳は、閉じ込められた牛舎で大量の穀物を耐えられ、泌乳しています。北海道である必要もなく、北海道の特性などありません。
この農家は、生産量も低く牛舎も50年も使っていますし、近代的な機会がありません。もちろん負債などほとんどありません。この農家のような小規模の健全な農家は、国は支援をしてくれません。大規模・高泌乳こそ競争力があると、アベノミクスご推奨だからです。農家は規模拡大することで、機械屋さんや飼料屋さんや土建屋さん、それに獣医さんたちが忙しくなります。何よりも外部資本に委ねることで、お金の収支が経営の主体になって、牛の管理は二の次になり疎かになり健康が損なわれます。金の計算ばかりをする農家になって、牛もかわいそうです。
消費者の皆さんは、政府が進める、若く体力のある時にしか飼うことのできない、不健康な寿命の短い牛からの牛乳を飲んでみたいと思いますか? それとも健康な牛からの牛乳が飲みたいでしょうか?
(今年5月2日に書いた旧ブログを若干訂正して掲載しました)
コメント (5)
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