「エレニ」は恋人の名前だろう。この詩も長いのだが、
後悔はもう、見えない音楽、暖炉の火、壁の大きい時計のチャイムに変わった。
この一行が、私にはいちばん印象に残る。「後悔(する)」と「変わった」が呼応する。そう、何かが「変わった」のだ。「変わる」という動詞は、この詩の中に、ここに一回だけ出てくる。しかし、それは随所に隠れている。
「見えない音楽、暖炉の火、壁の大きい時計のチャイム」の三つの「もの」は、どうつながっているか。つないでいたのは「エレナ」だろう。つまり「エレナ」が「変わった」言うことなのかもしれないが、詩人が「変わった」のだとエレナは言うかもしれない。
それは、区別がつかない。
ただ「変わった」ということだけがある。そして、悲しいことに「変わった」と理解するのは「変わらない」何かである。それが「後悔」を支えているというと奇妙な言い方になるが、「変わらない」何かがあるからこそ「後悔」が生まれてくる。
この「後悔」と「変わった」の呼応が、「後悔はもう、」の読点「、」(呼吸の変化)に深く沈んでいく。
長い詩だが、ここには、その深い沈黙がある。たくさんのことばが書かれているが、そのことばが生まれてくる「底」に沈黙がある。沈黙から生まれ、沈黙へ還っていく、詩人のことば。
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