そりゃおかしいぜ第三章

北海道根室台地、乳牛の獣医師として、この国の食料の在り方、自然保護、日本の政治、世界政治を問う

人類が住めなくなる前に資本主義の対案が持てるだろうか

2023-01-13 | 気候変動

本書は、今月出版されたNHK「100分de名著「資本論」」を加筆修正したものである。著者の斎藤幸平氏は近著「人新世時代の資本論」で、近頃にない大ベストセラーとなったマルクス研究者である。メディアの登場も多くなり、現在東京大学に移っている。
本書の冒頭に、都会であくせく働く人と南の島の漁師の小咄を紹介している。
「なんでお前な毎日そんなダラダラしているんだ。もっと真面目に働いて金を稼げ」
「そんなに必死に働いて、貯めたお金で何をするんだい?」
「沢山稼いで引退したら、昼寝しながらのんびりと釣りでもして暮らしたいからさ」
「ああ、ぼくはもうそれやってるよ」と、いうのである。

著者はこれまでのマルクス経済学の研究者が訳書(多分)を読んでいたのに対し、現地で原書、しかも加筆訂正部分にまで及んで目を通し研究している。マルクスの草稿や手紙まで調査して、2000年に「マルクスのエコロジー」をフォスターが著わし、マルクスの評価の流れが大きく変わった。
我々は権威に粉飾された、マルクス研究者の”格式”の高い研究成果の披瀝を示されてきた。世界のマルクス学者の半数は日本人だとも言われている。硬直した思想が乱立する。左翼が分裂する原因もこの辺りにあるのかもしれない。
世界的に、斎藤氏のようにマルクスが晩年追及していたことに焦点を当てる人たちが増えている。

マルクスは生理学の用語を用いて経済活動(労働)を、「人間と自然の物質代謝」と呼んだ。つまり商品にどれほどの価値(商品価値)を与えようと、自然にその容量は限定されているというのである。労働は、人間と自然との間の一過程、人間が自然との物質代謝を行って規制し制御する行為と規定する。
これは「生命の網の中の資本主義」でも主題となっていることでもあった。
資本は無限に自己増殖する妄想に落ちいる。商品価値には上限はないからである。資本は儲けることが目的ではなく、新たな資本を求め増殖することが、自目的になってしまう
外的な制約を受けることを意識せずに、資本主義は無制限と思えるように発展する。自然を食い潰しながら。

本書は放送テキストを元にしていて、簡便な表現になっているが、結局はマルクスの資本論は第一巻の、使用価値と商品価値の規定が全てのような気がする。
人間には使用価値こそ求められるが、商品価値を資本主義は求め、環境を食い潰してゆく。不要なものも見せかけの商品価値を上げ、より高く、より多く売ることで、環境は悪化してゆく。資本はその責任をとることがないが、政治は責任をとらなければならないが、結局は国民の負担になるのである。
資本主義が発展し人類が住めないような地球になる前に、対案を人類が持てるだろうか。本書はその警告書であるが、それはとても悲観的なことである。
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