イラクではスンニー派とシーア派の宗教間の構想が激しく報じられているが、それは主に中部から南の出来事である。バグダッド周辺と言っても良い。2、30人の死者なら記事にならないほど、凄惨な抗争である。しかしここにもうひとつ、大きな抗争が存在するのである。
中東の歴史に勇猛果敢な部族として何度も登場するクルド族は、平地の砂漠の民ベドウィン族とは 対照的に、山岳に暮らしていた。20世紀のはじめに、ヨーロッパ諸国が国境線を引いた結果、クルド族は国境線で分断されることになったのである。
クルド族は、イラン、シリア、トルコそれにイラクに大きく分断されたのである。クルドは100年ほど前から、独立国家「クルディスタン」建国への道を模索している。中東で抗争がある度に、時には味方に状況によっては敵にと、クルドは良いように利用され続けてきた。
イラク憲法の作成にも「キルクーク条項」を設けて、アラブ化に抵抗をしている。これに大いに不満なのがトルコである。
1920年のセーブル条約で、クルドの建国を一旦容認した経緯があるが、トルコのアタチュルク政権が武力でこれを壊した。今又、国内に多くのクルド族を抱えるトルコは、国家防衛の名目で北イラクに侵攻しそうな勢いである。クルド族の拠点である北イラク地域は、反トルコクルド勢力(PKK)の逃げ場所になっているからである。
トルコは、政敵フセイン政権を倒すためにアメリカに協力したが、クルドが復活することは極めて都合が悪いのである。単純なアメリカは、ここでもPKKを使って、イラン侵攻を模索している。
中東は、西欧列国が国境を定めた不幸と、民族間の歴史的な衝突を抱える複雑な構図を持っている。更に、大量の富を産む石油が産出することが輪をかけている。ブッシュはノーテンキに、反テロ一本でここに侵攻したが、そのツケは数百年かかっても精算できないと思われる。