森鴎外「桟橋」(岩波書店「鴎外選集」第2巻)
冒頭の部分。
「白く日の光を反射してゐる黒い波」という切り詰めた的確な描写に「詩」を感じる。具体的な視力、肉体を刺激してくる視力を感じる。
頭の中には「白い波」ということばがある。波――というと「白い」という形容詞がどこからともなくあらわれてくる。
しかし白い波というものは本当は少ない。時化のとき嵐のとき――天候が悪いときにあらわれる。普通は波頭が白くなるというようなことはあまりない。
私たちは、ことばで風景を見ている。(風景を見てことばを発しているわけではない。)というか、ことばにあわせて風景を知らず知らずのうちに隠してしまっている。
そうした無意識を打ち破る具体的なことばが「詩」である。
冒頭の部分。
靴の踵や下駄の歯を噛みさうな桁の隙から、所々に白く日の光を反射してゐる黒い波が見える。
「白く日の光を反射してゐる黒い波」という切り詰めた的確な描写に「詩」を感じる。具体的な視力、肉体を刺激してくる視力を感じる。
頭の中には「白い波」ということばがある。波――というと「白い」という形容詞がどこからともなくあらわれてくる。
しかし白い波というものは本当は少ない。時化のとき嵐のとき――天候が悪いときにあらわれる。普通は波頭が白くなるというようなことはあまりない。
私たちは、ことばで風景を見ている。(風景を見てことばを発しているわけではない。)というか、ことばにあわせて風景を知らず知らずのうちに隠してしまっている。
そうした無意識を打ち破る具体的なことばが「詩」である。