和辻哲郎全集第七巻。「ボリス的人間の倫理学」。この本は、和辻によれば、先人の研究などをたよりに、その考えを「まとめたものにすぎない」(「序」、153ページ)。だから、これは意地悪い見方をすれば「剽窃」の部類かもしれないが、こうしたことを「剽窃」と呼ばないのは、林達夫の「タイスの『饗宴』」が書いている通り。林達夫と和辻は、この「剽窃」かどうかをめぐる「構想力」という考え方で共通していると思う。また、人間の「構想力」を考察するときに、個人を社会に還元しながらとらえるところで共通すると私は感じている。
その「構想力」について、和辻は「構想力」ということばをつかっているわけではないのだが、183ページに、こんなことを書いている。
ポリスは(略)部族と部族との結合によって漸進的に成ったものとはいえない。それはむしろ氏族や部族の崩壊、従って氏族的段階からの飛躍によって、すなわち否定の契機の入り来たることによって、できあがったのである。
「飛躍」を生み出すのが「構想力」であり。そして、その「飛躍」には、すでに存在するものを「否定する」ことによって成り立っている。先人の研究をまとめるとき、それをただ単に「集める」のではなく、あるものは「否定し」、あるものは肯定し、整理し(まとめ)、まだだれも書いていない「世界」へ「飛躍」するのである。「飛躍」するためには、「構想力」が必要なのだ。
そして、この「構想力」を補足するのに、和辻は「原理」ということばをつかっている。途中を省略するが、こうつづいている。(183ページ)
ポリスは単に氏族が拡大されただけのものではなく、氏族の否定において、氏族と異なった原理によって発展してきたのである。
その「原理」を見出すために、和辻はことばを動かしているとも言える。
何かを「否定する」とき、その根拠になるのは、それまでと「異なった原理」である。「構想力」はその「原理」を直観的にとらえている。ここから「個人」というものの存在が浮かび上がるのだが、書いていると複雑になるので、きょうは省略。ただ、この「個人」が「倫理」と関係していることは、和辻の文章を読めば、おのずと理解できる。和辻は、こんな文章を書いている。(199ページ)
ポリス的人間はポリスにそむいて個人となることができる。この否定の契機にこそ倫理学が発生する地盤が存在するのである。
私は、ここでも「否定の契機」ということばがつかわれていることに注目しているのだが、210ページには、こんな文章もある。
ポリスが人倫的組織であり、人倫の実現であるということは、私的存在の主張によってかえって明らかにされる。(略)ポリス的正義の意義は、私的な正義の主張と対比されることによってかえって発揮されるのである。
「倫理」とは、そこに何らかの「飛躍」を含む、「原理」とはなんらかの「飛躍」を含むものである。そして、そこには「構想力」が常に働いている。
どこに書いてあったか、急いで読み返していると見つけられないのだが、どこかに「道」ということばがあった。「道」は「倫理」であり、それは「生き方」でもあるだろう。私はいつでも「古寺巡礼」に出てきた「道」に引き戻される。
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